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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第八章:事業拡大

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新たなVtunerのデビュー準備

 伊吹(いぶき)は新たなVtuner(ブイチューナー)が使うアバターの打ち合わせの為、VCスタジオへ向かっている。


 VCスタジオの技術者はさらに増え、今では二十人体制になっている。

 人数が増えても仕事は減らず、むしろこれから増やしてしまう為、伊吹は申し訳ないと思いつつフロアへ入る。


「お待ちしておりましたわ、お兄様」


 多恵子(たえこ)は自らの背の低さを生かし、自分の想像する安藤(あんどう)乃絵流(のえる)のコスプレで伊吹を迎えた。

 前回着ていた真紅のふわふわドレスではなく、自身が中学生時代に来ていたセーラー服をアレンジし、左腕には安藤家の家紋を入れた腕章を付けている。


「すまん、忙しいのにさらに仕事を増やしてしまうな」


 伊吹は設定に入り込んでいる多恵子に合わせて、乃絵流の頭を撫でてやる。


「いいえ、とんでもございませんわ。

 お兄様をお支えする事がワタクシの務めですもの」


 周りでは、思い思いのコスプレをしている女性達が二人の会話を見守っている。


 ビキニの水着や体操服、警察官に巫女姿の女性もいるが、創作物系のキャラのコスプレは見られない。

 コスプレ市場自体がまだあまり育っていないのでコスプレイヤー自体少ない分、コスプレ衣装を作る職人の数も少ない。


 自分が過去に着ていたものや、市販品であればすぐに手に入るので、毎日仕事に追われている彼女達でも比較的簡単に用意する事が出来る、日常系のコスプレが多いのだ。


「デザインは燈子(とうこ)が用意した。

 これとこれで頼みたい」


 拝見します、と両手で受け取り、燈子が描いたイラストを眺める。


「男性のキャラなのですわね」


「そうだ。

 誰もが知っている人物達だが、その声を聞いた者はいない」


「確かに、そう言われてみればそうですわね」


 確かに、でも何でもないんだが、と思いつつ、伊吹は打ち合わせを続ける。


「この二つのキャラで、全身可動型のアバターを用意するのにどれくらい掛かる?」


「一つはガワを変えるだけで対応可能ですので、一週間から十日と言ったところですわね」


「素晴らしい、さすが我が妹だ」


 福利厚生の一環として、伊吹は多恵子を妹の乃絵流として抱き締める。

 小柄な体型ながら、思ったよりも胸がある事に伊吹は内心驚くが、安藤家四兄弟は妹に対して欲情しないという設定を守る為、動揺を悟られぬようゆっくりと身体を離す。

 なお、そんな設定はない。


「……あっ」


 名残惜しそうにしつつ、素直に離れる多恵子。

 周りの目が何かを期待しているのを感じて、伊吹は手を広げて声を掛ける。


「皆にも報酬を支払おう。

 順番は守れるよな?」


 水着姿や体操服姿の女性達がいそいそと伊吹の前に列をなし、伊吹が一人ずつハグをしていく。

 耳元でいつもありがとうと伝えるのを忘れない。

 何人かが耐え切れずに奇声を発して倒れるが、すぐに伊吹の護衛が彼女達の身体を抱え、床に転がし並べていく。


「これ以上いたら仕事の邪魔になるな。

 では、あとは頼む」


「はい、またお越し下さいませ、お兄様」


 立っている者が皆、行ってらっしゃいませ、もしくはご武運をお祈り申し上げます、などを口にして伊吹を送り出す。

 横たわっている者は、行かないでお兄ちゃん! と足をバタつかせ駄々をこねている。


 何だこの職場は、と思いながら伊吹がフロアを出ると、藍子が一人の女性と共にエレベーター前で待っていた。


「は、初めまして! 落合(おちあい)玲実(れみ)と申します!

 えっと、本日は大変お日柄も良く、ご機嫌麗しゅう……」


 伊吹はお兄様モードを解除し、通常モードへ切り替える。


「初めまして。いいよ、そんな挨拶しなくても。

 藍子が許している以上、僕がとやかく言う問題じゃないし」


 藍子の隣に立っていたのは、伊地藤(いちふじ)玲夢(れむ)の中の人、玲実である。


 今回ハム子から投げ掛けられた新人Vtuner対決の為に、新たなアバター姿でデビューしてもらう事となった。

 藍子からやってくれるか尋ねられると、即答でやらせて下さいと返事をした玲実。

 やはりVtunerに未練があったようで、また一から始められるのであればこんな良い機会はないと、喜んで引き受けた。


「視聴者の反応がどうなるか、やってみないと分からない。

 最初は批判されるかも知れないけど、こっちで可能な限り対応するつもりだから頑張ってほしい」


「はい、必ずやハム子側のVtunerに勝ってみせます」


「で、祟り神と直に対面した印象は?」


「ももも申し訳ございません!

 その、一種の表現方法というか、何と言うかその……」


 からかう伊吹に対し、玲実は土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。


「冗談だよ、僕は何も気にしてないから。

 じゃ、中で具体的な打ち合わせをしてきてくれるかな?」


「……分かりました。それでは失礼します」


 一礼し、吹き出る汗を拭いながら、玲実は藍子に連れられてVCスタジオへ入っていった。

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