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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第七章:三ノ宮家と宮坂家

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伊吹と福乃

「腹を割って話そう」


(一生配信者生活します、って宣言すれば解放されるのか?

 原付で日本縦断するのはちょっと勘弁してほしいが)


 伊吹(いぶき)はそう思ったが、福乃(ふくの)は素面であり、至って真剣な表情で伊吹と対面している。


「別に僕は福乃さんに隠し事をしているつもりはないですけど」


 藍子(あいこ)燈子(とうこ)がイサオアールの人間と会う為に弁護士事務所へ向かったのと入れ違いで、福乃が事務所を訪ねて来た。


 そして、伊吹に対して今後の事について話をしたいと申し出たのだ。

 ただならぬ雰囲気を感じた伊吹は、福乃に対して少し身構えて話を聞く。


「伊吹様はこれから、どうするつもりなんだい?」


「えーっと、それはぼちぼち屋敷に帰れって事ですか?

 僕の周辺警備代、結構掛かりますもんね。

 申し訳ないなぁとは思ってるんですが」


 伊吹としては、いつまでも宮坂家のお世話になるのは申し訳ないと思っていたところだ。

 今現在はこのビルにいた方が警備面でも配信活動面でも都合が良いが、ゆくゆくは屋敷に帰った方が良いだろうと考えていた。

 その前に、屋敷には業務用の通信網や停電しにくい電線など、安定した配信環境を用意したいところだ。

 その点、このビルは藍子が張り切って環境を整えた為、安定した配信環境だと言える。


「いやいや、それは違う。勘違いさせてすまないね。

 周辺警備については警察庁とか男性保護省とかから派遣されて来てるから、宮坂としては大した費用になってないのさ。

 国も色々と下手を打ってるからね。

 伊吹様への罪滅ぼしのような、慰謝料代わりのようなもんだと思っとけばいいよ」


 福乃から国が動いていると聞かされ、伊吹は美子(よしこ)京香(きょうか)に目を向けるも、特に大きな反応を示さなかった。

 知っていたが、伊吹に報告するまでもない些細な事であると判断したのだろう、と伊吹は受け止める。

 同じようにお澄まし顔で控えている智枝(ともえ)にも、伊吹は出向している男性保護省ではなく、本来の所属はどこかと尋ねていない。

 伊吹は自分が知らない事で彼女達が動きやすいのであれば、その方が良いのだろうと思っているからだ。


「伊吹様のご活躍はYourTunes(ユアチューンズ)を通じて拝見しているよ。その上で先ほどの質問さ。

 伊吹様はこれから何を目指す?

 何を成したい?

 何が欲しい?

 何になりたい?」


 そこまで聞かれて、伊吹は福乃が来た理由を察する。

 自分の活動は金になる。宮坂家が自分の動向を探りに来たのか。

 望む未来に共感出来るのであれば手を組み、そうでないのなら……。


「宮坂家の上層部は僕の事を危険視しておられますか?」


「いいや」


 短く否定。

 そんな事より質問に答えろ、福乃の目がそう訴えているのを感じ、伊吹が口角を上げる。


「僕の配信を見てくれているのなら、今から言う事を理解して頂けると思いますが」


 そう前置きをして、伊吹が思いの丈を語る。


「僕が前世で暮らした並行世界ですが、科学技術はもちろんの事、音楽・映画・アニメ・漫画・演劇などの芸術文化が発展していました。

 僕がこの世界に生まれ、母親と祖母と可愛い幼馴染と優しい侍女達に囲まれて何不自由のない生活を送ってきましたが、愕然としたのは芸術文化が著しく遅れている点でした。

 科学技術に関しては専門家でも何でもないので、貢献出来る事などほとんどないでしょう。

 ですが、芸術文化であれば何かしらの貢献が可能だと思っています」


「だからVtuner(ブイチューナー)として活動を始めた、と?」


 伊吹は福乃の問いかけに、ゆっくりと首を横に振る。


「Vtunerの活動は自ら思い立って行動した訳ではありません。あくまで藍子さんの手助けがしたかっただけです。

 よくもまぁここまで考えなしに行動出来たものだ、と思いますが。

 屋敷が襲われなければ、僕はずっとあそこで平穏無事な生活を送ったんでしょうね。

 大好きな幼馴染二人と結婚し、幸せな日々を過ごしたと思いますよ」


「そうは行かないですよ」


 伊吹の独白めいた言葉を受けて、福乃がこの世界の常識を語る。


「幼馴染とは後ろに控えている侍女お二方でしょうが、彼女達はそれぞれどちらも伊吹様の第一夫人、第二夫人にはなれない。

 少なくとも外部から二人、妻を娶る必要がある。まぁご存じの上だとは思いますが。

 それとこれも覚えておいてほしい。

 大抵の場合、二人のご夫人が旦那様を独占するんだよ。

 伊吹様が思い描く平穏無事な生活ってのは、ちょっと難しいんじゃないかね?」


「ええ、今は認識を改めていますよ」


「そうかい、嫌な事を聞かせてしまったね」


「いえいえ、僕はこの世界の常識に疎いものでね。

 これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」


 ふっふっふっ、と両者が含み笑いを浮かべて相手の様子を窺っている。

 そして、先に口を開いたのは福乃だった。


「話の腰を折ってすまないね。

 芸術文化への貢献について、詳しく教えてもらいたんだけれども」


「分かりました。

 僕がVtunerとしてデビューするにあたり、藍子さんへVividColorsヴィヴィッドカラーズの株式を求めた事はご存知かと思いますが、まず最初の目標としているのは、VividColorsの上場です」


「……ほぅ」


 福乃がニヤリと笑みを浮かべた。

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