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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第六章:安藤さん家の四兄弟チャンネル始動

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神、襲来

「エレベーター到着しました、間もなくお見えになります」


 ドアの前に立ちインカムで話していた女性が声を上げ、VCスタジオ内に緊張が走る。

 直後にノックがあり、その女性がドアを開けてぞろぞろと警備員らしき女性が複数室内へ入って来る。


「すみません、遅くなりました」


「「「「「おぉ………………」」」」」


 声無き声が響く。

 初めて見る男性、伊吹の姿と声に謎の力を感じる十二人。


「あれ? みんな何でそんなにカッチリした格好なんですか?

 ゲーム制作会社ってもっと緩い印象だったけど、違うんですかね?

 ほら、好きなキャラクターのコスプレ、格好をしながら仕事したり」


 伊吹の問い掛けに誰も答えられない。そんな会社聞いた事がないからだ。


 そもそもコスプレという単語に聞き馴染みがない。

 恐らく男装的な仮装を意味するのだろうと思うが、わざわざそれを確認すべく声を上げる者はいなかった。


 誰からも返事がないので、気にせず伊吹は本題に入る。

 念の為自己紹介はしないように、と警備担当から事前に注意を受けている。


「えっと、河本(こうもと)さんはどちらにおられますか?」


 多恵子(たえこ)は自分の名が呼ばれ、心臓が止まるかのような衝撃を受ける。

 返事をする声を出す事が出来なかったが、辛うじて伊吹の前に歩み出て、頭を下げる事だけは出来た。


「そんな堅苦しくしてほしくないんですけど……、まぁ座って打ち合わせしましょう」


 伊吹は打ち合わせ用のテーブルに移動し、美哉(みや)が引いた椅子へ座る。

 多恵子は橘香(きっか)に促されて、その向かい側の椅子へと座った。


「さっきチャットで言ってた、目をチョキで挟むっていう動きはこれです」


 伊吹が手の甲を顔側に向けて右目の前でチョキを作り、人差し指と中指で目を挟んでみせる。

 映画『パルプフィクション』の中でジョン・トラボルタが披露したダンス中のポーズに似ている。

 多恵子は伊吹に対して、コクコクと頷く事しか出来ない。


「ご主人様。河本様が過度に緊張されているので、やはり打ち合わせは後日改めた方がよろしいのではないでしょうか?」


 智枝(ともえ)がそう伊吹に進言すると、多恵子を含む十二人の表情が絶望に染まった。


(誰か代わりに喋って……)

(このままでは無能な集団だと思われてしまう)

(見捨てないで!)

(あっ……あっ……)

(緊張するなって方が無理だろう!!)

(開け私の口ぃーーー!)

(カッコ良いなぁー)

(確かに後日の方が良い気がする)

(こんなの慣れる日が来る訳なかろうも)

(見てるだけで濡れてくる……)

(臭くないかな? 大丈夫かな!?)

(これ私達クビになるんじゃ?)


「いや、後日じゃなくて今夜の生配信に間に合わせたんだよね。

 じゃあちょっと緊張をほぐす為に叫ぼっか」


 伊吹が十二人に立ち上がるように言って、それに向き合うように立った。


「はい、行きますよー。


 安藤家は好きかー!?」


 伊吹が大声を出した事で、十二人が目を丸くして驚いている。


「んー?

 お前達の安藤家への愛はそんなものか!?


 もう一度聞くぞ、安藤家は好きかー!?」


「「おーーー!」」


 伊吹の後ろに控えていた美哉と橘香が伊吹の問い掛けに対して、叫んで答えた。

 十二人はそれを見て、伊吹が自分達に求めている事をようやく理解した。


「安藤家は好きかー!?」


「「「「「「「「「「「「おーーー!!」」」」」」」」」」」」


「安藤家は好きかー!?」


「「「「「「「「「「「「おーーー!!」」」」」」」」」」」」


「右手を突き上げて叫べ!

 安藤家は好きかーーー!?」


「「「「「「「「「「「「おーーー!!」」」」」」」」」」」」


「安藤家の為なら何でもやるかー!?」


「「「「「「「「「「「「おーーー!!」」」」」」」」」」」」


「安藤家を良くする為の打ち合わせで緊張してる場合じゃないぞ!

 分かったら返事しろー!!」


「「「「「「「「「「「「おーーー!!」」」」」」」」」」」」


 それからしばらく、伊吹と十二人の女性による呼び掛けと応答が繰り返された。


 多恵子達の過度の緊張がややほぐれたところで、肝心の打ち合わせに移行した。

 伊吹と燈子の座るテーブルの対面に、多恵子が座る。


「髪の毛をかき上げる動作と、そのかき上げた髪の毛が重力に引かれてハラハラと下りて来るような動きって出来ます?

 重力センサー機能が付いているアプリケーションがあれば簡単なんですけど。

 あと、特定のお菓子の箱のオブジェクトを3DCGで用意しておいて、箱を開けて中身を取り出し、お菓子を口に入れて囓る動作が出来る、とか」


 伊吹が思い付くまま要望を口にして、多恵子が答えていく。


「必ずや実現させてみせます。

 が、今すぐには無理ですのでお時間を頂きたいです。

 まずは現在使用しているアプリケーションで再現可能か確認し、難しそうなら別のアプリケーションを試してみます」


 伊吹が望むなら当然叶えるのがVCスタジオの仕事だと多恵子は考えている。

 しかし、今すぐ出来ると言うと神に対して嘘を吐く事になるので、多恵子は時間が必要であると素直に答えた。


(じゃあ少しずつでも良いから進めてもらうか)


 そう思って口を開きかけた伊吹に対し、橘香が耳打ちをする。


「河本さん達、家に帰らずずっと仕事してるみたいです」


 それを聞いて、伊吹の表情が曇った。


「河本さん。はっきりと分からないのであれば感覚的に答えて下さいね。

 実現出来るのは三日後か、三週間後か、三ヶ月後か、三年後か。

 嘘偽りなく」


 伊吹の問い掛けに対し、これも河本は素直に答える。


「気持ちとしては三日後とお答えしたいのですが、現実的に考えますと三週間後から三年後の間かと思われます。

 しかし! 我ら十二人。安藤家(あんどうけ)とVividColorsヴィヴィッドカラーズのさらなる発展の為に寝る間を惜しんででも成し遂げてみせます!!」


 多恵子の発言を受けて、その他の十一人も気持ちは同じであると、胸を張って大きく頷いてみせる。


「ダメです」


「……はい?」


 思わぬ伊吹の否定を受けて、十二人が首を傾げる。


「お支払いしている給料以上の労働をするのは止めて頂きたい。

 僕は皆さんの犠牲の上に利益を上げようなどと思っていません。

 僕の侍女が察するに、貴女方は家へ帰れていないようですね?


 それについては、すみませんでした」


 伊吹が頭を下げる。

 十二人の帰れない女性達が一斉に息を吞んだ。

 自分達は何故、神に頭を下げさせてしまったのだろうと思考を巡らせる。


「僕が無茶な要求をし続けたのが原因ですね。

 ちゃんと余裕を持って開発が出来るよう配慮すべきでした。

 出来る出来ないで聞くと、出来ると答えざるを得ない状況にしてしまっていたんですね」


 申し訳なさそうな表情で話す伊吹へ、多恵子が両手を振って違うと説明する。


「いやいやいや、お待ち下さい!

 それは我々が勝手にしてしまった事でして……」


「いや、貴女方は我が社に雇用されている立場。

 貴女方の健康管理も我が社の責任でもってすべきですね。

 先ほどは安藤家の為なら何でも出来るかと聞いていましたが、あれはあくまで心意気を聞いたに過ぎません。

 安藤家の為に死ぬ気で働けなんて、僕は望んでいません」


 多恵子達は、伊吹の言葉に対し、何と返して良いか分からずにいる。


「この場ではっきり申し上げます。

 一日八時間以上働いてはならない。

 残業は事前申請の上、許可を得た上で行う事。

 有給休暇は二年以内に消化する事。

 経費を使ったら速やかに報告書を作って精算する事。

 あとは……、自分が急用で休んでしまう可能性がある事を常に考え、他の人員がすぐに引き継げるよう分かりやすい行程進行表を作成しておく事。

 などなど、すべき事は山ほどありますね。

 頑張るというのは良い事ですが、頑張り過ぎるのは悪い事です。

 何故だか分かりますか?」


 スラスラと自分達の労働環境改善案を挙げて行く伊吹に、言葉も出ない多恵子達。

 頑張り過ぎて、何が悪いのかも思い浮かばない。


「頑張り過ぎて身体を壊してしまったら、僕が悲しみます。

 皆さんは、僕が悲しむ姿、見たいですか?」


「とんでもございません!」

「決してそのような事は!」

「貴方様を悲しませるなど有り得ません!」

「休みます、休ませて下さい!」


 口々に叫ぶ十二人を見て、笑顔を浮かべる伊吹。


「では、僕が無茶な事を言い出したら、それを実現するのにどれくらいの時間が必要なのか、しっかりと休む時間を考慮した上で答えるようにして下さいね」


 全員が大きく頷いてみせる。

 決して神を悲しませるものか、という決意を感じる。


「それと、アバターを開発する為のアプリケーションは一つに固定せず色んな種類のものを使えるようにしておいてほしいです。

 今後、どのアプリケーションが技術革新を見せるか分かりません。

 その時になって一から操作方法を学ぶのでは遅いです。

 そういった学習や技術を習得する為の時間も仕事時間に確保して下さい。

 人員が足りないなら増やしましょう。

 本音を言うと、アプリケーションから自社開発したいところですが、そんな事まで手を伸ばすとキリがないですからね。

 あぁ、使用しているアプリケーションの開発元の株をある程度購入しておけば……」


 ぶつぶつと独り言を続ける伊吹に、美哉がそろそろ戻る時間であると伝える。


「おっと、すみません。。

 今日は突然お邪魔してしまい驚かせてしまったかも知れませんが、今後はもっと気軽に顔を出したいと思います。

 お互い色々と話が出来れば、刺激が与え合って良い発想が得られると思うんですよね。

 では、また来ます」


 伊吹は美哉と橘香に手を引かれてVCスタジオを去って行ってしまった。

 それに続き、警備員達もぞろぞろと捌けていく。


「……また来ます、だって」

「もう告白じゃん。結婚じゃん」

「私妊娠したかも……」

「おい止めろ、戻って来い」

「でも、今まで以上に頑張ろう。

 ただ時間を掛ければ良いってもんじゃないと思い知らされた。

 限られた時間を如何に有効に使い効率を上げるか、だ」



 こうしてVCスタジオの技術者達は神の為にと技術に磨きを掛け、人員を増やし、世界最強技術者集団への道を歩んで行くのだった。


 そんなVCスタジオの一番の魅力は、神の元で働ける、という唯一無二の価値ある職場だと言う事だ。

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