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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第五章:Vtunerデビュー直前

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他言無用

「電話、鳴りやまないね……」


「ホント、仕事用の携帯電話を別に契約しなきゃかな……」


 伊吹(いぶき)の喉仏を映した「男性に聞く百の質問」を投稿した後、自分達のマンションへと帰った藍子(あいこ)燈子(とうこ)


 動画投稿直後から二人のスマートフォンには電話やメッセージがひっきりなしに掛かって来ている。

 どうせ内容はあの喉仏の持ち主に関する事だろう。

 二人はそんなうるさいスマートフォンをソファーへと放り投げ、クッションを抱き締めて床に直接座った。


「あーちゃんがVividColorsヴィヴィッドカラーズの社長だっていうのは、知ってる人は知ってるもんね」


「とこちゃんも大学で元一期生の宣伝してくれてたもんね」


 藍子と燈子が元一期生を盛り上げようとしていた地道な活動が、今となっては完全に裏目に出てしまっている。


「どうしよう、あたし夏休み終わっても大学行けないかも」


「大丈夫、宮坂警備保障の警備員が付いてくれるって。

 ……多分だけど」


「えっ、すごい不便そう」


 伊吹と出会い、伊吹を男性Vtuner(ブイチューナー)としてデビューさせた事で、自分達の生活が大きく影響を受け、変わり始めている。


「割と大事になったね……」


「そうね、イラスト描いたり河本(こうもと)さん達の話を聞いたりしてた時はそんな意識してなかったけど。

 お兄さんが言う通りすぐに百万人登録行っちゃった……」


 伊吹がすぐに登録者が百万人に到達するだろうと言った時、二人は半信半疑だった。


「伊吹さ、ん。どんな生配信するんだろね」


「どうなるんだろう、想像出来ないね……」


 部屋の電気も点けず、姉妹で隣り合って座りながら、抜け殻のように佇む二人。

 今なおスマートフォンは鳴り続けている。


「ねぇ、あーちゃん。

 このマンションまで押し掛けて来たりしない、よね?」


「うーん……、うちの周辺に警備の人はいないからなぁ……」


「あたし達も事務所ビルに引っ越した方が良かったり?」


「あー、それはありかもねぇ」


「ねぇ、鍵掛けた?」


「掛けた、チェーンもした。

 まぁマンションのエントランスはオートロックだから大丈夫でしょ」


「……マンションの住民が来る可能性は……?」


「…………」


 しばらく二人がボーっとしていると、インターホンが鳴った。


「ひっ!?」


「あーちゃん、大丈夫。この音はエントランスの方だから、カメラで誰が来たか分かる」


 燈子が立ち上がって、インターホンのカメラを確認する。


「あ、おば様だ」



 燈子がエントランスの鍵を開けて、福乃(ふくの)をマンションへ入れた。

 しばらくして、福乃が今度は部屋の玄関のインターホンを鳴らした。


「どうぞ」


「何回電話したと思ってるんだい!?」


 福乃が部屋に上がり込み、藍子と燈子へお叱りを口にするが、ソファーの上で震え続ける二人のスマートフォンを目にして、状況を察した。


「そうか。

 いや、あんた達は悪くないか」


「早急に別の携帯電話を用意するつもりです」


 藍子が頭を下げる。


「その方が良いね。

 さて、こんな時間にわざわざ来たのは理由があるんだ。

 本当はビルの事務所へ行きたかったんだけど、伊吹様がいらっしゃる前では話せないからね」


 福乃が切り出した話を受けて、藍子と燈子が身構える。


「えっと、やっぱり男性YourTuner(ユアチューナー)Vtuner(ブイチューナー)はやり過ぎだったかな?」


「いやいや、燈子。その話じゃないよ。男性が活躍するのは大いに結構な事さ。

 周りの女が気を付けて、守って差し上げれば良いだけだ」


 藍子と燈子がホッと息を吐く。

 ここまで準備が進んでいるのに、今さら伊吹を活動させるなと言われても困る。

 何より、伊吹の個人資産を出資してもらっている以上、絶対に成功させなければならないのだ。


「それよりもっと大事な話だ。単刀直入に言うよ。

 宮坂家として、伊吹様には家中から嫁取りして頂きたい。

 筆頭候補はあんた達二人だ」


 福乃の言葉を聞き、藍子も燈子も目を見開いて固まってしまう。


「まさか、今の今まで意識しなかったなんて事はないだろうね?

 もしそんな体たらくなら、伊吹様の第一夫人と第二夫人は任せられそうにないね」


「ももももちろん意識してましたぁ!!」


「まぁ、当然意識しちゃってたけど……」


 藍子も燈子も、母方に叔父がいる。

 つまり、第一夫人と第二夫人になるだけの条件を満たしているのだ。


「いや、でも宮坂財閥の企業に就職せず、お見合いパーティーにも参加せず、自分の好きな業界で起業するような女だ。

 やっぱり琥珀(こはく)に任せるべきだろうかねぇ」


「そんなぁ……」


「お兄さんにはお気に入りの女性が二人もいるから、お兄さんの事を良く知らない琥珀ちゃんではなかなか間を割って入っていけないんじゃないかな」


言い返す燈子に向き直り、福乃が問い掛ける。


「これが宮坂家にとってどれだけ大事な縁談だって、分かっているんだろうね?」


「え? もちろん分かるよ。

 お父様の次の宮坂家当主は琥珀ちゃんの弟の賢章(けんしょう)様に内定しているとはいえ、万が一の事を考えるともっと男子を授かった方が良いもの」


 この国の法律上、男性に対してはあらゆる所得税や相続税を含めて税金が掛からない。

 その為、資産家達は家の財産を守るべく、男子継承を続けていく必要があるのだ。


「私かとこちゃんが男の子を身籠れば、その子が三ノ宮家(さんのみやけ)を継ぐ。

 そして、さらに男の子を授かった場合、その子を宮坂へと譲って頂くという事ですよね?」


 福乃は二人がある程度理解出来ている事を確認した後、ゆっくりと口を開く。


「ちゃんと分かっているようで何よりだ。

 でもね、それだけじゃないんだ。これから話す事は他言無用だよ?

 もちろん、伊吹様ご本人にもだ。良いね?」


 伊吹にすら聞かせられない話と言われ、二人は姿勢を正して福乃の話に耳を傾けるのだった。

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