五人での夜
伊吹と藍子・燈子との婚約が内定した。
この世界の常識として、男性側が女性側に結婚を申し込んだ時点で婚約が成立する訳だが、三ノ宮家と宮坂家の間で婚約を正式に成立させる為には、少し時間が必要となる。
伊吹は節目として、藍子と燈子、美哉と橘香の五人だけで夕食を共にしたいと申し出た。
「ごめんね、本当はどこか雰囲気の良いレストランとかで食事とかしたかったんだけど」
「仕方ないよ、伊吹さんが外に出るとなると、警察が動かないとだもん」
藍子が言ったように、現在の伊吹の警護体制がガチガチに固められており、レストランどころかこのビルから出る事すら大変な状況だ。
また、外部からシェフを呼ぶなども警護の兼ね合いから難しく、伊吹が美子と京香に頼んで、会議室にいつもよりも豪華な夕食を用意してもらったのだ。
現在、会議室にはこの五人しかいない。
「ふふっ、美哉ちゃんも橘香ちゃんも綺麗だね」
「……ありがとう。二人も似合ってる」
「とっても素敵。お姫様みたい」
いつも侍女服姿の二人だが、今夜は特別だからと伊吹に言われ、パーティー用のドレスを着ている。
二人は伊吹からは散々褒められた後で、何なら昂った伊吹を諫めるのが大変だったほどだ。
「美哉と橘香も綺麗だけど、藍子と燈子もとっても素敵だね。
みんな僕のお嫁さんだなんて、感無量だよ」
伊吹の言葉に、藍子も燈子も顔を赤くしている。
こちらの二人もパーティー用のドレスを着ている。宮坂家のご令嬢であるからそれ相応のドレスなのだが、本人達がパーティーに興味がなかったので、滅多に着てこなかった。
だからか、褒められ慣れていないのだ。
伊吹はいつもの和装ではなくスーツを着ている。
滅多に外出する機会がないが、裏を返すと外出する際は特別な理由があると言う事。
事前にオーダーメイドで作ってあったのだ。
食事を始めるにあたり、それぞれシャンパングラスに入ったジンジャエールを掲げる。
伊吹が乾杯の音頭を取るべく、立ち上がった。
「藍子、燈子。僕との結婚を受けてくれてありがとう」
「こちらこそ!」
「夢みたいだよ」
「そして、僕と同じくらい美哉と橘香を大事にすると約束してくれて、ありがとう」
「それは違う」
「一番はいっちゃん」
伊吹は藍子と燈子に、美哉と橘香と仲良くしてくれと頭を下げた際、もうすでに仲が良いからそんな事しないでほしいと慌てさせていた。
今この場では、美哉と橘香は伊吹の侍女よりも、第三夫人・第四夫人としての色合いの方が強い。
「この五人で、幸せな家庭を築きたいと思う。
乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
食事が始まりしばらくして、今まで気になっていた点を尋ねる。
「そう言えばさ、美哉ちゃんと橘香ちゃんはいっくんと結婚した後も侍女としての仕事? を続けるつもりなの?」
伊吹との婚約を期に、燈子はお兄さん呼びを止めて、いっくんと呼ぶようになった。
伊吹も、あーちゃんととこちゃんと言う呼び方から、それぞれ藍子、燈子と呼び捨てするように求められたので、それに応えている。
「続ける」
「仕事じゃなく、生き方」
美哉も橘香も、伊吹と結婚したからといって、侍女としての役割を止めるつもりはないようだ。
伊吹としては、二人の好きにしてほしいと思っている。
「藍子には今のまま社長を続けてもらって、燈子にも大学を卒業してほしいと思ってるからね。
もちろん僕も今まで通り配信活動を楽しませてもらうつもりだし」
「今伊吹さんが活動を止めるって言ったら、とんでもない事になると思うよ」
「そうだよ、いっくんを独り占めにしたらあたし達が何て言われるか分からないよ」
食事が進むにつれ、話題は夜のお勤めについての内容へと変わっていく。
「一応二人には夜のお作法を教えてもらったけど、あたし達で勤まるかなぁ」
「ちょっととこちゃん、お食事中に何て事言うの!?」
燈子の爆弾発言に、藍子が伊吹の顔色を窺う。
「へぇ、そんな事してたんだ。
それは今晩が楽しみだなぁ」
伊吹が分かりやすくニヤリとしたイヤらしい笑みを浮かべる。
途端、藍子も燈子も顔を真っ赤にさせる。
「大丈夫、二人は筋が良い」
「筋の扱いも上手いはず」
「「ちょっと!?」」
通常、男性への嫁入りを期待されている女性に対しては、家の中に奉仕や作法を教える者がいる。
特に宮坂家のような名家かつ男性当主がいる家では、第二次性徴が始まった頃から丁寧に教えられるものだが、藍子と燈子は自分達が男性に嫁ぐ事など考えた事もなく、二人よりも年上の異母姉妹が多く存在している為、積極的に教えらえる事はなかった。
藍子と燈子は伊吹との結婚が決まった事で、急遽夜のお作法を習う必要が出たのだが、二人は美哉と橘香に教えを乞うた。
国立侍女育成専門学校では、侍女の等級によっては男性の夜の相手の務め方も教えている。
三級侍女師は掃除や洗濯など、男性への直接的な世話以外の業務をする事が出来る。
二級侍女師は男性の入浴の世話や、直接肌に触れるような業務をする事が出来る。
一級侍女師は上記の世話に加え、精液採取を担当する事が出来る。
美哉と橘香は特級侍女師なので、全ての業務をする事が出来る。
特級侍女師になれる条件は、歳の近い男性と同じ環境で生まれ育った事とされている。
通常、生まれたばかりの男児に、他の女児を近付ける事は少ない。
その為、特級侍女師の資格を持つ者は非常に限られている。
もちろん、特級であろうが三級であろうが、男性が自ら求めた場合に限り、夜の相手を務める事は可能だ。
しかし侍女の数に比べて、男性人口は非常に少ないので、侍女の資格を得たとしても侍女として働く事が出来る者は少なく、採用されたとしても男性と顔を合わせる事がない侍女も少なくない。
「二人に習ったんなら大丈夫だね。
でも、最初から上手くやってもらう必要なんてないよ。僕だってこないだ初めてを経験したばっかだし。
みんなで、みんなが楽しめるようにしていければ良いと思うんだ」
伊吹は椅子から立ち上がり、藍子と燈子の間に移動する。
そして二人の手を取って、自らの昂りに触れさせる。
「すごい……」
「ホントに、大きい……」
さらに伊吹は、藍子と燈子の耳元で、そっと囁く。
「いっぱい、可愛がってあげるからね?」
「「はぁぅっ!?」」
そのまま立ち上がれなくなった二人は、美哉と橘香の手を借りて、シャワールームへと向かった。
その夜、伊吹は藍子と燈子と結ばれた。




