75・恋の腹いせに恋
初めての恋は失恋で終わった。
4つ年上の彼だった。
そいつは女たらしで、他にも何人も付き合っている女がいた。あたしが大人の男にちょっと憧れたのを、上手く理由して、騙したのだった。
彼は一流の大学に入学して、上京するのを機に、つきあっていた全ての女を捨てた。
その時になってあたしは、彼と繋がっていたのは、恋愛という糸ではなく、ゴム越しの快楽だと知った。
何も知らなかったあたしだった。いま思えば、なんであんなヤツに騙されてしまったのかと、バカみたいになってくる。ドラマのような恋に憧れたあたしの自業自得の顛末だった。
でも、あの男になにもかも教わったあたしは、無垢だった普通の女の子ではなくなっていた。
後戻りはもうできない。
だから、あたしは恋と遊ぶことにした。
男をとっかえひっかえ代えるようになった。交際は長くもって3ヶ月ほど。同じ男とそれ以上続けたって退屈になるので、平気で捨てて他の男に移っていった。
色んな男に恋をして、たくさんの男と付き合っていた方が、それだけの数の恋を経験できるので楽しかった。
でも、付き合っている人が増えていくと、男という生き物を理解できるようになって、その本性に幻滅していった。
どの男も、男であるのに変わりない。
個性はなくて似たり寄ったりで、情熱なんて沸騰したヤカンの湯のようなもの。冷める速さはあっという間だ。
そんな時、初めての男に会った。
居酒屋で酒を飲んでいたら、そいつを見つけたのだった。
彼の顔すら忘れていたはずなのに、体が覚えていたようで、見た途端にドキンと心が切ない傷をあげた。
10年振りだった。
髭を生やして、安そうな背広をだらしなく来ていた。疲れた顔つきで、お酒を飲みながらヤキトリを食べている。精気を吸い取られたような、みすぼらしい姿だった。私が知っていた自信家の彼とは、全く雰囲気が違っている。
あいつのことだ。
東京に行ってからも、色々な女性を取っ替えて、どこかの高給な大企業に務めて、のうのうと暮らしているものだと信じていた。
それなのに実際は、夢破れた顔をして帰省していたなんて……。
「どうした?」
急にあたしが笑ったので、彼が不思議そうな顔をした。付き合って3ヶ月の男。平凡だが、悪くない男だった。
「乾杯しましょう」
ビールをついだコップを取った。
「乾杯? なんの?」
「あたしたちの出会いによ」
別れ話は取り止めにした。あたしは、恋の遊びはこれでおしまいにしようと決意した。




