三ノ宮家にとって大事なお話
昼食と同じように、伊吹は新しく来た智枝を含め、藍子と燈子、美哉と橘香、そして美子と京香の合計八人で夕食を摂った。
主従が共に食事を摂る事に対して、智枝は何も言わず食卓に着いた。
そしてその夜。伊吹が寝室として借りている配信部屋で、伊吹と美哉と橘香の三人で言い争いが繰り広げられていた。
「何でダメなの!?」
「第一夫人より先に妊娠する訳にはいかない」
「だからまだダメ」
伊吹は精液を採取されてから、美哉と橘香とは挿れていないというだけで、すで身体の関係になったと思っている。
ここまで来たのだから、挿れさせてほしいと思うのが男心というものだ。
「美哉と橘香の事、心から愛してるのに……」
伊吹はようやく自分の気持ちを二人へと伝える事が出来た。
が、伊吹は全裸に剥かれ、美哉と橘香によって組み伏せられている。
「私もいっちゃんの事を愛してる」
「愛してるからこそ、順番を守らないとダメ」
「早く第一夫人と第二夫人を決めて」
「早く第一夫人と第二夫人を孕ませて」
「あ゛あ゛っ…………」
その翌朝、伊吹は夜に二回分を精液採取器に精液を採られ、さらに朝に追加で二回分の精液が美哉と橘香によって採取された。
美哉と橘香にシャワールームへ連れられた後、身支度を整えられて配信部屋へと戻る。
「「「おはようございます」」」
美子と京香が朝食を用意しており、智枝を含め六人で食事をする。
昨晩、藍子と燈子は自分達のマンションへ帰宅しており、まだ事務所へ顔を出していない。
(あーちゃんととこちゃんは毎朝警察の警備を抜けてこのビルに来るんだよな。
そう言えば河本さん達四人もか。
警察は良いとしても、宮坂警備保障の警備代っていくらくらい掛かるんだろうか。
ビルの入り口も改造したって言ってたし、防犯カメラも追加して、各フロアに警備員が常駐してるんだよな……)
伊吹は夜に二回、朝に二回も搾り取られた事により、あまり気にしていなかった事まで考えられるようになった。いわゆる賢者モードだ。
(本来であれば三ノ宮家として警備代を払うべきなんじゃないかな)
朝食を終え、下膳しようとしている美子と京香に声を掛けて、伊吹が聞きたい事があると口を開く。
すると、その前に私達の話を聞いてほしい、と美子が切り出した。
三ノ宮家としても大事な話なので智枝にも良く聞いておいてほしいと断った上で、美子が伊吹へと向き直る。
「伊吹様のお気持ちは大変嬉しく思います。私達の娘らを愛して下さっている事は随分と幼い頃から伝わっておりました。
しかし、愛だけでは何とも出来ない事もあります。
まずは伊吹様のご結婚相手を決めなければなりません」
(またその話か。さては美哉と橘香、逐一二人に報告してるな?)
自分の性事情を母親代わりともいえる美子と京香に知られていると気付き、伊吹は赤くなった顔を伏せる。
「娘達と結ばれるのは、どうかそれまで我慢して頂きたく思います。
もし万が一、どうしても性行為をなさりたいと仰るのであれば、大変心苦しい提案ではございますが、私達の身体をお使い頂ければと……」
(今何つった!?)
伊吹は顔を上げて、慌てて美子を止める。
「いやいやちょっと待って!」
「分かります、伊吹様のお気持ちはよくよく分かります。
ですが、美子も私もすでに妊娠する事はございません。
ですので、娘達の代わりにお使い頂ければ……」
止められた美子に代わり、京香が伊吹を説得しようと口を開く。
「だから違うって!
僕が聞きたかった事はこのビル内の警備をしてくれてる宮坂警備保障への支払いについて!!
美哉と橘香とのセックスの話じゃない!!
……まぁ、もちろんそっちも気にしてはいるけど」
このビルに来る前の喫茶店を出る時から、伊吹は宮坂警備保障という民間の会社に警備をしてもらっている。
元々はこちらから頼んだ訳ではないが、宮坂福乃が親戚だからと伊吹の身を案じて手配してくれたのだ。
二十四時間体制で警備に総勢どれくらいの人数が関わっているのか、伊吹には想像も出来ない。
また、このビルの玄関に警備用の出入り口を後付けするなど工事費用も発生しているので、総額でどれくらいの支払いをすべきなのかを、美子と京香に相談したかったのだ。
「「大変申し訳ございませんでした!!」」
珍しく二人は顔を真っ赤にし、本当に恥ずかしそうに頭を下げている。
娘達はその姿に情けなさそうな視線を向けている。
美子と京香は、伊吹が美哉と橘香との性交を求めているという、本人達にとっては嬉しい報告を聞いて、伊吹に早まった事をさせるべきではないと判断し、自分の身をもって何とかしようと早とちりしてしまったのだ。
(この際だから二人へははっきりと自分の口から説明するべきか……)
申し訳なさそうに頭を下げている美子と京香に、伊吹が恥ずかしそうに話し出す。
「いや、いいんだけど。
もう隠す必要ないと思うから言うけど、確かに美哉と橘香とそういう事したいって願望はあるし、将来的には結婚してほしいと思ってる」
「非常に光栄な事と思います」
「ありがとうございます」
美子も京香も、頭を上げて伊吹の言葉に耳を傾ける。
「けど、先に別の人と結婚しなきゃならないって話を二人から聞いたから、それまではダメなんだなってのは理解した。
だから身体を貸してくれるって言うなら遠慮なく……」
「それ以上はダメ」
「やっぱり四回じゃ足りなかった。明日は六回」
「冗談なので許して下さい!」
その後、伊吹が美子と京香に宮坂警備保障への支払いについて確認したところ、福乃から正式に費用負担は不要であると伝えられているとの事だった。
宮坂家にとって、本家筋である三ノ宮家の世話をするのは当然であり、過去に多大なる恩も受けているので、そのお返しをしているだけであると話していたそうだ。
(普通に考えれば裏があるよなぁ)
しかし、今のこの世界の常識、それも女性社会においての義理や人情や縁戚関係の話について、伊吹では判断のしようがない。
その上、最早裏があるから断ろう、という段階にない。
「とりあえず福乃さんとは連絡を密にしておいてほしい。もし何かしら僕に対して要求があったのなら、ちゃんと内容を確認した上で返事するようにするから」
裏があるとすれば、伊吹の身柄と生殖能力、そして先ほど話に出た結婚相手。
第一夫人と第二夫人の件である。
宮坂家から二人、いやそれ以上の結婚相手を寄越して、誰か一人でも男子を出産出来れば宮坂家へ迎え入れる事が出来る。
三ノ宮の血と宮坂の血は繋がっているのであろうから、それが目的なのではと伊吹は考える。
種馬的な扱いを受けるのであれば伊吹としても思うところもあるが、そういう世界なのだから仕方ない。




