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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第七章:三ノ宮家と宮坂家

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意外な申し出

「……藍子(あいこ)さんと燈子(とうこ)さんとの結婚、ですか」


「おや? もしかして二人から結婚について匂わせるような話をされた事はなかったかい?

 あの子らには自分達から積極的に動くように急かしてたんだけどねぇ。

 もし二人が気に入らないのだとしても、その他にも伊吹様と年齢が近い娘はたんといるから、近々会ってほしいねぇ」


 考えてみれば、伊吹(いぶき)は藍子と燈子の姉妹の事について、ほとんど知らない。

 あまり伊吹から聞かなかったし、向こうも積極的に話そうとはしていなかったように思う。


 藍子も燈子も、伊吹の愛情が美哉(みや)橘香(きっか)に向いている事を察していたので、控えていたのだ。


「お二人は僕の事を気遣ってくれていますからね」


「良い女だよ。

 宮坂の女としては頼りないけどね、もっと自分から売り込んでもらわないと」


 宮坂家に限らず、家を残す為には男を産み、育てなければならない。

 大日本皇国は古来より男子継承を基本とする国家で、現在の男性が生まれにくい状況であっては、なおさら男性の確保に重きを置いている。


 伊吹は宮坂家(みやさかけ)三ノ宮家(さんのみやけ)の分家筋であると、先日福乃(ふくの)から聞かされていた。

 そして母親の咲弥(さくや)は当然として、心乃春(このは)の名字も自分と同じく三ノ宮だった。

 つまり、自分の父親は三ノ宮家の人間ではないはずで、伊吹自身も三ノ宮家の直系には当たらないはずだ、と気付く。


「あの、これもこの世の常識だと言われてしまうのかも知れませんが、仮に僕と宮坂家の女性の間に男の子が生まれたとして、僕の血が混じってしまえば宮坂家の直系ではなくなるのでは?」


「問題ないよ。遡れば同じところに繋がるからね」


「遡るって、どこまでです?」


(やはり鋭いね、このお方は)


 福乃は伊吹の質問をはぐらかす為に、質問には答えず話題を変える。


「それにね、これは常識というよりも知ってる人間しか知らない事だけどね。

 人工授精でなく自然妊娠の場合、男児が生まれてくる確率は三万分の一じゃないんだよ」


 自然妊娠。

 つまり男女が性行為をして出来た受精卵からは、人工授精よりも男児が生まれる確率が高い。


「えっと、どれくらい違うんですか?」


「自然妊娠の場合は一対百だと言われてるよ。

 ただ、事例が少ないからハッキリとした数字ではないんだけどね」


 百人中、男児が生まれるのはたったの一人。

 それでも、人工授精よりも遙かに確率が高い。


「だから毎晩毎晩励んでもらわないとね、例え好きな女でなくともさ」


「福乃様」


 智枝(ともえ)が福乃へ抗議するが、福乃は相手にしていない様子で続ける。


「残念だがこれが現実さ。

 家中の女の排卵周期を考慮して、旦那様のお相手は今日は誰と誰と誰で明日が誰と誰と誰。びっしりと予定が決まってんのさ。

 まぁそれを管理してたのは私なんだけどね」


 突然宮坂家の大奥事情を聞かされた伊吹。

 やっぱそういうのあんのね、という程度で特に驚きはしない。


「だから伊吹様が後ろの侍女さんにご執心なのは良い事でもあり、辛い事でもあるわね。

 妻が増えれば増えるほど触れ合う機会が少なくなるしね。

 まぁ今のうちに仲良くしときな、うちから一人でも娶ってくれるんなら順番なんて気にはしないさ」


「もう一度詳しく」


 伊吹にとって、とてつもない情報がもたらされたような気がして、反射的に福乃へ問い掛けてしまう。


「詳しくったってそのままだよ。

 第一夫人との子供が先だなんて言わないから、今からでも好きなだけ子作りしなって言ってんのさ。

 そちらのお二人が先に男の子を身籠もってくれれば、藍子か燈子が身籠った男の子はこちらへ養子に出してくれるだろう?

 順番よりも、男の子を授かる事の方がよっぽど大事さね」


 伊吹は思わず美哉と橘香へ顔を向けると、二人は目をまん丸にして驚いているようだった。


「そうそう。それとね、うちからVividColorsへと派遣する秘書達も好きに抱いてくれて良いからね」



 福乃が帰った後、伊吹は美子(よしこ)京香(きょうか)、智枝、そして美哉と橘香で福乃の申し出について話し合う事にした。


「三ノ宮家として、先ほどの話をどう受け止めれば良いのか教えてほしい」


 自分自身、当主としての教育は受けていないし、そもそも三ノ宮家の事を何も聞かされていない。

 三ノ宮家とはこういう家だ、という家訓のようなものも聞いた事がない。


 だからそこ、伊吹は心乃春と長い付き合いがあったのであろう美子と京香に正直に尋ねる事にした。


「……恐らくですが、福乃様の仰る事に嘘偽りはないと思います。

 彼女は宮坂家の奥事情を取り仕切っておられたお方。

 伊吹様から寄せられる宮坂家への信用を損なうような発言をされるとは思えません」


 美子の答えに、京香も頷いている。


「正直、今すぐにでも美哉と橘香を部屋へ連れ帰りたい。

 母親の前で言う事じゃないけど……」


「いえ、大変光栄な事です」


 京香も美子も、とても嬉しそうに二人を見ている。

 当の美哉と橘香は顔を真っ赤にし、俯いているが。


 伊吹は自分に対して毎朝あれだけの事をしておいて、今さらそんな反応をするんだなと思うが、伊吹のお務めと自分のお務めではまた違う話になるのだろうと思い直す。


「ただ、美哉と橘香は僕の妻となる人達と良い関係を築きたいと話してくれている。         

 その想いを無碍にはしたくない。

 だからこそ、今すぐ二人を抱きたいから宮坂家から第一夫人を選んだようかのように捉えられるような行動はしたくない」


 今すぐ美哉と橘香とセックスしたいから俺と婚約しろ。

 婚約に同意するな?

 よし、じゃあ今から二人を抱いてくるわ。


 これではいくら男性が希少な世界と言えども、伊吹は最低のクズになってしまう。



「まずは伊吹様が藍子様と燈子様とご結婚なさるおつもりがあるかどうかでは」

「もちろんお二人の意思を確認される必要もあると思います」


(今くらいは侍女としての発言をしてほしくないんだけど……)


 伊吹は美哉と橘香が、他人事のように藍子と燈子との結婚を語るのが嫌だと感じた。

 これは伊吹個人の問題ではなく、俺とお前達の問題なのだと、叫びたいほどもどかしく感じたが、今ここでそんな事を言っても仕方がない。

 それが彼女達二人が選んだ、侍女という職業なのだ。


(もう少し、もう少し我慢して、寝室で問い詰めてやればいい)


 そう思う事で、伊吹は燃えたぎる想いを抑えようと努力していた。

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