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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第八章:事業拡大

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陰ながら見守ってくれていた人達

「ご主人様、このビルの周辺の現状をご存じないかと思いますので、ご報告させて頂きます」


 福乃(ふくの)に対して黒い笑みを浮かべている伊吹(いぶき)に対し、智枝(ともえ)がこのビルの周辺事情を説明する。


「まず、このビルを中心とした百七十メートルが完全に封鎖され、警察の検問を受けないと近付く事が出来ません」


「百七十メートル!?

 警察が協力していると言えど、そんな事が可能なの?」


 伊吹の質問に対して、智枝に代わり福乃が答える。


「元々このビル周辺は宮坂財閥系列の企業が集まってる場所だったんだよ。

 じゃないと当主の娘を安心して放っておく事なんて出来ないさ。

 そもそも都合よくビルの一棟丸々借りるなんて無理だよ」


 福乃の説明を受けて、藍子(あいこ)が居心地悪そうな表情を浮かべる。

 しっかりと説明された訳ではないが、薄々そうではないかと気付いていた為だ。


「それと、伊吹様が仰っていたレコーディングスタジオだけどね、この周辺に確保する事が可能だよ。

 宮坂財閥系列の宮坂紡音(みやさかぼうおん)からVividColorsヴィヴィッドカラーズの為だけのレーベルを作って、新たにレコーディングスタジオを設置する形になる。

 どうする?」


「ぜひお願いします。

 ここから歩いて行ける距離なら僕も通いやすいですし」


 後ろに控えていた美子(よしこ)京香(きょうか)が警備面から難色を示すが、この周辺は宮坂財閥に関連する人間しかいないとの福乃からの説明を受けて、とりあえずは納得した。


「もしかしてさ、実家の屋敷の周りの土地を全部買い上げて私有地にしてしまえば、僕が自由に出歩いても大丈夫なんじゃない?」


 伊吹の素晴らしい思い付きに対して、美子が申し訳なさそうに答える。


「伊吹様。

 実はすでにあの周辺の土地は全て三ノ宮家(さんのみやけ)の私有地なのです」


「え? でも近所にご近所さんが住んでたよね?

 ……美子さん、もしかして近隣住民は全て僕の侍女だったりする?」


「その通りでございます」


 普段から良くお付き合いしていた近所のおばちゃん達。伊吹の寝間着を縫ってくれたり一緒に庭でバーベキューしたりしていたのは、単に心乃春(このは)との関係が良かったのではなく、伊吹に仕える侍女だったから。


(トゥルーマンショーかよ……)


 これも咲弥(さくや)の遺言に纏わる話なのだろうと、伊吹は深く追求せずに納得する事にした。


「まさか自分が映画のような日々を送っていたとはね」


 こんな事ならばもっとしっかりこんにちは、こんばんは、おやすみを言っておけば良かったと思う伊吹。


「そんな僕が今度はVtuner(ブイチューナー)として世界中に向けて配信している。

 実に面白い話だ」


「伊吹様……?」


 京香が独り言を零す伊吹に対し、一抹の不安を感じて声を掛ける。


 咲弥が、伊吹には可能な限り普通の生活を送らせたいと望んでいた為、侍女が近隣住民の振りをして伊吹を影ながら支えていた。

 とはいえ、伊吹にとっては騙されていたと感じても仕方がない事だ。


 しかしその心配は杞憂に終わる。


「もうどうせだったら皆をこっちに呼んで、僕の元気な顔を見てもらいたいな。

 あと、屋敷に残したままになってるお母様とおばあ様の遺影とかも持って来てほしい。

 当分帰れないと聞いてから、気になってたんだよね」


「屋敷の管理を任せている者以外は、すでにこの周辺におります。

 VCスタジオの従業員が昼食を摂る食堂や、クリーニング店やビル内の清掃の仕事などをしております。

 伊吹様が生配信で着ておられた狩衣を縫ったのも侍女です」


「……通りで着心地が良い訳だ。

 ちゃんと皆の顔を見たいから、時間がある時にここまで来てほしいって伝えておいてくれる?」


「お気遣い頂きましてありがとうございます。

 屋敷に連絡をして、遺影などを持って来るよう伝えておきます」


 伊吹はそこで、ふと思い付いた事を口にする。


「狩衣を縫えるって事は、もしかして安藤家(あんどうけ)が着ているような羽織袴も縫えたりするんだろうか?」


「ええ、恐らく生地さえ用意出来れば問題ないかと思います」


「その侍女さん達さえ良ければ、業務の一環として色々な服を作ってもらいたいな。

 僕が着る分だけじゃなく、VCスタジオの皆の分と、美哉(みや)橘香(きっか)、藍子と燈子の分とかも。

 僕がレコーディングスタジオに行く時に、皆で仮装をしていればどれが男か分かりにくくなるでしょ」


 普段から仮装をした人物達が出入りしておれば、伊吹がその中に紛れて外へ出歩く事も出来るだろうという考えだ。

 周りが完全に封鎖されているとはいえ、出歩く事に難色を示した美子と京香への配慮でもある。

 そして、コスプレ文化の定着に向けた第一歩としても意味がある行動である。


「もうやるならとことんやろうか。

 京都の西陣とか、あとは博多だったっけ? 良い生地からちゃんとした着物を作るようにしようか。

 現代では着物文化が衰退しているだろうし、僕のチャンネルをきっかけに和装姿で仕事したり出掛けたりする人達が増えたらいいよね」


「そうなりますと、本職の人達に発注した方が良いかと思いますが」


「そうだね、じゃあ本職にお願いするよう手配してくれる?

 支払いは僕がVividColorsから受け取る予定の報酬から出す事にしよう。

 侍女さん達にはまだまだやってもらいたいと思う仕事が山ほどあるんだよ。

 例えば安藤家のぬいぐるみの試作品とか。

 まぁ顔を見せに来てくれた時に僕からお願いするとしようか」

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