憂鬱とダンス
――夕食時。
「よく来てくださったな! 夕貴君、藍君! 今日は思う存分食べていってくれ。柏木はこう見えても料理もうまいのだ!」
「こう見えてもと言うのはどういう意味でしょうか?」
「ワッハッハッハ! 気にするな!」
そこには豪快に笑う源次さんの姿があった。
縦長の食卓には所狭しと料理が並び、見たことももちろん食べたことも無い高級食材が大盤振る舞いだ。おぉ、三大珍味勢揃いか。
「みんな遠慮せずに食べてくれ、一日早いが前祝いだ! 今夜は飲もう! アハハハハ!」
そして源次さんによく似た竜宮寺さんの笑い声も響いていた。
そういえば竜宮寺さんはお見合いについて何も愚痴を漏らしたことが無い。むしろ相手の事を褒めていたり、これで家が大きくなるとか、前向きなことばかり言っていた。
それが本心だったらいいんだ。
でも。
僕は源次さんの話を聞いてから竜宮寺さんの考えが気になってしょうがなかった。本当に彼女は結婚に前向きなのか、自己犠牲に酔っているだけなんじゃないか、そんなことを考えてしまう。
「おにぃ、このよく分からない料理おいしいよ!」
隣に座った藍が無邪気にトリュフを食べていた。もう少し味わいなさい。でもそんな無邪気な姿がとても微笑ましく、暗くなっていた気持ちが少し明るさを取り戻したような気がした。
「今日は歌って踊っちゃうよ!」
グラスに入ったぶどうジュースを一気に飲み干して僕は言った。
そうだ、考えても始まらない。
僕はお見合いを上手く行かせて、ずっと竜宮寺さんの友達でいる。それでいいじゃないか、それが望まれているし、僕ができる最高のことだ。
「おぉ!? なぜか夕貴のテンションが高いな! よし私も踊るぞ! 柏木、演奏しろ!」
「かしこまりました」
どこから持ってきたのかバイオリンを構えてクラシックを演奏する柏木さん、本当に何でもござれの無敵超人だ。
「むむ? 踊りなら藍もいける口なのですよ!? 混ぜてぇ~!」
藍も立ち上がり踊りだす。
あぁなんだろうこの状態は、僕が変なテンションになってしまったが故に状況がカオスだ。食事の途中なのに踊ってるよ、そしてクラシックな演奏の中ブレイキングダンスをする妹は見たく無かった。
「アッハッハッハ! 楽しいなぁ、夕貴!」
竜宮寺さんも僕の手を取りご機嫌に踊る。言いだした僕が言うのもなんだけど、そろそろ普通にご飯が食べたいよ、高級食材が白い目でこっちを見てる気がするんだよ。
「まーわる~まーわる~よ、せかい~はまわる~!」
そんな僕の願いは叶う事無く、源次さんも踊り始めてしまった。というか回り始めてしまった。
なんでだろう、さっきまでは凄く真剣に考えてたはずなのに、今は馬鹿みたいに回って、踊ってる。僕の些細な一言で場の雰囲気が変わっていた。いや、源次さんはやけになってるだけかも知れないけど。
なんだ、こんなちっちゃいことで雰囲気って変えられるんだ。
そんなことを無理矢理考えて、この状況を意味のあるものにしたいと思ってしまうくらいに僕は自分の行動を後悔していた。
「もう……許して……」
ついには口に出してそう言ってしまっても踊りは続き、結局食事が再開したのは三十分も後のことだった。
なんというかその。
みんな、自分らしくない発言には気をつけよう!
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