チャンネル開設と動画投稿
世界発の男性Vtunerの、デビューまでの道筋がある程度見えて来た。
「とこちゃんの編集作業が終わったら、チャンネル開設して投稿してしまおうか。
動画内では生配信は一ヶ月って言ってるけど、投稿後に登録者十万人達成した時点で一週間後に前倒しするっていう告知動画を追加投稿しよう。
アバターはとりあえず三日で完成させてもらったものを確認して、残りの四日で見た目と性能を少しずつ改善してもらうようお願いするって感じで。
もしも時間が足りなかったとしても、元は一ヶ月後って言う話だったんだし、別に問題ないよね」
(あ、全部俺が決めてるけど、これって俺が男だからって皆が反対出来ない状況なんじゃないだろうか)
伊吹は今後の方針を口にした後、全て自分の一存で決めるべきではないと思い直す。
「あーちゃん、男性Vtuner所属会社の社長として、それで良いかな?」
「ええっ!? ははは、はいっ!!」
藍子は伊吹に気安く話し掛ける事にだけ意識が行っており、突然話を振られて慌ててしまう。
「ごめんね、勝手に話進めちゃって。
おかしいと思うところがあったら遠慮なく言ってね。さっきの智枝みたいに」
また伊吹に褒められたと感じた智枝の口角が上がる。
それを見て、藍子は少しだけ気が楽になった。
「分かったよ。
でも、動画投稿についてはさっきの段取りで良いと思う」
「了解、じゃあそれで進めよう」
藍子が社長として、伊吹が話した今後の方針に同意した。
それと同時に、宮坂警備保障の警備員が事務所へと入って来た。
「あの、藍子お嬢様に会わせろと騒いでいる方がおられるのですが……」
「騒いでる? 名前は言ってましたか?」
「はい、伊地藤玲夢だと名乗っているそうなのですが」
どうやら電話に出ない藍子に業を煮やして、直接ビルへ乗り込むつもりだったようだ。
残念ならが、伊吹の警備の関係で現在はこのビルに近付く事さえ出来ない。
伊吹が口を開きかけるが、直前で思い留まる。
(あーちゃん自ら指示を出してもらわないとな)
そう思い、伊吹が燈子へ目線を送ると、同じような表情で燈子も伊吹を見ていた。
「あぁ……、追い返して頂戴!」
藍子の力強い言葉を受け、伊吹と燈子は藍子へ抱き着いた。
「ひゃっ!?」
伊吹に抱き着かれた藍子は、先ほどの威勢などなかったかのように顔を真っ赤に染め、膝から崩れ落ちた。
次の日の夕方に燈子が編集作業を終えて、男性に聞く百の質問が完成した。
「とりあえずこんな感じでどう?」
事務所のテレビ画面で編集済みの動画を見終わり、伊吹は自分以外の反応を見るべく事務所内を見回す。
皆が小さく頷いてみせたので、問題はないだろうと判断する。
「良いと思う。
字幕付けるの大変だったんじゃない?」
伊吹は前世の知識から、動画で話している内容全てに字幕を当てる事が途轍もない作業量であると知っていた。
「めちゃくちゃ大変だったよ、これ本当に終わるんだろうかって泣きながらやったもん」
大きくため息を吐く燈子の頭を、伊吹がよしよしと撫でてやる。
「生配信だけだったら編集はいらないけど、企画動画とかも投稿したいし、プロの編集者さんとかにお願いした方が良いだろうね」
その際は、多恵子達のように秘密保持の契約を交わしておいた方が良いだろう。
「よし、ちょっと時間が中途半端だけど投稿してしまおうか」
こういうのは勢いが大事。皆がいる前で男性に聞く百の質問を投稿する事となった。
藍子がチャンネルを開設。すでに何人分ものチャンネルを開設した経験があるので、手慣れたものだ。
動画の流れ上、また名前が決まっていない事になっているのでチャンネル名は『名前はまだないチャンネル』とした。
動画は『男性に聞く百の質問』の一本のみを投稿する。
「投稿完了しました」
「……さて。
今日中に登録者百万人行くだろうから、先に告知動画を作ってくれる?」
まだ投稿したばかりだと言うのに、伊吹はもう次の行動に移ろうとしている。
「百万人? さっきは十万人って言ってたのに。
投稿が終わったんだからケーキでも囲んで打ち上げしない?」
燈子が呆れたような表情で伊吹を見るが、パソコンで開設したチャンネルを確認してみるよう伊吹が促すと、すでに視聴回数が千回を超えていた。
「何これ、ヤバすぎない?」
投稿開始から僅か三分。まだ動画再生時間にも達していない。
「こういうのは事前準備がものを言うと思うんだ。
さ、前倒し告知動画を作るのと、YoungNatterも開設しないといけないし、それから……」
あれやこれやと皆で作業していると、一時間もせずに登録者は当初目標の十万人を達成。
さらに登録者数を伸ばす事となる。




