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第七十一話 鳳上灯

 鳳上灯、彼女はこれまで才にも家柄にも恵まれ大きな挫折もなかった。幼少からアルマの製造で名を馳せていた鳳上家での教育を受けていたのもあり、当然ながらこの学園にも主席で合格すると思い上がりでもなく考えていた。


『この私が……次席?』


 だが、その合格通知に書かれていた文字は彼女の期待を裏切っていた。筆記も実技も大きなミスをしたわけではない。しかし、彼女を試験で上回る存在がいるというのも事実であった。

 まず一つ目の挫折は入学時、それでも簡単に心が折れるわけではなく自分の現状を冷静に俯瞰すると、学園で努力を続けて主席である一ノ瀬を上回ろうとした。事実、彼女の実力は学園に入る前から確実に上がっており、Aクラスでも一ノ瀬を除けば敵なしといった具合になっていた。


『クラス対抗戦、ここでこそ』


 ようやくヒビの入った自尊心が修復されて来たころ、鳳上は一つの考えを巡らせていた。クラス対抗戦、これで優勝するようなことがあれば自他共に認める学年で一番の存在になれるはずだ。一つ、気がかりなことがあれば、


『あーあ、今日の合同演習は期待してたんだけどなー』

『そういえば探している人がいると言っていましたわね、誰ですの?』

『僕が倒せなかった人、かな』

『え?』


 いつかの雑談でぽろりと一ノ瀬が口にしたその言葉。入学の時の実技試験にて、一ノ瀬はその圧倒的な力を持って数々の受験生を圧倒していた。その数と力を聞いて、自分が当時の一ノ瀬に勝てなくと仕方ないとまで思っていたのだが、そんな彼でさえ決着がつかなかった人物がいるというのだ。

 しかし、その人物と出会うことは合同クラス演習では叶わなかったらしい。それだけの能力を持つ人物となれば、他のアルマ系の学園に行ってしまったのだと考えていた。


(あのFクラス……っ!)


 だからこそ、クラス対抗戦前の集会で出会った谷中光一という名をしたFクラス代表が一ノ瀬と互角に闘ったと彼自身の口から話された時は到底信じられなかった。カマをかける目的で話しかけたが、それでもその雰囲気は一ノ瀬に迫るようなものはなかったはずだ。

 それだというのに、クラス対抗戦の開幕でそれは大きな間違いだと強制的に気づかされた。自分の最大の一撃である熱線アポロンゲイザーはただの右腕で止められ、格闘術では完敗。情けなく背を向けて逃げるのが精一杯であった。


 光一が追って来ていないのを確認すると、鳳上はその場に降り立って近くの木にもたれかかる。殴られた脇腹が痛み、自分で自分を抱きしめるように両腕を交差させた。


「はぁっ……がっ!」


 痛みよりも目の前が歪むような不快感が強い。Fクラスといえば、意識もしたこともないほどの存在のはずだが、それに手も足も出なかったという事実が心に黒い影を落とす。

 ただ、その黒い影は精神を冷たく深く落とし、鳳上の目からハイライトは消えながら集中力を高めていった。


(あの男を倒す、一ノ瀬も倒す……全員潰せば私こそが……)


 どす黒い感情のまま痛みが収まったのを見て、彼女は飛び立つ。このひび割れた心は勝利でこそ癒せると考えて、次なる獲物を探していたところで地面を這いまわる人影を遠くに捉えた。


熱線アポロンゲイザー


 自身の力を誇示するように能力名を呟き右手をその人影に向け、熱線アポロンゲイザーを放った。


「うわっ!」

(防がれたっ!?)


 熱線アポロンゲイザー の先にいたのは国崎であった。彼女がいたのが森の中ということもあって、彼女に直撃する前に木々を突き破った音が耳に届き寸前のところで反応できたのだ。熱線アポロンゲイザーを剣で防ぎ、腰を回転させながらそれを滑らすことでやり過ごす。


(あれってAクラス次席の人よね……この距離だとさすがに不利ね)


 久崎の持つ手札は基本的に近接戦闘に限られる。ただ遠距離で攻撃してくるだけの敵であるなら、距離を詰めて剣を振るってしまえばいいのだが、相手が空中に浮かんでいるとなれば話は別だ。前に構える剣の反射を使って後ろを確認しながら一気にその場から駆け出す。

 足を止めてはただ的になるだけ、ジグザクと走り鳳上に的を絞らせないように走っていると、


「何よ……あれ!」


 少し先に見えたのは、全身が刃で構成されたドラゴンが顕現する姿であった。見上げるほどの高さを持つその巨体に圧倒されたが、すぐさま思考を切り替えて足を速める。後ろの鳳上に攻撃を当てるためには、このままでは無理だ。だが、あの巨体であれば悠々と届くだろう。

 このまま引き連れていけば、あのドラゴンの注意が鳳上に向いて流れが変わるかもしれないと思い、久崎が方針を固めたところで先の地面が火に染まった。


「嘘っ!?」


 ドラゴンのブレスの中心を避けるように斜めに横断していたところ、隆起した土の下から出てきた天川の姿があった。今もなお鳳上からの狙撃は続いている。久崎が単純に避けてしまえば、その先にいる天川に熱線アポロンゲイザーが直撃していまう。

 走っている勢いそもままで突き飛ばして何とか熱線アポロンゲイザーを避けた後、すぐさま立ち上がる二人。






「あれ? 鳳上さん? ずいぶん顔色悪いみたいだけど大丈夫?」

「……そっちこそ疲れが顔に出てますわよ」

「そう? 今のところ凄い楽しんだけどなぁ。ま、こっちは大丈夫さ」

「私もあそこにいる彼女を狙っていますので、それが終わったら闘ってもらえますか?」

「いいよ、()()()()()()()


 その言葉に鳳上からの返答はなかった。ただ、その場で転回し久崎を挑発するようにその場を離れながら熱線アポロンゲイザーを放つ。

 少しだけ一ノ瀬のドラゴンの近くで放つことで、これに乗らなければこの相手と協力するぞと匂わせるようなそれは、久崎をその場から少しばかり離すのに十分有効なのであった。

 

 

 

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