キマシタワー
「夕貴ちゃんは……可愛いよね」
茜さんが空いている方の手で僕の頬を撫でる。僕の肌はツルツルモチモチだと自負している。茜さんの目が座っている様に見えるのは気のせいだよね?
「あ、茜さんも可愛いよ?」
僕はこみ上げてくる何とも表現しがたい感情を隠すために笑顔で言葉を返す。
「ありがとう、うふふ、これから楽しみだね」
茜さんは満足したようにニコッと笑うと頭を僕の肩に預けた。
僕はどうしていいのか分からずに身動きがとれない。楽しみってこれからの学校生活がってことかな? そうだよね、何て言ったって僕達は高校に入ったばかりなんだ。
「夕貴! みんなすごいぞ! なんというか、とても可愛い!」
そんな僕の所に興奮した様子の竜宮寺さんがやってきた。いつの間にか席を移動して色んな人の所に行っていた彼女は、偶然か分からないけど僕が困っているタイミングで帰って来てくれた。
「ど、どうしたの竜宮寺さん」
「可愛さの秘訣が分かったかもしれない。夕貴の言ったとおりだな! ここには可愛さの秘訣がいろいろと転がっている」
あー、そう言えばそんな理由で誘ったような気が……。
「うん、でしょ!? 例えばどんな発見があった?」
僕は竜宮寺さんを誘った名目をさも覚えていたように振る舞う。しかし竜宮寺さんは僕の様子など気にしないで嬉しそうに話し続ける。
そして肩に乗った茜さんの頭が持ち上がり、竜宮寺さんの方を向く。繋がれた手により一層の力が込められたのはなぜだろうか。
しかしそんな茜さんの視線を気にすることなく竜宮寺さんは続ける。
「うむ、まずはマイクの持ち方だ! 小指をピーンと立てるとかわいい!」
「うん、あれって無意識になるのがいいよね!」
意識してビンビンに立たせていたらちょっと引いてしまうけど。
「そして飲み物の持ち方だ! 両手で持つとなにやら可愛らしい! なぜだ? 心がざわつく!」
確かにちっちゃい両手でコップを持つ姿は萌えがある。特に普段は勝ち気な女の子がそれをやっていると最強だ。特に巨乳だったりすると、そのコップの中身が谷間溜まるんじゃないのかい? とか考えてしまう。
「そして暗闇! この薄暗い空間が可愛さを何割か割り増しさせる」
それに至ってはもはや可愛さの秘訣でも何でも無かった。
「ふふふ、今日だけで私の可愛さは跳ね上がったに違いない!」
「満足したようで何よりだよ」
もっと他に注目すべき点は色々あったと思うけど、花音さんが満足しているなら僕はそれでよかった。
「うむ、もっと観察してくる。なぁ山口ー!」
花音さんは奥の席に座っている山口さんの方に行った。
お見合いのことを話しているかは分からないけど、僕以外の人にも話を聞いて可愛さを学んでるみたいだし、花音さんを誘ってよかった。
本人は気にしてないようだったけど、自己紹介の時の事もあって彼女はクラスから少し浮きそうになっていたから少し心配だったんだ。
「ほったらかし……」
竜宮寺さんが行った後、茜さんが不機嫌そうに唇を尖らせていたけど僕にはかける言葉が見つからなかった。
その後も僕は歌う事もなくカラオケ会は幕を閉じた。多分皆にはカラオケに来ても歌わない人だとインプットされただろう。
「やー、楽しかったね!」
「やっぱり女同士って楽でいいよね! 友達できてよかった~」
店を出た所で皆で話していると茜ちゃんが傍に寄ってきて耳打ちをした。
「今度は二人で来ようね」
「え?」
「なんでもない! この後お茶していくけど、夕貴ちゃんは来れる?」
「ぼ、僕はもう帰らないといけない、かな」
別に行かない理由は無かったけど、茜ちゃんとこれ以上一緒にいるのは少し怖い気がした。
「私も今日はこれで帰るとしよう」
「そっか、じゃあまた遊ぼうね。みんなぁ~、二人が帰るって!」
「じゃーね~」「バイバーイ」「またねー」
こうして初めての女子だけでの遊びは終わった。
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