女装男子の信念
一、女装男子と嘘と彼女
目の前には二つの選択肢がある。
一つは正直に全てを話す事。
一つは嘘をつく事。
迷うまでも無い。僕は嘘をつく事を選んだ。
容姿端麗、清楚清純、歩く姿は百合の花。鏡の前にいるのはまさに女の子の代表格。
華奢な体に黒髪ロングのサラサラヘアー、白いダイヤと双璧を成すのは僕の瞳だと絶賛審議中だ。
「あ、アッ~!」
練習した作り声も完璧だ。実に女の子らしい、可愛いくて高い声。
憧れのセーラー服に袖を通し鏡に向かって微笑む姿は我ながら天使に近いと思うのだ。
今日は高校の入学式、これから僕の新しい人生が始まる。
可愛くいこう、いつもいつでもいかなる時も!!
入学式が終わりクラスごとに分かれての自己紹介タイムに入っている。
席順の順番で、一人ずつその場で立ち上がり挨拶をしていくシステムだ。全国各地でこのシステムが採用されてると思うけど、僕は思うんだ。このシステム……相川さんとか相沢さんが不利すぎないか? 毎回毎回先頭で挨拶させられるなんて、どっかの大統領張りに演説がうまくなってしまうではないか。
僕は緊張の余り余計な事を考えながらも、あの子の髪型かわいい今度真似してみよう。あの子の話し方も可愛いな、参考にさせて頂きますよこの策士が! 何て事も考えてしまい、自分には真面目に考えることが向いて無いんだなと痛感した。
皆の自己紹介を聞いていると、自分の順番がすぐに回ってきてしまった。緊張による足の震えを抑えながら僕は立った。
「初めまして、高城 夕貴です。少し遠くから来たので知り合いの人が誰もいません。よかったら声をかけてください」
ふー、なんとかなったかな。少し心配していた声も大丈夫だ、意識しないでも女声を出せている。
僕は一安心して席に腰を下ろす。そして次の人の自己紹介が始ま――らない?
どうしたのだろう、僕はなにか変なことを言っちゃったのか?
静寂が教室を包み、響くのは僕の鼓動だけ。
まさか……バレてしまったのだろうか、僕の秘密。
僕が、女装をしているということ。
しかし次の瞬間、僕の心配とは全く違った事を男子が呟いた。
「か、可愛い……っ!」
その一言から皆次々と口を開き、永遠とも思えた静寂が弾け飛ぶ。
「あの華奢な体躯に綺麗な黒髪、そして淡く輝くピンク色の唇に真珠のように清らかで清純な目! あぁ地上に舞い降りた天使が俺の目の前にいる!」
「クッ! この世に生まれてよかったーッ! オレは今! 神に伝えたい! ありがとうと!!」
「ボ、ボキの大好きなメイコたんよりきゃわいいでござる! デュッ、デュフフフ!!」
え? なに僕? 僕の事? 僕やっぱり可愛い!? いやー、天使とか言われると照れちゃうなぁ。そしてグルメリポーターばりのコメントをくれた男子は放送部の資質があると思うんだ。
でも褒められるのは嬉しいけど、これで余計に注目されて、女装がバレちゃうかもしれない。それは困る。困るけど、もっと褒めて! いやでも駄目だ。ここは大人しくできるだけ目立たないように!
僕の中で二律背反の欲望が暴れて、何とか理性が勝利を収める。
唐突だけど、僕は可愛い物が好きだ。
だから自分のことも女装する事で可愛くした。
僕としては当然なことなんだけど、普通の人が理解してくれないことは分かっている。皆に嘘をつくことになってしまうのは少しだけ心が痛いけど、仕方がない。
周囲がざわめく中、最前列の女の子が立ちあがり、クラス全体を見える様に立って大きく口を開けた。
彼女の動作に気付いたのは多分僕一人だけだった。
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