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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第七章:三ノ宮家と宮坂家

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資本提携と婚姻関係

 伊吹(いぶき)はこの世界の芸術文化に対して、進化する原因となるきっかけを与えたいと考えている。


 簡単に例えると、伊吹の前世世界にはビートルズが存在した。しかしこの世界には存在しない。


 全員が楽器を演奏しながら全員で歌う。

 その曲の作詞作曲も自らがする。

 ロックバンドなのにオーケストラの要素を取り入れたり、リズムを変調させたり、片方のスピーカーからしかボーカルが聞こえて来なかったり、挙げればキリがないほどに革新的なアイデアを彼らは世界へもたらした。


 伊吹には楽器を演奏する技術はない。が、アイデアを伝える事は出来る。

 音楽だけでなく、映画や漫画など、全てのジャンルにおいてそれを行おうと伊吹は考えている。


 しかし、それにはとてつもないお金が必要になる。



 元の世界のクオリティレベルでのVtuner(ブイチューナー)のアバターを制作する為には高機能なソフトウェアを用意しなければならず、高機能なソフトウェアを開発するにはハイスペックなパソコンが必要で、ハイスペックなパソコンを全く一から製造するとなると、CPUやメモリ、グラフィックボード、HDDから高解像度ディスプレイなど一体どれだけのパーツの開発項目、そして費用が掛かるか分からない。


 アバターを制作する為のソフトウェア、というのはあくまでも例えであるが、映画撮影用のドローンや動画編集ソフトに自動で字幕を付ける為のAI開発など、この世界の技術を前世世界のレベルまで引き上げるにはとにかく金が掛かる。


「だからVividColorsヴィヴィッドカラーズを上場して資金を集める、と」


「ええ」


 伊吹一人がVtuner(ブイチューナー)として活動した収益では足りない。

 四回の生配信の投げ銭の合計額は三億五千万円を超えたが、そこから三割はYourTunes(ユアチューンズ)に天引きされる。


 一年間三百六十五日通して生配信をしたとしても、三百六十五億円が集まるとは思えない。

 毎日やってるならいつでも見れるし、と特別感もなくなり、投げ銭をする事もなくなる。



 そうなる前に、VividColorsの事業内容を拡大して会社を大きくしなければならない。

 アバターの製作技術を広告代理店に売り込んだり、伊吹が並行世界から仕入れた歌をレコード会社へ売り込んだり、安藤家(あんどうけ)四兄弟のグッズを売り出したり、伊吹の声を吹き込んだボイスCDを発売したり。


 収益性の高い会社の株は人気が出て、株を会社が新規で発行し、高値で取引される。

 会社が発行した株が売れれば会社の手元資金が増える。

 そしてさらなる事業展開へお金を使う事が出来る。


「映画を撮るにもアニメを作るにも、ある程度の研究開発が必要なんです。すぐに利益が出ない事も多い。

 物語や音楽の歌詞やメロディーは頭の中にある。でも、それをそのまま取り出せないんです。

 だから、僕の頭の中にあるものを再現してくれる人を育てたいんです」


 ふぅ、と小さく息を吐く。

 伊吹は熱を入り過ぎ、喋り過ぎてしまったかと思ったが、福乃の顔を見ると何やら思案している様子。

 伊吹は美哉(みや)が新しく入れたお茶に口をつけて喉を潤す。


「宮坂家としては、伊吹様の頭の中を再現するのに必要な技術、その技術を育てる事に大きな収益機会があるように思えるねぇ」


 技術というのは大抵が応用出来る。

 兵器にもなれば、人を治療する道具にもなる。


「……宮坂家に公開前のVividColorsの株を売る気はないかい?」


「即答は出来ませんね。僕だけの会社ではないので。

 割合も気になりますし」


 株を売るのは良いとしても、宮坂家の持ち株比率が大きければ大きいほど、伊吹は宮坂家の意向に沿った会社運営をしなければならなくなる。


 ただ収益のみを求める営業形態であれば問題ないが、伊吹が求めているのは研究開発し、娯楽に関する技術を向上させる事だ。


 研究開発には莫大な費用が掛かる。そして、その研究成果が出たとしても、収益に直結しない場合もある。

 収益性が損なわれる可能性があるので、株主から待ったが掛けられる可能性が大きい。


「全部くれなんて言わないさ、今の資本金総額の少し少な目くらいで良いよ」


「それだと筆頭株主になるんですがねぇ」


 はっはっはっ、ふっふっふっ、という乾いた笑い声が事務所に響く。


「まぁ冗談はこれくらいにして、とりあえず技術開発を宮坂家の企業へ任せてほしい。

 Vtuner用の撮影機材は宮坂家の最先端技術だからね。

 実際使ってみて使用感を報告してもらうだけでも意味があるよ」


「権利関係がややこしくなりそうですから、研究開発を始める前に契約書を作る必要がありそうですね。

 特許権や実用新案権は宮坂系企業のものになるんでしょうけど、僕が発案者としての利益比例報酬は貰えます?」


「……本当に十八歳の男の子かい? どこでそんな事を習ったのやら。

 心乃春(このは)様も容赦ないねぇ」


 ビジネスとはシビアである。

 自分とあの人の関係は円満だからと油断していると、成果も金も人材も全て持って行かれる可能性がある。


「そこら辺はしっかり書面で残すようにしようか。

 あと、宮坂家から秘書を何人か派遣するよ。

 伊吹様がやりたい事を言うと、それを叶える為の技術を持つ宮坂財閥内の会社を紹介し、会う段取りを付け、話が上手く行ったら契約へ持っていく。

 話が早いだろ?」


「なるほど。助かるけど首輪で繋がれるのはちょっとなぁ」


「そんな事しやしないよ。

 何ならVividColorsで直接雇用してくれても良いよ」


「いや、秘密保持契約書でいいかな。

 宮坂家への報告内容を全て書面にしてこちらにも同じものを提出してもらう。

 後ろめたい事がないなら可能でしょ?」


「可能は可能だけど、それだと裏で別の報告書を上げる可能性もあるんじゃないのかい?」


「そこは信頼する、って事で。

 直接雇用したとしても同じ事が言えるし」


「……ホントに大した男だよ、あんたは」



 ある程度の筋道をつけ、VividColorsと宮坂家は資本提携を結ぶ方向で調整する事となった。

 藍子と燈子にも確認が必要であるが、宮坂家は二人の実家なのでそこまで反対はされないだろうと伊吹は思っている。


「そうそう、これは会社とは関係ないんだけどねぇ」


 帰り際、福乃が改めて伊吹へと向き直る。


「宮坂家としては、うちの家中から伊吹様の第一夫人と第二夫人を娶ってもらいたいと考えてるよ。

 まぁ、言わなくても気付いてるだろうけどねぇ」


「まぁ、それは、はい」


 先ほどまで福乃とやり合っていた伊吹の勢いが削がれる。

 散々世話になっているのだ。今さらそんなの知らないよ、などと言える状況ではない。


「藍子と燈子の姉妹には母方に叔父がいる。第一・第二夫人になれる条件は満たしているよ。

 どうだい、あの二人を娶ってはくれないかい?」

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