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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第五章:Vtunerデビュー直前

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警備について

 弁護士と税理士との約束の時間が近付いた為、藍子(あいこ)は出掛けた。

 燈子(とうこ)は引き続き、数十枚あるイラストを見比べている。


「ねぇ。四つ子の設定なんだから、どれか一つに決めて髪型でキャラ分けすれば良いんじゃない?

 衣装も色分けするんだし」


「それが難しいんだってば。どれも良いもの。

 前回はあーちゃんに言われるがままアバターの元になるイラストをちゃちゃちゃって描いちゃったけど、今回はそうもいかないでしょう?

 世界発の男性Vtuner(ブイチューナー)なんだから」


 伊吹(いぶき)の問い掛けに対し、ため息を吐きながら燈子が答える。

 その後、燈子は眉間に皺を寄せて腕を組み、うんうんと唸りながらイラストを睨み付けていた。


(クリエイターが創作活動で悩んでいる時は、そっとしておくべきだろう)


 その間、伊吹は美哉(みや)橘香(きっか)の三人で、Vtunerに限らず多くのYourTuner(ユアチューナー)の動画を見ていた。



「ただいま戻りましたぁ、あー疲れた!」


「えっ、あーちゃん早かったね?」


「そうでもないけど? もうお昼回ってるよ?」


 燈子がうんうんと唸り続けている間に、かなりの時間が経過していた。


「弁護士さんと税理士さんとの話はすぐに終わったんだけどさ、このビルに戻ってくるまでがすごい時間掛かったのよね。

 このビル周辺の警備がすごい規模になってたんだよ。警察官や警察車両がいっぱいだった。

 私の身分を証明出来るものはーとか、手荷物検査とか、この周辺に向かう目的は何だーとか。

 このビルに私の会社があるって言ってもなかなか信じてくれなくて」


 藍子の胸元には、関係者である事を示す証明書が首からぶら下げられている。


「これを作るのに時間が掛かったのよ。

 とこちゃんも後で作らないとダメなんじゃない?」


「何か物々しい雰囲気ですね」


 伊吹が他人事のように言う。


「伊吹様、恐らく屋敷が襲撃された際の失態を取り戻す為かと」

「屋敷に襲撃犯を連れて来たのは本物の警察官でしたから」


 美哉と橘香が、原因は伊吹である事を指摘する。

 伊吹がこのビルへとやって来た原因である、屋敷の襲撃に本物の警察官が関わっていた事が、世間では大問題として警察庁に数多くの批難が寄せられている。


 現場にいた警察官は襲撃犯に騙されたと事情聴取で話しているが、事情がどうであれ、警察としては大失態だ。

 警察関係者が犯罪者に騙されて、守るべき貴重な男性の安寧を損ねたのだから。


 これ以上失態を重ねない為、失った信頼を取り戻すべく、伊吹の周辺警護をしているのでは、という事だった。


「まぁその辺の対応は美子(よしこ)さんと京香(きょうか)さんに任せるしかないか」


 警察の偉い立場の人に頭を下げられても、伊吹にとっては困るだけだ。

 二人に任せておき、自分はやりたい事をさせてもらおうと思うのだった。

 

 そんなやり取りをしていると、美子と京香が事務所へ昼食を配膳しに来た。

 燈子は慌ててテーブルの上に広げていたイラストを片付ける。

 そして、テーブルには三人分の昼食が置かれた。


「あれ? これだけ?」


「はい、伊吹様と藍子様と燈子様の昼食でございます」


 そう言って、美子と京香が伊吹の後ろ、美哉と橘香の隣へと控える。


「えー、皆で食べようよ。屋敷にいる時みたいにさ」


「いえ、そういう訳には参りません」


 伊吹としては屋敷にいた時と同じく侍女も含めて皆で一緒に食べた方が楽しいと思っている。

 前世一般人の伊吹としては、主人である自分だけが食事をするというのが居心地が悪いのだ。


「そんな事言ってもさ、藍子さんも燈子さんも四人が立って見守ってる中でご飯食べるの、居心地悪いと思うけど」


 ね? と同意を求められ、曖昧に頷く二人だったが、実は二人も実家では複数のお手伝いさんがおり、家事全般を自分を含めた家族がする事はない。


「ほら、二人も居心地悪いって。座って一緒に食べよーよ」


 実はこの中で一番庶民派なのが伊吹だ。

 前世では一般家庭で育ち、それが当たり前であると思っているので、生まれ変わった今の方が違和感を覚えているまま現在に至る。


「もうこの二人も身内みたいなもんでしょ?

 ねぇ、あーちゃん、とこちゃん」


「そそそっ、そうです身内です!」

「……二人とも自分が何言ってんのか理解してないな、これ」


 結局は伊吹の訴え通り、伊吹と藍子と燈子、そして侍女の四人を含めて七人で昼食を共にする事となった。

 伊吹はいつも通りだとニコニコとご機嫌の様子だったが、藍子と燈子が気まずそうにしているのには気が付かなかった。

 後ほど美子から伊吹の我が儘に付き合わせて申し訳ないとの謝罪を受け、二人はさらに恐縮するのだった。

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