お父さん
「夕貴様。ご主人様がお呼びです」
プールで遊び終わって案内された客間で三人でトランプで遊んでいると、柏木さんがドアを開き僕の名前を呼んだ。
「なんだ柏木、パ――いやお父さんが夕貴に何の用事があると言うんだ」
僕が返事をしようとすると竜宮寺さんが遮る。
「「花音には絶対秘密にせよ」との事ですのでお嬢様にはお話できません」
「そこまではっきり言われると聞くのが悪い気がしてくるから不思議なものだ」
「お嬢様の性格は分かっておりますので」
笑い合う二人は仲の良い姉妹の様にも見えた。
「夕貴、済まないが呼び出しに答えてやってくれ」
竜宮寺さんが言った。
「お世話になってる家の人に呼ばれたら行くけど……なんの話かな?」
「ねぇ~藍は~? 藍は行かなくていいの?」
「藍様はお嬢様と一緒にいてください。ケーキと紅茶をお出ししますので」
横やりを入れた藍に柏木さんが答える。藍は僕の事を心配してくれたのだろう。
「夕貴、とりあえず行ってみてくれないか」
「う、うん」
竜宮寺さんが嬉しそうな顔をして言う。僕にはその表情の意味が分からなかった。
「それでは案内致します」
柏木さんがドアを開けてくれたのでモフモフのスリッパを履いて外に出る。
「おにぃ! 襲われそうになったらちゃんと抵抗するんだよっ!」
「藍くん、君は私の父を何だと思っているのだ?」
閉まりかけたドアから聞こえた二人の声が気持ちを和ませる。
「こちらです」
柏木さんの案内で歩を進める。廊下は後に続いて歩いていなければ迷ってしまうほど広い。完成された装飾が余計に特徴を失わせて、迷路のように感じた。
一人になったら完全に迷子フラグだな。
「ご主人様は、お嬢様に負い目を感じておいでです」
柏木さんが不意に口を開いた。それに合わせて歩くスピードも落ちる。
「負い目、ですか」
「えぇ、ご主人様は今回の様な政略結婚は本来しない方です。しかし今回は相手方に求められて仕方なくお受けしたのです」
「は、はぁ」
そんな事を急に言われても、僕の頭に浮かぶのは「お金持ちはお金持ちで大変なんだな」くらいだ。
柏木さんが足を止める。急に止まったので僕はぶつかりそうになってしまう。
「私はあなたに期待しています。あなただからこそできる事があるはずです」
静かな声が震えている様な気がした。
「何のことですか?」
柏木さんは返事をしてくれなかった。再び歩き出し、他の部屋と比べても一回り大きいドアの前に着く。
柏木さんがドアをノックする。
「入ってくれ」
声に従って柏木さんがドアを開ける。
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