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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第九章:イチャイチャな日常

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宮坂翠

「旦那様、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 昼食を終えて事務所でまったりしている伊吹に、(みどり)が声を掛ける。


「回転寿司のレーンが流れる早さなのですが、実際に装置を作り流してみたところ、秒速一メートルでは早過ぎるのではという声が上がっておりまして……」


 翠は伊吹がつらつらと語った色々な知識の中で、飲食関係の事業について宮坂家(みやさかけ)への情報提供をする担当秘書だ。

 ちなみに伊吹が何となく覚えていた秒速一メートルというのは人が歩く早さであり、回転寿司のレーンの流れにしては早過ぎる。


「もう実験段階まで行ったんだ、すごいね。

 お皿に乗った寿司ネタの鮮度とかが確認出来る程度の早さなら問題ないと思うよ」


 実際の早さは秒速四センチメートルがちょうど良いとされている。


「ではそのように進めさせて頂きます。

 その他、回転寿司で思い出される事はございませんか?」


 翠は伊吹が前世の記憶を持っている事に対して、一切疑っていない。

 伊吹としても、このようにはっきりと聞いてくれた方が伝えやすいと感じている。


「そうだなぁ。

 食べた後のお皿の数を数えてお代を請求するんだけど、お皿をテーブルの上に置いておくと邪魔になるし、食べている時に服に醤油が付いたりするんだよね。

 だから食べ終わった皿は回転寿司のレーンが流れている下に下膳用のレーンが隠されてて、そこに落とし込むようにしてあったね。

 お皿を穴に入れる度に機械が枚数を数えていて、お会計のボタンを押すと各テーブルに備え付けのタブレットに支払い額がすぐに表示されるようになってるんだ」


 伊吹は身振り手振りを交えて翠へと説明をする。


「なるほど、そうしておけば店員が一枚ずつ数える手間も省けますね」


「そうそう。

 あとね、お寿司の皿の上に透明なプラスチックカバーがされてて、お皿を取る時に簡単に外れるようになってたね」


「それはホコリや飛沫が付きにくいようにという事でしょうか?」


「その通り。

 回転寿司は子供に人気だったから、子供が笑ったり喋ったりしてツバが飛んでも、寿司に付かないようにする為でもあるよ」


「子供に喋らせないのではなく、喋っても大丈夫なように店側が対応したと言う事ですか」


 翠がメモ帳へと書き記していく。


「寿司以外の食べ物だと、うどんやラーメン、茶碗蒸しと赤だしなんかがあったね。これは寿司と同じようにレーンを流れてるんじゃなくて、注文が入ってから作って届けるんだ。

 注文はタブレットに入力して、うどんが出来たら店員が持っていくか、もしくは寿司のレーンの上にある注文専用レーンで流すんだ」


 そこまで言って、伊吹が重要な事を思い出す。


「翠。

 今まで僕が述べてきた店を想像して、店の営業に必要な社員が何人必要か分かる?」


「えっと……、アルバイトを含めてですか?」


「いや。

 アルバイトはもちろん雇う必要があるけど、社員だけで考えて」


 伊吹から回転寿司について聞いた今までの話を総合して、翠は考える。

 一店舗につきテーブル席が百人でカウンター席が十五人。

 寿司を握ってレーンに流す板前と、鮮度が落ちていないか確認する板前。

 そして会計をする責任者。


「少なく見積もったとしても、営業中に六人は必要かと思います」


 翠の答えを聞いた上で、伊吹はさらに追加の情報を伝える。


「ちなみに、前世の世界だと回転寿司チェーンは年中無休、営業時間は朝の十時から深夜零時まで。

 一皿百円から食べられる、部活終わりの学生に人気の食事処だったよ」


 伊吹の話を何でも信じるつもりでいる翠であるが、さすがにこの話は鵜呑みに出来なかった。


「そんなの無理ですよ!

 寿司を握る板前の給料が払えるとは思えません」


 寿司とは修行を積んだ職人が握り、客へと提供するものである。

 翠にとって、寿司屋とはそういうお店なのだ。


「そう、そこなんだ。

 回転寿司を教えるにあたり、一番最初に説明するべきだったね。

 多くの回転寿司チェーンでは、寿司を握る板前はいないんだ。

 バイトがシャリの上にネタをポンと乗っけるだけなんだ。

 ネタを包丁で切るのもバイト。

 茶碗蒸しを作るのも、赤だしを作るのも、会計もバイト。

 基本的に社員は営業時間中に一人だけ。

 一店舗につき大体社員は二人から三人しかいない」


「……あり得ません」


 街の寿司屋と回転寿司の決定的な違いは、寿司を板前が握るかどうかだ。

 寿司はとても繊細な食べ物で、一人前の板前になるのに十年かかるとも言われている。

 しかし、回転寿司チェーンの寿司はシャリを作る機械があり、ガシャコンガシャコンとシャリ状に固められた酢飯をアルバイト店員が取って、その上にポンとネタを置くだけだ。

 何の修行も必要ない。


「もちろん機械を使わず板前さんが握ったお寿司をレーンで流すという店をある。

 でも、一番多く店舗展開していたチェーン店は、機械でシャリを作っていたよ。

 何より人件費が安くつくからね。

 あと、品質管理の話なんだけど、お皿にICチップを入れておいて、センサーでその皿がどれだけの時間レーン上を回っていたか計れるんだ。

 一定時間お客さんに取られなかった皿は、自動でレーンからはじかれて廃棄に回されるようになってるんだって」


 聞けば聞くほど、翠が知っている寿司屋とはかけ離れたイメージになっていく。

 伊吹自身も話している間に、寿司という江戸時代からある日本文化がとんでもない進化を果たしている事に改めて気付かされる。


「そんな事業を始めたら、宮坂家が板前さんから批難される恐れもあるからね。

 慎重に進めないとダメかも」


 翠は、伊吹が血も涙も通っていない殺伐とした世界で生きていたんだろうなと想像し、涙を浮かべる。


「どうしたの? 急に抱き着いて」 


「……今はこうさせて下さい」


(何があっても私がお支え致します!!)

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