お見合いリハーサル!
――そして翌日。
「これより、第一回! ムニムニ! 私を可愛くする会を、開催するッ!」
放課後の空き教室、竜宮寺さんが人差し指を振り上げてからビシっと前に突き出しなにやらかっこいいポーズを決めて盛大に叫んだ。というか、ムニムニってなんなんだろう、そこはチキチキ! ではないのか? いやそもそもチキチキって何なんだろうとか、僕の頭の中はグルグル回る。
「わぁー……」
パチパチと礼儀程度の拍手で盛り上げる。こんな扱いでも竜宮寺さんは満足そうに頷いている。今日の特訓が楽しみで仕方無いと言った様子だ。
「さて、それでは夕貴、さっそく頼むぞ」
「うん、主に頑張るのは僕だもんね。任せておいてください」
「うむ、心強いな!」
竜宮寺さんはこれから起きることに期待をして目をキラキラさせていた。約束は約束だから、昨日の夜家に帰ってから竜宮寺さんを可愛くする方法を色々考えた。
「えと、実は僕には妹がいて、今回のことにも協力をしてもらったんだ」
「うむ! あの可愛い子か!」
ん? 竜宮寺さんは会ったことがないはずなんだけど……あ、風呂を覗いた時に見たのか。こんな友人を持ってしまってごめんね、藍。
「うん、その可愛い子が、竜宮寺さんのために考えてくれた作戦が~こちら!」
ジャジャン! 後ろ手に持っていた台本を取り出す。
「ん? なんだそれは?」
「これはお見合いで相手から聞かれる質問をまとめたものなんだけど、これを使って可愛く受け答える練習をしようと思ってね」
これは藍が考えてくれた作戦だ。アイデアが浮かばなかったから相談したんだけど、快く引き受けてくれた。優しくて自慢の妹です。
「おぉ~、これはいいかも知れないな! 早速やってみよう」
竜宮寺さんは意を得たりといった様子だ。
「じゃあまずは何も練習しないでやってみようか。竜宮寺さんが素で受け答えると問題があるのかを見てみたいし」
「あい分かった! やってみよう」
その返事の仕方に不安を感じるんだけど、まぁいいか。
イス二つを向かい合わせて、お見合いの席を少しでも再現する。二人向かい合って座ると目が合った。竜宮寺さんの目は「いつでもこい!」と言っているようで、準備は万端らしい。僕は台本を片手に質問を開始する。
「ご趣味は?」
これってドラマとかでも絶対聞かれるもはや予定調和な質問だよね。
竜宮寺さんもこれくらいは普通に答えられるだろう、いや答えて欲しい。料理とか編み物なんて家庭的なアピールもできるし、可愛いとも言えなくない。
「スクワットなどを嗜みますわ」
「なんでわざわざスクワット指定なの!?」
予想の斜め上のさらに斜め上だった。しかしここで止めてしまっては話が進まない事はここ数日で分かっている。今は我慢して次に進めよう。
「え、えーと。どんなスクワットをするのですか?」
あ、これ相手の趣味に合わせて会話をするように作ってあるからスクワットが趣味な時点でおかしな方向に進んでしまった。
「ヒンズー、ジャンピング、フル、ハーフ、シングルレッグ。最近では上級者向けのフルボトムスクワットにも手を出してしまいまして。オホホホホ」
スクワットにそんなに種類があったことに驚きだ。本人的には可愛く見せているつもりなのかも知れないけど、勘違いも甚だしいね!
「それは興味深いですね。私も是非ご一緒したいです」
いよいよ台本が神懸かった返しになっている。是非ご一緒してどうするつもりなのだろう。
一緒にスクワットをして結ばれるのは部活での絆くらいのものだ。
「ええ、是非お願いしますわ」
竜宮寺さんは「うまくやったった!」みたいな顔をしているけど、全然よろしくない。
「こほん、では花音さんから私に何か聞きたいことは無いかな?」
「えぇ、では失礼かも知れませんが――」
急にモジモジする竜宮寺さん。お? これはなかなかいい感じなんじゃないか?
「――年収は?」
「アウトー!!」
余りの節操の無さにここでシミュレーションは中止。
「な、なぜだ!? この上無く自然な会話の流れだっただろう! 私の可愛らしさもポテンシャルの底が見えん!」
なぜ今の会話でそこまで自信を持てるのだろう。不安だったけどやってみたら意外とイケるじゃん自分、とか思ってしまったのだろうか。
理由の無い自信を持つのは若者の特権だけど、ここではまったく必要じゃない。
「うん、やっぱり竜宮寺さんの素では間違いなく問題あることが判明したね」
「えー! そんなことな――」
「だからこれからは僕が考えた可愛い女の子の性格、容姿をいくつか試してもらう! いいね!」
「――う、うむ。夕貴、いつに無く強気だな。そんなキャラだったか?」
「いいね!?」
「う、うむ。元々私が頼んだのだからな、頼むよ」
竜宮寺さんの了承を得た。
さぁて……ここからは僕の独壇場だ!
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