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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第六章:安藤さん家の四兄弟チャンネル始動

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引用元動画の件

「音楽事務所からデビューしないかって連絡が来たんだけど、どうする?

 もちろんVtuner(ブイチューナー)としての活動は続けたままで大丈夫だって」


 二回目の配信を終えて翌日、事務所にて伊吹(いぶき)藍子(あいこ)からVividColorsヴィヴィッドカラーズ宛てに来た連絡について報告を受けた。


「今のところは考えてないって断って。

 正直プロの歌手としてやっていくほどの才能はないって自覚してるし」


「へぇ、お兄さんはとりあえず何でもやるのかと思ってた」


 燈子(とうこ)がスマートフォンを弄りながら呟く。

 画面にはYoungNatterヤンナッターにハッシュタグ安藤乃絵流(あんどうのえる)を付けて投稿された英知(えいじ)(あきら)のイラストが表示されている。

 昨夜よりもさらに増え、トレンドには常に #安藤乃絵流 が上位に入り続けている。


「何でもは出来ないよ。出来る事だけ」


 伊吹はキメ顔でそう言った。その表情を見て、燈子が首を傾げている。


「じゃあ伊吹さんは何だったら受ける?」


 藍子に聞かれ、うーんと天井を見上げて考え込む伊吹。

 藍子と燈子の視線はぼこりと出ている喉仏へ吸い込まれる。


「あ、それこそ作詞作曲なら無限に出来るな。

 YourTunes(ユアチューンズ)に歌ってみた動画を投稿して、それを元に各アーティストが楽器で肉付けしてもらうって形のコラボとか?」


「コラボ? コラボレーション……、合作って事ね」


 伊吹は前世世界の覚えている限りの歌を動画として公開し、その歌に楽器の伴奏をしてもらって伊吹が歌っている動画と掛け合わせれば、楽曲として完成させる事が出来る。


 問題は、昨夜の生配信で自ら言ったように、楽器が出来ないからアカペラの動画になる事と、伊吹の歌唱力が特別上手な訳ではない事。


 アーティストからしたら、何で楽器出来ないし歌が上手い訳でもないのに無限に歌が作れるんだと不思議に思われるだろうが、自ら並行世界人である事を公言しているので、伊吹としては問題ないと思っている。


「そうそう、伊吹さんが配信で言ってたYourTunesの引用元動画云々の話だけど、YourTunes運営がすでにそういう機能の追加拡張の開発を進めていて、近日更新予定って発表してたよ」


「へぇ、対応早いな」


 伊吹の生配信での発言を受けて、YourTunes運営が開発を決めたのは明らかである。

 しかし伊吹は特に気にした様子を見せないので、燈子は不思議に感じた。


「お兄さんの発想をパクられた形になるけど、良いの?」


「弁護士を立てて裁判しますか?」


 智枝(ともえ)が会話に入って来る。

 智枝は司法書士の資格を持っているのである程度の法律知識があり、たびたび伊吹へ助言をしている。


「裁判はしないよ。僕の発言の前か後、いつから開発を進めてたなんて客観的に証明出来ないと思うし。

 それに僕は前世の記憶にある歌を歌ってる時点で著作権侵害してるようなもんだしね。

 権利保有者がこの世界にいないってだけで、僕がしてる事はパクリそのものだし、あんまり人の事をどうこう言えないと思ってるんだ」


 藍子と燈子、そして智枝は何とも言い難い表情で伊吹を見つめている。


 伊吹は生配信で自分が並行世界から配信していると視聴者へ話しているが、その設定を日常生活でも続けている事に戸惑いを感じているのだ。


 伊吹としては、美哉(みや)橘香(きっか)に前世の話を打ち明けた事と、生配信で並行世界の話をした事で、身の周りにいる女性全員が自分の前世の記憶がある事を打ち明けたと勘違いしている。


「でも視聴者はお兄さんの権利を侵害されたって怒ってるよ。

 YourTunesのYoungNatterアカウントにうちの視聴者っぽい人達がバンバン返信してる」


 燈子が伊吹にスマートフォンを見せる。


「うわぁ、炎上してるね。

 あーちゃん、視聴者さん達にYourTunesへ攻撃するのを止めるよう呟いてくれない?

 安藤家としては問題だと思ってないし、視聴者さん達にそんな事をしてほしくないって」


「分かった。

 文章考えるから、投稿前に確認してもらえるかな?」



 藍子が安藤家視聴者へ向けて、伊吹のお気持ち表明の呟きを投稿した後、二回目の生配信としての収益結果の報告に移る。


「昨夜の配信での投げ銭の合計額が九千五百万円。

 最高同時接続数が百四十五万人。

 生配信中にチャンネル登録者四百万人突破。

 順調過ぎて怖いくらいだよ」


 藍子はYourTunesのアカウント管理画面を元に資料を作成する際、何度も間違っていないか確認したのだが、未だに信じられないようだ。


「それは僕もそう思う。

 でもこの勢いも、いつまでも続く事じゃないから、常に新しい何かが出来ないか考えておく必要があるね」


 生配信二回分の収益合計が一億七千五百万円となった。

 ただし、ここからYourTunesの収益配分が引かれるので、実際にVividColorsへ支払われる金額としては一億三千万円弱となる。


「二日で一億とか……。とんでもないね、お兄さんは。

 まるで錬金術師みたい」


 驚いている燈子に、伊吹がやや現実的な視線で今後の収益予想を話す。


「仮に一年間毎日生配信し続けたしても、年間で何百億円になる事はあり得ないと思うよ。

 視聴者さん達も無限に投げ銭が出来る訳じゃないんだし、ある程度で落ち着いて来るんじゃない?

 今はチャンネル開設おめでとう期間みたいなもんだよ」


 生配信の見逃し動画も再生数が増えて続けている為、そちらから入る広告収入と合わせて、二ヶ月後にYourTunesから支払われる予定だ。


「あ、僕が歌ったところを切り取って動画投稿してくれてありがとうね。

 対応が早くて助かるよ」


「まぁ歌ってる箇所を切り抜いて投稿しただけだけどね。

 でもやっぱり専門の人にお願いしてほしいわ。

 私もずっと夏休みって訳じゃないし」


 燈子は大学生であり、今は夏休みで時間があるとはいえ、課題の提出など色々と忙しい身である。

 切り抜き動画の編集者については、すでに藍子が当たりを付けている。


「今日動画編集が出来る人を紹介してもらう予定になってるから、ちょっと出て来るね。

 場合によってはまたこのビルの空いているフロアで作業してもらうかもだけど、大丈夫?」


「僕としては大丈夫だよ。

 警備の人達が問題ないって判断するなら、そっちの方向で考えよう。

 3DCGと動画編集と、このビル内でどんどん出来る事が増えていくといいね。

 色んな部署間で交流を持ってもらったら、切磋琢磨してどんどん技術が向上してったりしないかな。

 それと、音楽関係というか録音技術の関係者の知り合いがいたら話を聞きたいんだけど、例えばさ……」


 伊吹は前世知識チートを惜しみなく使っていく。

 周りはその勢いに着いて行けず若干引いているが、やりたい事を口にして興奮状態になっている伊吹は気付かなかった。

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