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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第六章:安藤さん家の四兄弟チャンネル始動

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十二人の慌てる女達

 皆で昼食を摂った後、伊吹は配信部屋でパソコン前に待機している。

 今夜の安藤家(あんどうけ)の四男の初配信前を前にして、やりたい事を思い付いた。

 今夜の初配信までにその思い付きを組み込み、アバターの再調整が可能であるかを開発技術者へ確認するのだ。


 伊吹はいつも、自分の要求がどれだけ高度な内容なのかを考えずにVCスタジオの技術者へ投げるようにしている。

 とにかく自分はやりたい事、必要としている事を伝えるから、それが現時点で実現可能か、もしくは実現するには何が必要かを答えてほしいと伝えている。


 伊吹は前世世界で見た事がある事はいずれこの世界でも実現出来ると確信している。


 無理。

 出来ない。


 それで済ませるのではなく、実現させるにあたり必要な機材やソフトウェア、予算、実現に要する時間を答えてくれとお願いしている。



『こちら燈子(とうこ)。現着した、指示を仰ぐ』


 自らのスマートフォンから伊吹へと電話し、燈子が二階のフロアに到着した事を報告した。


「とこ軍曹、愛しているよ」


『ぴゃっ!

 お兄さん、私の脳が溶けちゃったらどうしてくれるつもり!?』


 伊吹は生配信を通じ、女性を翻弄するというあまり良いとは言えない楽しみを覚えてしまった。

 前世でも気軽に女性と会話をしていたが、ここまで酷くはなかった。

 もし前世でもこんな冗談が言えたなら、伊吹は童貞のまま死ぬ事はなかっただろう。


「もちろん責任は取るよ?」


 燈子は福乃(ふくの)に言われた、宮坂家から三ノ宮家(さんのみやけ)へ年頃の女を嫁がせるという話を思い出し、さらに顔を赤らめる。


『……ごほんっ、もう入るわ。

 あとでパソコンからチャットを送るから』


 燈子は一旦通話を切り、VCスタジオが入っているフロアの扉を開け、部屋へと入った。



 VividColorsヴィヴィッドカラーズに買収される形で拾われた元社長、河本(こうもと)多恵子(たえこ)は、自分達が世界初の男性Vtuner(ブイチューナー)の為に声を掛けられた事に大変驚いた。

 そして、戸惑った。


 自分が男性に関わる仕事をするとは夢にも思っていなかった。

 男性が十八禁ゲームに触れる機会などないであろうし、そもそも十八禁ゲームの内容的に、男性に嫌悪されても仕方ないと思っていたのだ。


 会社倒産の危機から救われ、仕事を与えてくれただけでなく、自分達の技術を評価してくれている伊吹は、正しく神のような存在。

 そんな伊吹に求められれば、何だってやってみせるという意気込みで仕事に当たるようになった。


 今までの打ち合わせで伊吹が求めた要件は全て達成して来た。

 時間が足りなければ睡眠時間を削り、会社に泊まり込み、それでも対応出来なければ信頼出来る知り合いに声を掛けて頭数を増やした。

 買収時はたった四人だったVCスタジオの従業員も、今では十二人に増えている。


 安藤家の一キャラごとに三人の担当が付き、十二人で開発及び細かな質の向上を行っている。

 十二人全員がこんなに充実した夢のような仕事など他に存在しないと確信しているし、伊吹からもたらされる要望は誰もが思い付かなかったような神の啓示の如く衝撃を与え、皆の製作意欲を刺激する。


 Vtuner(ブイチューナー)用のアバター開発に限ればこの世界の最先端へと足を踏み入れており、伊吹の意向でさらなる機材、さらなるソフトウェア、さらなるモーションキャプチャ用カメラが買い与えられるので、その勢いは留まるところを知らない。


 VCスタジオが世界最強技術者集団になる日もそう遠くない。

 そんな部署へと、燈子は足を踏み入れた。



「つまり、着物の艶やかさをより強調するようにして、時々キラリと光る特殊効果を付けたいという事ですね?」


『ええ、それと指の動きをもう少し複雑に出来ますか?

 五本の指をそれぞれ独立して動かせるように』


 燈子がVCスタジオを訪れ、多恵子が用意したパソコンで伊吹へとチャットを繋いで打ち合わせを行う。

 多恵子のパソコンの画面共有をし、伊吹はそれを見た上で今後の方針を音声のみで伝える。

 この形式がアバター開発の打ち合わせの風景として定着している。


「指をそれぞれ独立して動かせるというと、例えばジャンケンのチョキのような形でしょうか?」


 多恵子も音声チャットで伊吹と会話する事に、やや慣れて来た。

 最初の頃は声を聞くだけで全身が茹で上がるような興奮を覚えていたが、今は伊吹の一言一句を聞き逃すまいとしている。


『そうです、目にチョキを添える形が出来るようにしたいんですよ』


「目にチョキを添える……?」


 聞き逃すまいとしてはいるが、多恵子は目にチョキを添える、という伊吹の言葉を想像する事が出来なかった。


『うーん、モニター越しの会話では限界があるな。

 ちょっとそっちに行きますね』


「……はぁ!?」


『チャット切りますね』


 神、襲来。


 伊吹の指示に耳を傾けていた十二人全員に鳥肌が立った。



 今から神が、降臨なされる。



 多恵子はフロア内を見回し、あまりの惨状に頭を抱える。

 泊まり込み用の寝袋や段ボールが散乱し、デスクの上には食べ終わったカップ麺の空容器や栄養ドリンクの空き瓶が転がっている。


 二階の別フロアにはシャワールームはあるが、神の使徒たる彼女らはシャワーを浴びる時間があれば作業をする。

 決して開発スケジュールが押している訳ではなく、神の要望に応えるべく自主的にそうしているのだ。


「どどどどうしよう、絶対臭いでしょ私の髪の毛!」

「知らん、鼻はとうに麻痺している……」

「いつから着替えてなかったっけ!?」

「今日の下着灰色なんだが!?」

「バカな事言ってないで片付けるの手伝うでございますことよ!!」


 バタバタと右往左往している彼女達だったが、そんな彼女達に救いの手が差し伸べられる。

 伊吹の侍女を名乗る女性十名が駆け付けたのだ。


 伊吹がエレベーターに乗ろうとしたところ、別の階へ行く事を想定していなかった宮坂警備保障に止められてしまい、危機管理想定の見直しをする為に一時間の余裕が生まれた。


「……掃除や片付けはこちらで行いますので、貴女方は私達に触られて困るものを優先して整理整頓をして下さい。

 あと、着替えるのであれば今のうちに」


「すみませんすみませんすみません!!」


 侍女服を着ていなければどこぞのご婦人でも通るような美人、美子に無表情で話し掛けられ、恐縮してしまう多恵子。

 参考書や伊吹からの要望を纏めた資料をデスクにしまい、すぐに更衣室へ走る。


 元の会社では突発的な打ち合わせや催し参加の為に、ロッカーにスーツを入れっぱなしにしていた。

 今もクリーニング後の袋に入ったままロッカーに吊しており、とりあえずそれに着替えれば何とかなるだろうと判断した。


「私臭い? ねぇ私臭う!?」


「うるさいさっさとシャワー浴びてこい!!」


 着替える者、シャワールームへ掛けていく者、化粧をする者。

 多恵子を含む十二人は、神と対面する緊張感と高揚感でギャーギャーとうるさく身支度を整える。



「お急ぎ下さい、そろそろ予定の時間になります」


 更衣室からVCスタジオの入っているフロアへ戻ると、散らかっていた室内がすっかりと綺麗にされており、窓も開け放たれて換気されていた。

 窓の近くには警備員のような女性達が立ち、外を警戒しているように見える。


「エレベーター到着しました、間もなくお見えになります」

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