最重要機密事項
伊吹の父親と思われる人物からの贈り物が届いた翌朝。
伊吹は美哉と橘香を伴って事務所へと顔を出した。
智枝は美子と京香に抱えられ、シャワールームへと連れて行かれた。
自分の足で立てず、トイレすら一人で行けない状況である。
昨夜、伊吹は智枝が望んだ通りにその身体を犯し抜いた。
伊吹自身、合計で何回射精したのか覚えていないほどだ。
事務所には藍子と燈子、そして秘書の紫乃、翠、琥珀がすでに到着していた。
「ともちゃん、どうだった？」
燈子が伊吹へ昨夜の情事について尋ねる。
伊吹は最早、燈子に自身の性事情について聞かれる事に対し、違和感や抵抗感を持っていない。
燈子は福乃から、いずれ三ノ宮家の奥事情を取り仕切る為に、今から全て把握しておくよう言われている。
何でもないように尋ねている燈子だが、内心は嫌がられるのではないかとひやひやしている。
「うん、無理だね。一人では無理。
智枝が私の事は気にするなって言ってかなり頑張ってくれたんだけどね」
伊吹が気にせず答えてくれた事で、燈子はそっと息を吐いた。
「ってか足で腰を掴まれて離れてくれなかったんだけどね」
いわゆる『だいしゅきほーるど』である。
「でも、あれは愛のある行為じゃなくて、女性に対する拷問に近いかも知れないなぁ」
「「拷問……」」
燈子も藍子も拷問と聞き、表情を強張らせている。
藍子が、一昨日の夜に伊吹の相手を務めた美哉と橘香の調子を尋ねる。
「美哉ちゃんと橘香ちゃんは、今日はどう？ 大丈夫？」
「問題ないです。昨日もお相手を務めさせて頂きました」
「今朝も精液採取致しました」
智枝のお勤めを見守るべく寝室に待機していた二人が、気を失った智枝を隣へ避けて伊吹の相手を務めた。
二回目だからなのか、それとも伊吹がすでに複数回出した後だったからか、そこまでの負担が掛からなかったようだ。
「奥様方もご心配なく」
「気を失われた後はお任せ下さい」
「いや、それもどうかと思うけど」
燈子は気を失う前提で事に臨まなければならないのか、と恐怖する。
「まぁそれはいいとして、例のDVDの取り扱いについて決めておきたいんだ。
この件はVividColorsの最重要機密事項だよ」
伊吹は昨日届いたDVDは会社の財産であると話し、今後の扱い方について指示を出す。
届いたDVDの原盤は、複製後に可能な限り劣化しないように気を付けて保管する事。
DVDに入っている動画は全て、ネットに繋がらないノートパソコンに保存して鑑賞する事。
ノートパソコンのログイン用パスワードを知る人物は少数の信頼出来る人物に限る事。
動画を見せる相手は必ず秘密保持契約書に署名させ、勝手に外部へ公表する事を禁じる事。もちろん、美哉と橘香を含むここにいる全員にも契約書に署名をしてもらう事。
防音の部屋を用意し、動画を人に見せる際はスマートフォンやその他録音機器等を部屋へ持ち込ませない事。
動画の保管用として、複数のハードディスクドライブに保存して、原盤と一緒に銀行の貸金庫に保管する事。
この動画を元に作られた楽曲は全てVividColorsが傘下に収めたレコード会社から発表する事。
世界各国で版権を握り、絶対に手放さない事。
発表した楽曲に影響を受けた音楽が世に出ても抑え付けない事。むしろ可能ならば保護する事。
「すごい熱の入りようだね」
「あーちゃん、何度も言うけどこれは僕の前世世界の人類の宝だ。
彼らの楽曲に影響を受けなかったアーティストは一人もいないと言われてるんだ」
「影響と言えば、生配信で披露したダンスがYourTunesで大流行してるみたいよ」
燈子がスマートフォンで、女性がムーンウォークしている動画を再生する。
「見ただけで出来るんだからすごいね。
でも見た事のあるダンスをすぐに真似出来る才能と、振り付けを考える才能とは別なんだね」
その他、スリラーのミュージックビデオの振り付けなど、伊吹が生配信で披露したダンスを真似する、いわゆる踊ってみた動画がYourTunes内のトレンド上位を占めているようだ。
「伊吹さん、ダンスは権利とか良いの？」
「うーん、ダンスについては考えた事なかったなぁ」
伊吹は興味なさそうに呟く。
DVDの取り扱いについて熱心に語っていた時との落差に、藍子達は拍子抜けしてしまう。
秘書達が気を利かせて調べてみると、振り付けを考案したものに著作権が与えられる事が分かった。
だが、伊吹はダンスに関しては積極的に広めるつもりがないので保留とする事にした。
ムーンウォークやスリラーほど印象的な振り付けであれば覚えているが、その他のダンスを披露出来るほど、伊吹はダンスの才能もなく、覚えてすらいないからだ。
「お館様、レコード会社は一から立ち上げますか？ それとも買収されますか？」
紫乃の質問を受けて、伊吹はどうするか考える。
「一から作る知識や余裕もないし、買収しても従業員がどこまで信頼出来るか判断出来ないんだよね。
VividColorsの傘下にって言ったけど、よく考えたら難しいよね。
宮坂財閥系列で信用出来るレコード会社があるなら、専門レーベルを立ち上げるだけで良いかも知れないけど」
レコード会社内をいくつもの部門に分けた内の一つをレーベルと呼ぶ。
仮に宮坂ミュージックというレコード会社があったとして、VividColorsが制作した楽曲のみを扱う部門をVCミュージックと名付けるようなものだ。
「旦那様、音楽もとても素晴らしいのですが、昨夜の飲食関係のお話をもっと詳しくお伺いしたく……」
「副社長、是非運動施設についてもっと詳しく……」
伊吹は求められるがまま昨日よりもさらに詳しい話をする。
回転寿司とは秒速一メートルほどの早さで動くレーンの上に皿に乗せた寿司を置いて流し、客が欲しい皿を自分で取って食べる寿司屋である。
たこ焼きとは小麦粉と出汁と玉子で生地を作り丸い溝が何個もある鉄板に流し込んで中にタコとネギと天かすを入れて焼けたらくるりとひっくり返してさらに焼き、皿に取ってからソースとマヨネーズと鰹節と青のりを振って食べるおやつや酒のアテになる食べ物である。
焼肉とは炭火の上に金網を乗せて薄くスライスした牛肉を乗せて焼き、醤油・砂糖・日本酒・ごま油・すりおろしニンニク・すりおろししょうがなどで作ったタレにつけて白ご飯に乗せて食べるも良し、お酒のアテにするも良しの食べ物である。
フットサルとはサッカー、フットボールの少人数版である。広さがフットボールの約十分の一程度で人数が五人であまり跳ねないボールを蹴って楽しむ競技である。
トランポリンとは弾性の高いゴムで出来た生地をさらにバネで引っ張ったものの上を跳ねるように飛び、空中で前転したり後転したり身体をひねったりして楽しむ競技である。
カラオケボックスとは個室で少人数でカラオケを楽しめる施設である。防音性に優れた個室を何部屋も用意する事で多くの客がそれぞれ楽しむ事が出来る。
メダルゲームとはお金を払って借りたコイン・メダルをゲーム機に入れて遊び、増やして楽しむ遊びである。機械とジャンケンして勝てば増え、負ければ減る。競馬のシミュレーションゲームを作ってメダルを賭けて楽しむ事が出来る。
クレーンゲームとは透明な筐体の中にぬいぐるみなどのクレーンゲーム専用の景品を置いておき、外からクレーンのような機械を操作して景品を掴み、穴へ落とす事で景品を獲得して楽しむ機械である。
クレーンゲームの景品用に安藤家のぬいぐるみを用意してやればかなりの額を売り上げる事が可能である。
紫乃・翠・琥珀は、伊吹の話す内容を必死にメモしながら、絶対に自分達三人では追い付かない数と規模の事業に発展すると確信するのだった。
