三ノ宮家の営み事情
伊吹はついに天国で極上の朝を迎えた。
ただ、少し思っていた極上とは違ったのが気になっている。
男性側が女性に挿入し、わずか三擦り半で果てるというのは前世でよく聞く早漏の笑い話として知っていたが、まさかその女性版があるとは思ってもみなかった伊吹。
美哉にしても橘香にしても、一分以上出し入れを続けると心配になるくらいに狂い乱れた。
止めなくてもいいと二人は言うが、伊吹が気になってしまい、合計三回しか射精する事が出来なかった。
そして今朝、二人は全身筋肉痛で起き上がる事が出来ず、伊吹は久しぶりに朝のお務めをせず一人でシャワーを浴びて身支度をした。
美哉も橘香も、二人ではなく四人ならお務め出来ると思うと言っていたが、藍子と燈子も二人と同じく狂い乱れるのなら、ちょっと考えないといけないかもなと思っている。
「で、どうだったの?」
動けない美哉と橘香を京香に任せ、事務所で智枝と美子の三人で朝食を終えた頃、藍子と燈子、そして秘書の紫乃と翠と琥珀がやって来た。
「どう、とは?」
「何? 婚約者には聞かせられないような事をしてたっての?」
「……そんな恥ずかしそうにするなら言わなきゃ良いのに」
顔を真っ赤にさせながら伊吹へ質問している燈子に、藍子が小声でツッコミを入れる。
智枝も秘書達も皆、興味津々で目をキラキラさせながら伊吹が答えるのを待っている。
伊吹としては、美哉の母親である美子も室内に控えているので、言いにくさがある。
「どうか、私の事はお構いなく。
侍女としての知識が必要かも知れませんので」
本当かなぁと思いながらも、伊吹は昨夜の営みについて詳細に話し出す。
「そ、そうなんだ……」
聞いてはみたものの、実際に性行為を体験した事のある女性はこの中にいない。
美子は人工授精で美哉を授かっている。京香もそうだ。
「侍女としての知識は?」
「……男性は女性へと挿入され、数度の抽挿を経て射精に至る、と男性学概論などで教えております。
ですので、伊吹様がお強い事は分かりますが、娘達が極端に弱いのかどうかは、私では分かりかねます」
美子によると、男性が女性の中で果てた後、萎えるまでに別の女性が男子に跨がって挿入、これを何人もの女性が繰り返す。
必ずしも膣内で射精をする必要はなく、男性の男性器内に残った精液でも女性を妊娠させる事が可能なので、理論上は一晩で複数の女性を孕ませる事が出来るらしい。
「うわぁ、思ってたんと違うなぁ」
以前智枝の執事教育の際に発した、オスの鮭みたいに搾り取る、というのが冗談ではなく現実になってしまった。
仰向けになった男の上に女達が騎乗位で代わる替わる跨がるのがこの世界での子作りらしい。
愛ある性交よりも数多い挿入を、という事だ。
「そ、それで今夜から私とあーちゃんも加わればいいのかしら?」
期待半分、未知への不安半分といった表情の燈子が伊吹へ尋ねる。
「どうしようか。
二人も美哉と橘香と同じようになると、正直言って仕事にならないと思う。
とこちゃんはもうすぐ学校が始まるし、休む訳にはいかないでしょう?」
燈子は伊吹と結婚した後も大学へ通い続ける事が決まっている。
本人は辞めても良いと思っていたが、伊吹が卒業してほしいとお願いしたのだ。
「となりますと、執事である私の出番ですね」
「私達秘書もお館様のお世話をしとうございます」
智枝と紫乃の言葉に深く頷く翠と琥珀。
夢にまで見たハーレムの実現ではあるが、伊吹は単純に嬉しいとは思えないでいる。
それくらい、昨夜の美哉と橘香の姿は痛々しかったのだ。
「全員仕事に支障を来す恐れありだと思うけど。
人数が多ければ何とかなるもんなんだろうか」
「こればかりは試してみない事には何とも言えません」
とりあえず八人全員で伊吹に挑み、全員がメタメタのクッタクタになってしまったら別の作戦を考える、という事になった。
「その場合、可能性としては全員同時に妊娠する事もあるよね?」
話の流れ的に、妻となる四人以外とも伊吹と肉体関係を持つ事が当然というような雰囲気になっている。
しかし、この世界での一般的な生殖行為を聞かされた伊吹は、そういうものかと流されてしまっている。
男性一人と八人の女性で9Pなど、アダルトビデオでもなかなかない光景だ。
「侍女に関しては私と京香がおりますので大丈夫です」
「執事に関しても男性保護省へ派遣要請を出す事が可能です」
「秘書に関しても新たに宮坂家より派遣する事が可能です」
(なら良い、のか?)
伊吹はもう考えるのが面倒になっている。
念願だった美哉と橘香との初体験が叶い、ある程度の満足感に満たされているからだ。
その上で、さらに他の女性から身体を求められるという状況が伊吹としては非現実的で、投げやりにもなろうというものである。
三ノ宮家の営み事情に関しては、また夜にでも話すという事になり、伊吹が話題を変える。
「それで、昨日の話の続きをしようと思うんだけど」
「ええ、お願い致します」
昨夜、伊吹が暴走気味に語った、未知の料理名や道具、施設名などについて、秘書である紫乃達からもっと聞かせてほしいと要望があったのだ。
伊吹からそれらを聞き取り、秘書が事業として発展させる事が可能かどうかを宮坂家の各分野へ投げる。
もし発展の見込みありと判断されて事業化された場合、発案者として伊吹に収益に対する報酬などが支払われる事になる。
三ノ宮家と宮坂家の共同事業として、両家のさらなる発展が期待されている。
アミューズメント関係の事業については紫乃が。
飲食関係については翠が。
運動施設関係を琥珀が担当する分野と決まった。
「カラオケボックスというものは良さそうですね。
大人数の前で歌うよりも少人数で楽しみたい層にピッタリです」
紫乃が早速事業展開可能な案件に食いつく。
「そう言えば智枝、ねぇちゃんねるで見つけた三人の話はどうなった?」
伊吹はねぇちゃんねる掲示板の管理人である、ひろことゆきえが宮坂家の関係者であると知らされて、ダメ元でねぇちゃんねるの管理者権限をねだってみたところ、男性活動者板のみの管理者権限を与えられた。
男性活動板を巡回していた際、自分の歌った歌に伴奏を付けたと書き込んだ三名を見つける事となったのだった。
「はい、すでにあの三人がそれぞれの楽器を演奏している動画を受け取り、ご主人様の歌唱と合わせまして、一つの動画として完成しております。
今からご覧になりますか?」
伊吹は頷き、事務所のテレビ画面で完成した動画を鑑賞する事になった。
VCスタジオ監修の元で合成された動画が流れる。
伊吹演じる旭のアバターが表示され、旭の歌声の上にギターとベースとドラムの音が重ねられている。
「うーん、前奏とかないんだな」
先ほどまで膝の上に伊吹を乗せていた智枝は今、パソコンを操作しているので伊吹から離れている。
その代わりとして、今度は伊吹が藍子を膝の上に乗せて抱き着いている。
燈子は伊吹の左隣に座っており、肩が触れ合い密着している状態だ。
二人とも顔を真っ赤にしてあわあわしているのが、伊吹の嗜虐心をくすぐっている。
脱童貞した伊吹に、転がせない女性はいないと言っても過言ではない。
ただしこの世界の女性限定であるが。
「お兄さんが歌ってる部分から想像して前奏やら間奏を入れるのはすごく難しいと思うよ。
YourTunesで公開してる人が増えて来てるけど、この三人は別格に上手だと思う。実際プロだし」
演奏する才能とは別に、自分で旭の紡ぐメロディに合うコード進行やドラムのリズムを考える才能が必要となる。
そして、旭の歌っていない箇所についてはゼロから作らなければならず、非常に難しい作業になる。
旭の歌唱部分に合うようにしないとならないのもまた、難易度が上がる原因である。
「前奏ってどんなんだったっけなぁ」
「ひぅっ」
伊吹はわざと藍子の耳元で囁き、藍子のお腹に当てている右手をむにむにと動かす。
無駄な肉がない柔らかな感触を楽しみながら、伊吹は前世で聞いていたこの曲の全体像を思い出そうとする。
しかし、演奏経験がない人間にとって、特定の曲のドラムの演奏音やベースの演奏音をはっきりと記憶するのは難しい。ギターソロであれば何とか、という程度だ。
伊吹は藍子の太ももをぽむぽむと叩きながらリズムを刻む。
こうか? いやこうだったか? と何度繰り返しても音は降りてこない。
伊吹に演奏の才能はないのだ。
「ああああのっ、ちょちょちょっとおトイレに行かせて下さいっ!」
伊吹に楽器として扱われていた藍子が声を上げる。
「先に手を洗うようにね?
ばい菌が入っちゃうから」
と耳元で囁いてから、藍子を開放してやる。
「はい!
……はいっ!?」




