女子力とカラオケ
二、女装男子と嘘とお見合い
昼休み、自分の席で母さんの作ってくれた弁当を食べている。竜宮寺さんと一緒に食べようと思っていたのに昼休みになった途端彼女はどこかに消えてしまっていた。
仕方なく一人で食事を進めているとクラスメイトの一人が僕に声をかけてきた。
「高城さん、今日の放課後空いてる?」
「うん空いてるけど……えーとごめん。まだ名前覚え切れてなくて」
「あはは~、いいよいいよ! 私は新妻 茜。帰宅部です!」
特筆すべき所はそこでいいのだろうか。冗談を言う彼女の頭には二つの大きなお団子があって物凄い存在感を出していた。このお団子の中にどれだけの髪が収容されているだろうか。
「えーと新妻さん、放課後ってなにかするの?」
「茜でいいよ。私も夕貴ちゃんって呼ぶから。うん、予定空いてそうな子を誘ってカラオケでも行こうかと思ってさ」
あぁ、なんかまともな女の子って感じだ。初めて友達になった女の子が竜宮寺さんだったから、茜さんみたいな子が相手だとなんかほっとする。
「ん~じゃあ行こうかな」
特に用事も無いし。そうだ竜宮寺さんも誘ってみよう。
「あ、ホントに? じゃあ他に一緒に行きたい人とかいたら誘っておいて! 誰でも呼んでいいから。ただし、女の子限定!」
ビシっと人差し指で斜め上を刺す茜さん。そのポーズにはどんな意味があるのか。
「分かったよ、じゃあ放課後ね」
「オッケ~! 一応部屋の予約入れとくよ!」
そう言って茜さんは走り去り、他のクラスメイトを誘っていた。
「何の話だったんだ?」
左後方から突然声がした。振りかえり見ると竜宮寺さんの顔が近距離にあった。その距離、実に五センチ。ちょっと後ろから押されたらくっ付いてしまいそうだ。
「竜宮寺さん!? いつから居たの!?」
「今からだ。ただしあいつと話してるのはずっと見ていた」
「今じゃ無いし、なんでそんなことするの!?」
「アッハッハ、趣味だ」
彼女の表情は自信に満ちていて、さも正しいことを言っているように見える。
「いや、そんな趣味許容されないから!」
「心が狭い人間は嫌いだな、私は」
「まさか僕が責められる結果になるなんて思っても無かったよ」
「それで、何を話していたんだ? お姉さんに言ってみろ」
手招きをして説明を促す彼女。なぜこうも自分勝手なのに憎めないのか。
「放課後にカラオケ行きませんかって」
「それで、君は了解したのか?」
「うん」
「このバカチンが!」
ペチンとデコピンがヒットする。痛い。
「いや! 何がバカチンなの!? 暴力反対だよ!」
僕が悪いなら謝るけど、現時点ではまったく身に覚えが無い。
「私を可愛くすると言ったのは嘘だったのか?」
「え? いや、何にも言ってこなかったから別にいいかなぁって」
「その受け身の姿勢がゆとりと言われるのだ! 動け、まず動け! 行動こそ正義!」
「この場合動くべきなのは竜宮寺さんだと思うけど」
「問答無用だ! 放課後、三階の空き教室に来い!」
「だから放課後はカラオケに行くんだって!」
「カラオケなんて言ってる場合か! 昨日私に約束をさせておいてなんだその態度は! そう、約束……いきなり真面目になってふふ、や、約束っ」
く、僕自身も後で思い出したら少し青春しすぎちゃったかなと思っていたけど! 人に笑われると恥ずかしさが比較にならないよ。
この場を上手く乗り切る言葉……うん、ちょろい。
「カラオケには可愛く見せるコツがいっぱい隠されてるんだけどなぁ~、竜宮寺さんもそれを見に付ければお見合いがうまくいくかも」
「ぜひ参加しようじゃないか! いいなカラオケ! 万歳カラオケ! カラオケ最高ォ!」
ちょろいとは思ったけどそれでも驚くほどの変り身の速さだった。
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