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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第八章:事業拡大

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副社長の生配信:VC副社長がミラー配信をするようです

◇配信準備中です、配信開始時間は未定です◇

◇配信開始致しましたらYoungNatterヤンナッターでもお知らせ致します◇


「視聴者さんの反応はどんな感じかな?」


 伊吹(いぶき)は現在、ビルの二階にあるVCスタジオの配信部屋で待機している。

 生配信の枠は開始したが、視聴者に対して呼び掛けたり、姿を見せたりはしていない。


「何が起こるのか分かってない様子ね。

 コメント欄でミラー配信って何だろうって話し合ってるよ」


「副社長って事は安藤家(あんどうけ)じゃなくてドット絵のお面の人だねって、みんな分かってくれてるみたいだわ」


 伊吹を撮影する為のカメラのその向こう側で、藍子(あいこ)燈子(とうこ)が控えている。生配信中に伊吹の補佐をする為だ。

 その他、VCスタジオの技術者やVCうたかたラボの技術者、そして三ノ宮家(さんのみやけ)の人間も、伊吹の事を見守っている。



 本日はVividColorsとイサオアールが取り決めた、新人Vtuner(ブイチューナー)のチャンネル開設日だ。


 すでに二つのチャンネルは開設済みで、チャンネル登録者も増えていっている。

 現時点ではVividColors側Vtunerが圧倒的に有利な状況だ。


 イサオアール側のVtunerのチャンネル登録者も少なくはなく、これはイサオアール側の同行を監視する目的の者、単純に対決構造を楽しんでいる者、そしてVividColorsの活動を良く思っていない者達だろうと伊吹達は分析している。


 VividColors所属の新人Vtunerもイサオアール所属の新人Vtunerも、まだキャラ絵を出さずシルエットのみ公開されており、チャンネル名も仮称のままだ。

 これは取り決めになく、元々VividColors側は初回生配信まで情報を伏せるつもりだった。

 それを見て、イサオアールが真似したものだと思われる。



「お、向こうの生配信が始まったな。

 こっちも用意するか」


 伊吹は藍子から手渡されたドット絵のお面を付け、カメラをオンにする。


 一斉にコメントが流れ、生配信されている事を確認する。

 そして自分の写っている枠を小さくし、左下の隅へ移動させ、配信画面全体にイサオアールの新人Vtunerの生配信画面を表示させる。


 伊吹はイサオアールの新人Vtunerの生配信デビューをミラー配信するつもりなのだ。



「はい、皆さんこんばんは。VividColors副社長です。

 今日は皆さんと一緒に新人Vtunerのデビューを見守りたいと思います。

 例え競争相手とはいえ、世間にVtunerという存在が広まるのは喜ばしい事ですからね。

 皆さん一緒に見守りましょう」


≪投げ銭設定はオフのままですか?≫

≪器がデカ過ぎるさすが我らの副社長≫

≪争っていると思っているのは向こうだけなのよ≫

≪投げ銭させてほしいにゃ≫

≪格の違いで分からせてきてるwww≫


「そうですね、さすがに人の配信を見る配信でお金を頂くと、相手に怒られてしまうかも知れませんからね。

 このままオフで実況していきますよ」


≪和装のお召し物が艶やかで素敵です≫

≪お着物が素敵ですにゃ≫

≪着物とお面の相性が絶妙w≫


「ふふっ、ありがとうございます。

 狩衣と言って、昔々のお偉い方々の普段着だったようです。

 せっかくなのでお洒落してみました」


≪向こうの同接が三千人。こちらは四百五十万人。圧倒的大差www≫

≪向こうのみの視聴者がどれだけいるのかねぇ≫

≪私も二窓にしてます≫

≪副社長がミラー配信してくれてるんだから向こうを開く必要ないな≫

≪副社長高見の見物≫


「おっと、始まりますよ」


 イサオアール側新人Vtunerの配信画面に、男性とみられるアバターが表示される。

 荒々しく逆立った黒髪。眉間に皺が寄っており、力強い印象。髭は手入れせず伸びており、土で汚れた濃紺の着物を身に纏っている。


『ヨぉ おレさまがしんJin ブイチューナー の スサのを だ

みな no もの チャンネル とぉ おろく するの だ』


 明らかに合成音声であると思われる不自然な話し声。スサノオと名乗る男性風Vtunerの生配信が始まった。


「八岐大蛇を倒すべくスサノオにしたって事ね。

 まぁこちらはヤマタノオロチを自称した事なんてないんですが。

 話し方はぎこちないし、アバターも丁寧に作り込まれているとは言えませんね。

 これは改善の余地ありだと思います。


 おっと、これは批判ではなく批評ですので悪しからず」


 伊吹が生配信しているコメント欄が激しく流れていく。視聴者がスサノオの登場に反応を示している。


≪この声は安藤(あんどう)四兄弟のものですよね!?≫

≪ダメでしょこれ!≫

≪声に著作権や肖像権みたいなものはないの!?≫

≪訓練された安藤子猫(あんどうこねこ)には聞き分けられるのにゃあ!≫

≪声に対する権利より先に男性保護法で一発実刑なのよ≫

≪イサオアールオワタ≫


 伊吹は配信部屋に待機していた福乃(ふくの)が立ち上がり、部屋を出て行ったのを確認する。

 こういう事も起こり得ると考え、事前にどう行動するか決めてあったのだ。


「正直私の声かどうか、専門家が詳しく分析しないと分かりませんから何ともしがたいですね。

 ハム子さんが仰っていたように、女性でも男性に似た声を出す人もいるでしょうから。

 まぁ、もし私の声を使っているのであれば、これは重大な問題ですよねぇ」


 今すぐ立証は出来ないが、容認している訳ではないと釘を刺しておく。

 でないと、安易に真似しようとする人間が世界中に発生してしまうからだ。


≪ネットでイサオアールが男性の声を不正利用か、という記事が出てます≫

≪私の声って言っちゃったw≫

≪YoungNatterでイサオアールの社長が知らないって声明出してる≫

≪安藤家の中の人=副社長なんだから私の声ってのはおかしくない≫

≪知らないじゃ済まされないでしょうwww≫

≪四兄弟が好きですけど副社長の方がもーっと好きです!≫


「アバターの動き自体は良いですね、よほど良い機材をお使いのようです」


≪もしや流出したVividColorsの最新機器を手に入れた??≫

≪他人の力借りないと戦えない時点で負けてるのよ≫

≪他人の力盗まないと、の間違い≫

≪ハム子割と好きだったんだけどなぁ≫

≪みんなで通報しよう!≫

≪イサオアールの闇を暴け!!≫


「まだ一ヶ月続く勝負の初日なんですから、もうちょっと様子見ませんか?

 明日はご自分の力で配信されるかも知れません。

 見守ってあげましょう」


 伊吹は自分の声が使われている事自体は、それほど気にしていない。

 それよりも、ハム子が最初から劣勢であり、勝利する可能性が著しく低いのにも関わらず勝負を挑んできた理由について興味がある。

 何らかの秘策があるのか、それともそうせざるを得ない事情があるのか。

 伊吹はその理由を知りたいと思っている。


『見て いルの か VividColors ノ やmた の おろ チヨ

 私 ノ ぎぃじゅつ ニ おそ れ オノ ノ いて イル ん だろう?』


≪呆れ返ってるよwww≫

≪もうハム子が実写で喋ってる方が視聴者集まるのでは≫

≪口数少ないよ何してんの!!≫

≪アバター操作してるのも喋らせてるのもハム子一人でやってんのかな?≫

≪誰か止めなかったのかよ……≫

≪何がハム子をここまでさせているんだろうか≫


 伊吹はVCスタジオの技術者へ合図を送り、配信画面に映っている実写の伊吹だけを(あきら)のアバターへと変える。

 左下で小さく表示されていた枠を、スサノオより少し大きいくらいに広げる。


「君の技術力ってのはちょーっと何言ってんのか分かんなんだけど?」


≪へぇっ!? 現実空間に旭きゅんが!?≫

≪後ろに緑の布がなくても大丈夫なの!?≫

≪何で今最新技術見せちゃうの! 投げ銭出来ないにゃん!!≫

≪こんなん勝てる訳なくないか??≫

≪カメラの前を(おさむ)様が横切られた!?≫

≪旭君の肩に乗ってる手ってお衣装の色から言って英知(えいじ)君では!?≫

≪ちょっと待って何でショタきゅんだけ出て来てくれないの??≫

≪安藤四兄弟はいまぁぁぁす!!≫


『お ノれ めんヨぉな!

 きさⅿぁら などぉ こノ くさ ナ Giの つる Giで ま ぷ たツ に しteく れぃる!!』


「いや八岐大蛇を草薙の剣で真っ二つにするのは無理でしょ」


 伊吹は思わず旭としてではなく、素でツッコミを入れてしまう。


≪ヤマタノオロチの尻尾から出てくる剣なんですが??≫

≪真っ二つにしても四つ首の怪物が二体になるだけだがwww≫

≪聞き取りにくいから普通に喋ってほしい≫

≪話すまでに時間掛かり過ぎてアクビが出ちゃうぜ≫

≪ってかスサノオって皇王家のご先祖様でしょ?≫

≪宮内省が準備運動をしています≫


 VividColors側の配信画面ににゅっと人の右手が伸びて来て、パチンと指を鳴らす。

 すると、配信画面内で好き勝手にわちゃわちゃしていた治と旭と英知の動きがピタっと止まる。


≪えっ、何?≫

≪ずっと見てたかったですにゃ……≫

≪時が止まった≫

≪止まってるお姿もきゃわわ≫

≪何が起こるの?≫

≪ざわざわ≫



 指を鳴らした右手が、配信画面に手を開いた状態で甲を見せ、右から左へと画面内をなぞっていく。


「みんなきーえろっ」


 すると、なぞられたキャラから順番に姿を消していく。


≪消しちゃいやーーーーーー!!≫

≪らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!≫

≪だめだめだめだめだめだめだめだめ≫

≪そんなのないよ!!≫

≪うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!≫

≪何ナニいつから怖い映画になったの!?≫


 そしてカメラの画角に翔太(しょうた)が入り込み、先ほどまで旭が座っていた椅子へと腰を下ろす。


「配信画面内に存在するのはボク一人でいいよね?」


≪良いけどらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!≫

≪何かめちゃくちゃ複雑な感情がぁぁぁ!!≫

≪中学生のうちの子が泣いています責任取って貰って下さいついでに私も≫

≪何これ超怖いんだが? 恐ろしんだが??≫

≪手のひら向けられただけで人が消えちゃうのはダメでしょ≫


「さて、画面に映っているボクらという存在は、結局は作られ操られている存在でしかないという事が分かってもらえたと思う。

 この世界に安藤さん家の四兄弟は存在しない。

 が、存在しているかのように見せる技術は存在する。

 この技術を使えば、高品質な映画を撮影する事も、実現不可能な小説の実写化も、見た事もないアニメも、思うがままに作れる。かも知れない。


 この技術に興味ない?

 映像の製作依頼や技術相談、または技術者としてボクと一緒に働きたいって人は、リンクを貼ってるからそちらを確認してね」


≪突然のお仕事募集告知と技術者募集告知w≫

≪もうミラー配信とかいうの関係なくなってるw≫

≪いつの間にか向こうの生配信終わってるしねwww≫

≪さすがに見逃し配信はしないだろうねぇw≫

≪イサオアールの社長が配信部屋に突入して強制終了させた模様≫

≪マジかよ伝説じゃんwww≫


「ミラーすべき配信が終わっちゃったので、ボクもこれで失礼するよ。

 じゃあね、子猫ちゃん達ぃ~。


 あっしたー。お疲れしたー」



◇本日の配信は終了しました◇

◇またのお越しをお待ちしております◇

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