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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第八章:事業拡大

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お気持ち動画撮影

 様々な事業について、伊吹(いぶき)が止めどなく秘書達へ語っていると、あっという間に昼食の時間となった。


 そして今、昼食を終えて休憩中である。


「国内だけじゃなく世界中のメディアで話題になってるみたいよ」


 燈子(とうこ)が事務所のパソコンを操作してテレビ画面にニュースを表示する。


 米国・英国・仏国・独国など、各国の報道機関で伊吹がYourTunes(ユアチューンズ)の生配信時にVividColorsヴィヴィッドカラーズの社長と婚約関係にあると公表した事について報道がされている。

 この事に起因して、世界中で上場している宮坂財閥系列の企業の株価が軒並み上昇している。


「顔を隠した誰とも分からない男との婚約発表で、上場企業の株が上昇するっていうのも不思議な話だよね」


「顔を隠しているのは確かだけど、男性Vtuner(ブイチューナー)がもたらす経済効果については疑いようがないからじゃない?

 お兄さんがうちの系列会社の広告塔になる可能性が出てきたんだから、株価が上がるのは当然だと思うよ」


「こんな事なら公表する前に株買っとけば良かったな」


「インサイダー取引で捕まっちゃうよ?

 ……男性でも捕まるのかな」


 藍子には世界中から取材依頼が舞い込んいる。

 VividColorsの公式ホームページでも安藤さん家の四兄弟チャンネルでも、会社の電話番号は公表していないので、大量のメールとYoungNatterヤンナッターのDMやリプライが届いている。


 メールやリプライについては無視が出来るが、こちらの承諾なく勝手に動画をテレビで流している番組などがあり、藍子は弁護士事務所へ対応の相談しに行った。

 藍子本人がテレビ局などに抗議の電話をすると、そのまま音声を録音される恐れがあるからだ。


「テレビで報道されればされるほどうちのチャンネルの登録者と動画再生数は上がってくんだけどね」


 すでにチャンネルの登録者数は一千五百万人を越え、総動画再生数も三億回を突破している。

 さらにこのタイミングで、YourTunes公式が切り抜き動画や引用元動画の元動画に収益が入る仕組みを実装したので、VividColorsの収益は加速度的に上がっている。


 その引用元動画の仕組みを利用し、安藤さん家の四兄弟チャンネル全ての動画に英語やフランス語、ドイツ語などの字幕を入れて投稿する専門のチャンネルなどが開設されたりしている。


「お兄さんの声の上から英語で被せるのって、どうなんだろうね?」


「アフレコってヤツだね。……アテレコだっけ?

 まぁどっちでも良いけど」


「どうせならお兄さんの声のまま楽しんでほしいけどね」


 燈子は伊吹の声の上に、女性の声が被せられているのが気に入らないようだ。


「YourTunesからの収益をまだ一回も受け取ってないけど、いくらくらい振り込まれるんだろうか」


「全く想像出来ないわ」


「切り抜き動画で動画の二次利用に対する収益も入って来る事だし、うちのチャンネルの動画を勝手にテレビで流すのも止めてくれっていう動画を投稿しようか。

 取材も一切受け付けませんって言っても問題ないよね?」


 伊吹は弁護士事務所にいる藍子に電話して、報道関係者へ向けたお気持ち表明の動画を投稿しても良いか確認をした。

 藍子は弁護士の判断を仰いだ上で、動画撮影に賛成した。


「じゃあさっそく撮ろっか。

 アバター越しだと真剣さが伝わらない気がするから、実写にしようと思う。

 もう顔出ししても良い気がするんだけど……」


「「ダメです」」


「「「反対です」」」


「まだ早いんじゃない?」


 美哉(みや)橘香(きっか)、そして紫乃(しの)(みどり)琥珀(こはく)が反対した。

 燈子のみ、まだ早いという判断だ。


「じゃあまた喉仏動画? あれ見ててつまんないからなぁ。

 本来は裏方のはずの黒子姿で話すってのも違うと思うし、お面でも被って喋ってみようか」


 それなら良いだろうという女性達の判断で、お面を作る事になった。


「お面っておたふくとか天狗とかのお面?

 あたし立体的なものを作るのは得意じゃないんだよね」


「いや、彫ったりするんじゃなくて、段ボールにイラストを張り付けるだけで良いよ。

 そうだ! ドット絵で僕の顔を表現出来ない?」


 伊吹は前世で好きだったバンドが、テレビに出演する際に着けていたドット絵のお面を思い出す。


「ドット絵? それも守備範囲外だわ。

 でも、イラストで似顔絵を描くよりもドット絵の方が警備の都合上良いかも知れないわね」


 と言う事で、VCスタジオから多恵子(たえこ)を呼び出し、相談する事となった。


「つまり……、副社長のお顔をドット絵で表現して紙に印刷して台紙に貼り付け、それを被って動画を撮影されるって事ですか?」


「そう。

 別に似てなくても良いんですけどね」


 何度も伊吹と打ち合わせで顔を合わせた事により、多恵子もある程度緊張せずに会話をする事が出来ている。

 また、伊吹がVCスタジオに初めて赴いた際の発言を真に受けて、現在の多恵子はふわふわの真紅のドレス姿だ。


(これってゴスロリファッションってヤツかな?

 やっぱりオタク文化にはこういう服装が似合うよな。

 安藤(あんどう)乃絵流(のえる)のコスプレってこんなイメージなんじゃないだろうか)


 多恵子と話ながら、伊吹はちょっとした悪戯心を出した。

 背の低い多恵子を乃絵流に見立て、妹に頼み事をする兄のように、伊吹は両手を合わせて上目遣いで見つめる。


「こういうの、乃絵流(のえる)なら出来るかなぁと思って。

 ね? 頼むよ。お兄ちゃんの為だと思ってさ」


 伊吹のお願いを受けた多恵子は目を見開き、雷に打たれたように全身を震わせる。

 そして伊吹の手を包み込むように握り、答える。


「お任せ下さいまし、お兄様。簡単な作業ですのでお気になさらず。

 すぐに戻りますのでしばしお待ちになって?」


 そう言い残し、上品な所作で足早に事務所を出て行った。


「ノリが良いね。乃絵流の魂を憑依させたのかな?」


「お兄さんは降霊術士だったのね」


 伊吹は自分のノリに多恵子が合わせてくれたのだと思っているが、実際は多恵子の中の乃絵流が覚醒したのであり、燈子の認識は割と正しい。


「さて、乃絵流が戻って来るまでに何しよっか。

 喋る内容でも決める?」


 伊吹と燈子、そして秘書三人が喋る文言を考えている間に、多恵子が印刷したドット絵の似顔絵を手に戻って来た。


「おー、絶妙だね。似てるとも似てないとも言える。

 さすが乃絵流、頼んで良かった」


 伊吹は得意げな表情を見せる多恵子の頭を撫でる。

 燈子が事前に用意していた厚紙に、そのドット絵が印刷された紙をのりで貼り付けた。

 似顔絵の耳あたりに輪ゴムをステープラーで止めて、お面が完成する。


「どう?」


 伊吹がお面を付けて、皆の方へ顔を向ける。


「ちょっと声がくぐもるけど問題ないよ」


「旦那様、目のところに穴を開けた方がよろしいのではないでしょうか?」


 お面の微調整をし、燈子のスマホで撮影する事になった。


「動画をご覧の皆さん、こんにちは。安藤さん家の四兄弟、中の人です。

 昨日の生配信で、私と弊社社長が婚約関係にある事を公表致しました。

 沢山の反響を頂き、ありがたい反面そうでない面もありまして、対応に追われている次第です。


 お問い合わせに一つ一つお答えするのが非常に困難ですので、こうして緊急で動画を回しております。


 まず一番に申し上げたいのは、私の婚約者は一人ではない事。

 弊社社長の妹さんとも婚約関係にあります」


「ちょっと、今それ言う必要ある?」


「大事な事なので申し上げました。

 ちなみにこれ、編集せずそのまま流します」


「げっ!? ごほんっ」


「私の婚約者二人は私人であり、個人情報が守られるべき人間です。

 もちろん私もそうです。当チャンネルに関わる全ての関係者も同じです。


 動画を投稿し、生配信をしているからといって、私的な情報を探ったり、憶測でものを言うのは迷惑です。止めて頂きたい。


 また、当チャンネルの動画をそのままテレビで放映したり、画像を雑誌やネット上などに掲載するのも止めて頂きたい。

 悪質なものについては法的手段を取る可能性があります。


 テレビや雑誌の取材など、現状一切お受け致しません。

 一つ一つにお答えするだけでも大変な数になっておりますので、こちらの動画でもってお返事とさせて頂きます。


 最後に、当チャンネルの動画を翻訳して投稿して下さっている皆さん。そして動画をご覧になっておられる全ての皆さん。

 いつもありがとうございます。

 これからも皆さんに楽しい時間を過ごして頂けるよう、生配信や動画の投稿を頑張って参ります。

 出来れば私本来の声のまま楽しんでもらいたいですね。これを機に日本語を学んでみませんか?


 皆様が楽しい日々を過ごせますよう、心からお祈り申し上げます。

 それでは次の生配信でお会いしましょう。またね」


「ね、ちゃんと編集してくれるよね? ね?」

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