67・あだ名
「まさっきー、あっちいこっ」
遊園地で、初めてのデートに硬くしていた千恵美が打ち解けてきた頃。僕の腕をくいと引っ張って、そう言ったあとに、しまったと罰の悪い顔をした。
「まさっきー? ああ、僕が真輝だから、まさっきーか」
聞き慣れない呼び名だったので、ちょっと戸惑ったけど、千恵美にそう呼ばれるのは可愛くていいなと思った。
「あはは、ごめんごめん。わたしって、あだ名を考えるのが好きなんで、真輝くんのこと、まさっきーって呼ぶといいかもなあーって思って、そしたらついね、言っちゃった」
「うん。いいんじゃない、それって。これからはそう呼んでよ」
僕たちはつきあい始めたばかりだ。少しずつステップを踏んでいる感じがして嬉しくなった。
「じゃあ。僕はどう呼ぼうかな」
ちょっと考えるけど、どの呼び名も僕から言うのは恥ずかしかった。
「リクエストってある?」
「えっと……ちえって……」
「ちえ?」
「それに……ちゃんって付けるともっといいかも」
恥じらいながらも、そう呼んでくれたら嬉しいと、期待を込めた目で僕に言った。
「ちえちゃんか。いいね」
彼女の方が一コ年上だったけど、そんな子供っぽく呼んでみるのも悪くなかった。
交際して発見したことだが、千恵美はかなりの甘えん坊だった。出会ったばかりの時は、大人の女性という感じがあったけど、それは単に先輩だから強がっていただけで、親しくなれば初対面の時のイメージはどっかに消えてしまった。
「んじゃ、まさっきー、あれいこっ」
千恵美は笑顔を見せて腕にひっついてきた。彼女の体温が心地良く、ドキドキとさせられた。
僕は、ジェットコースターに連れて行かれた。
学校は文化祭の代休で休みだった。平日だけに混雑してないが、地元の遊園地なので、僕たちと同校の生徒の姿が見かけられる。
「あっ」
ジェットコースターの列を見て、千恵美は驚いた声を上げた。僕の腕を強く引っ張って、違う場所に連れていこうとする。
列に並んでいた男たちが、僕たちに気付いた。
一人の男がこっちにやってきた。
「ちえちゃん」
千恵美の知り合いらしく「ちえちゃん」と慣れ慣れしく声をかけた。
その呼び名に引っ掛かりを感じた。
彼は気まずそうにする千恵美ではなく、僕に視線を寄せてきた。
「彼氏?」
「う、うん」
「ふん、なるほど」
男は意味ありげに品定めをしてくる。
「新城真輝だ、よろしくな」
僕と、同姓同名だった。
彼は手を差し出したが、僕は握ることができなかった。




