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第十七話 装着(インスタリアム)

 筆記試験が終わり、終了の合図とともにぱらぱらと受験者たちは教室から出ていく。


「なあ、アンタ」

「え?」


 天川智也が帰り支度を整えていると、目の前に一人の男が立っていた。特に知り合いという訳ではなかったが、どうにも全くの他人という感じにも思えない。そんな不思議な感じのする男だった。


(待て待て、もしかしたホントは知り合いで、何か重要な約束をしている)

「…………いや、すまん。人違いだ。知り合いに似ているもんでな」

「ああ、そうなんです……か」


 一瞬、その男は苦しそうな、それとも何か言いたいことを我慢しているような顔をしたが、すぐに普通の顔に戻ると謝罪を告げて去って行ってしまった。







「やっぱり…………あいつは智也なんだな」


 帰宅後、コンビニ弁当を平らげた光一は、ベッドに寝転がりながら天川智也の事を思い出していた。名前は横見した受験票で確認済み。だが、仮に名前を見ていなくても確信していただろう。その顔、話し方、全てが記憶の中の天河智也と一致していた。

 となれば、彼がその奥底に持つ力も天河と同じだと考えるのは自然な流れであり、まともに闘ったところで光一が対抗できる才ではない。だが、それでも光一は誓ったのだ。“リースの為に全てを使うと”そのためならば、主人公を倒すという途方もないことですらこなしてみせよう。


 握った拳を天井に向けて決意を固めると、明日に備えるために光一は早々と眠りにつくのであった。




 翌日、光一はとある運動場に来ていた。といっても、遊びにきた訳ではない。


「それでは、定刻となりましたので()()()()の方を始めます」


 辺りには昨日の筆記試験で見た気がする人々もおり、皆緊張した顔をしている。そう、このアルマトゥーラ学園の入学試験は筆記だけではなく、実技も込みして合否を判定するのだ。

 そのためだけに、下手なドーム球場以上の敷地面積を誇り、森にグラウンドなどといった総合的な施設を貸し切りにするのはこの学園の力の大きさを表しており、それを誰も疑問に思わないのは、アルマがこの世界にとってどれだけ重要であるかの証明のようであった。


「それでは皆さん、まずは装着インスタリアムのチェックをします。教官が目の前に来たら装着インスタリアムを行ってください」


 受験者たちは何列かに並ばされて、教官が前に来ると装着(インスタリアム)のキーワードと一瞬の発行を伴って鎧のような何かをつける。

 

 そう、これがアルマであり、この世界特有の概念の一つ。光一が首元に触れると、仮と書かれた固い襟章に指が当たる。アルマ自体はこの襟章の中に概念として入っており、それを呼び出し装着する言葉が装着インスタリアムというわけだ。

 今回配られたアルマは皆同じ性能。だが、誰でも装着インスタリアムのキーワードで使用できるわけではない。アルマとの相性を図る数値に同調シンクロ率と呼ばれるものがあり、装着者は自身の呼吸、鼓動、あるいは発汗までを調整することでアルマとの同調シンクロ率を上げることで装着インスタリアム可能になるのだ。


(さて、筆記はどうにかなったが、これに関しては完全にぶっつけ本番か…………だが、ここでコケるわけにもいかないんでな)


 光一は辺りを見渡し、列の端。自分の十五人ほど右の受験者の方を向くと、過剰集中オーバーコンストレイションを発動。

 試験に使われるアルマはある程度パターンが決まっている。だからこそ、しっかりと練習していれば、装着インスタリアムできないということは少ない。だが。アルマはとても高価なものであると同時に、一般販売は殆どされていない。そこで、こういった学園の受験者は事前にアルマのレンタルがある塾のような場所で装着インスタリアムの仕方を学ぶのだ。


「失格、もう帰ってもいいです」

「そ、そんな…………」


 光一がいる列とはかなり離れたところで、一人の受験者が失格を言い渡され、絶望した表情で強制的に帰宅させられていた。恐らく緊張で、上手く同調シンクロ率を高められなかったのだろう。

 それを見てさらに緊張する受験者や、我関せずとばかりに瞑想する者もいるなか、光一はひたすらに周りで装着インスタリアムに成功している者にせわしなく視線を移して、過剰集中オーバーコンストレイションで遅延した体感時間を使って分析を進めていく。


「三百六十九番、装着インスタリアムをしてください」


 前に居たのは僅かに十五人、十分たったかどうか程度で光一の番が来た。


装着インスタリアム


 光一が平坦な声で告げると、他の受験者より小さな光であったが、確かに発光と共に右腕にまるで籠手のようなアルマが装備されていた。

 試験管は渋い顔をしていたが、なんとか装着インスタリアムはできているということで、次の受験者の方へと歩いて行った。


(上手くいったようだな)


 一つの山場を乗り切ったことで、光一は小さく安堵のため息をつく。彼が行ったのは、周りの受験者の胸の上下を見て適切な呼吸を、立ち方と筋肉のこわばりを見て力の入れ具合を、膨大な受験者データから推測し、それを実効しただけ。

 過剰集中オーバーコンストレイションによる時間遅延を使用しても、右手を装着インスタリアムするのが精一杯だったが、もう少し時間をかけるかデータの検証に時間をかければ精度は上がるだろう。


「皆さんのチェックは終わりました。それでは、これより実技試験、撃墜戦の内容を説明します」


 安堵したのはここまで。この世界でリースの依頼を果たすための、最初の山場はここからである。


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