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女装男子とお見合い前のお嬢様とブラコンの妹。  作者: 岬ツカサ
二、女装男子と嘘とお見合い
25/57

お父さんと柏木さん

 車を走らせて数十分、まさにお屋敷と呼ぶに相応しい豪邸の中に車が入っていく。アニメで出てくる様な噴水付きの庭では無いけど、整備され人工芝が一面に広がる庭は壮観だった。テニスくらいだったら庭でできるんじゃないか、これ。

「では入ってくれ」

 竜宮寺さんに促されて屋敷の中に入る。

「やぁやぁ、よく来てくださった、お嬢さん方。花音が世話になっているようで、お礼を言わせてもらいたい。それにしても可愛らしい。花音が「可愛い、うんマジで」と言うだけはある」

 髭を綺麗に整えた背の高いおじさんが僕たちを迎えてくれた。そんな、可愛いだなんて……もっと褒めて。

「ち、父だ。不躾で申し訳ない」

 言われて見れば顔立ちが竜宮寺さんと似ている。ハンサムなお父さんだ。

「なんだ花音、いつものようにパピーと呼びなさい」

「一度もそんな風に呼んだ覚えはないッ!」

 ドゲシ! 竜宮寺さんのキックがお父さんの後頭部にヒットする。

「ハハハ、パパだったな。見栄を張っていては疲れてしまうぞ。彼女らはお前の友達なんだろう? 素を見せてこその友情だ」

「わ、わかっている!」

 竜宮寺さんがタジタジだ。さすが竜宮寺さんのお父さん、豪放磊落な性格だ。

 それにしても竜宮寺さん、お父さんに対してもその言葉使いなんだね。

「は、初めまして、花音さんのクラスメイトの高城夕貴です。本日はお招き頂きありがとうございまちゅ……」

「よく来てくれた。竜宮寺源(げん)()、花音の父だ。いや、父でちゅ。源次と呼んでくれ」

「やーん、おにぃったら噛んじゃってかわいぃ~!」

「夕貴は本当に萌えの塊だなぁ。うむ、素晴らしい」

「ワーハッハッハ!」

 藍がニヤニヤ。さっきまではなぜか不機嫌だったくせに今はもう上機嫌だ。竜宮寺さんも変な感心はしないで欲しい。

「うむ、ゆっくりしていってくれ。といっても明日は見合いだからゆっくりできるのは今日だけじゃがのう。明日が無ければワシが直々にもてなしをしたのだが、是非もない」

「今日は私がもてなすよ、私の仕事は明日だからな」

「はいはーい! 私プール入りたい! 豪邸と言ったらプールだよね!?」

 藍が無邪気に手を挙げてブンブン振り回しながら言う。いや、さすがにプールは無いんじゃないかなぁ。

「うむ、ではプールにするか。柏木!」

「あるんだ……」

 お見合いしないと家がまずいって言ってたくらいだからここまでの豪邸は想像していなかった。というか、これ以上裕福になる必要があるのかな。

 竜宮寺さんが手を叩くとメイドの格好をした人が即座に姿を表した。

「はい、お嬢様!」

「水着を三人分用意してくれ」

「かしこまりました」

「いやでも、水着のサイズとか分からないんじゃ……」

 僕が心配して声をかけるとメイドさんがこちらを向いて目を細める。あれ? この人よくみたらさっき車を運転していた人だ。メイドって色んな仕事をするんだな。

「失礼いたします」

 テクテク。

 一言断って柏木さんが僕と藍の間を歩き、後ろに回って振り返る。何をしているんだろう。

「サイズを測らせて頂きました。水着を用意して参ります」

 えぇ!? 今の一瞬でスリーサイズを測ったって言うの!? は、速すぎる。

「あぁ! いつの間にかメジャーを持ってる!」

 藍が驚愕しながら言った。確かに柏木さんの手にはメジャーが握り締められていた。あの速度で測れるってことはその速度で人間を縛れるってことか……ごくり。是非ご教授願いたい。

「失礼します」

 柏木さん一礼すると姿を消した。

「うむ、ではプールに向かうとしよう。こちらだ」

 竜宮寺さんが手で道を指しながら足を進める。

 着いたのはプールの脱衣所。そこにはすでに水着が用意されていた。

「はや~、あの柏木って人本当にすごいね~」

 藍が面をくらった様子でいるけど、僕はある問題に気付いていた。



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