男性に聞く百の質問、撮影終了
「それでは最後、百問目です!
これを観ている視聴者さんへ一言!!」
「チャンネル登録、高評価、更新通知設定、YoungNatterと他のSNSでの拡散、友達や家族へのオススメをお願いします!」
「以上、お疲れ様でした! ありがとうございました!!」
「それではキャラ絵作りから始めましょうか。まずは四兄弟っていう設定を前提として……、と。
はい、ここで止めて下さい」
「止めました」
ふぅ、と伊吹が息を吐く。ほぼ休憩なしで百の質問に答えるのは結構な体力を消耗した。
途中途中で事前に用意していた視聴者へ聞かせたい内容を差し込んだ分、余計に撮影時間が長くなってしまった。
「どこまでホントでどこから冗談か分からないけど、お兄さんの発想力がとてつもないって事は確かだわ。
動画内容もそうだし、VividColorsの株にしても3DCGのクリエイターが欲しいから会社ごと買うだの……。
もう私は並行世界から来たって言葉を信じる事にするわ」
燈子も動画後半部分の質問者を務めており、撮影が終わって緊張感が抜けると、ずしっと身体にかかる疲れを感じていた。
「とこ軍曹、今から四人分のイラスト選ぶ?」
「……ちょっと休憩させてもらえない? 河本さん達も引っ越してすぐに制作に入れないでしょう」
確かに、と伊吹は納得する。
「それに、今撮影した動画も編集しないとだし」
「え? とこちゃんが編集してくれんの?」
「私以外誰がすんのよ。あーちゃんは弁護士と税理士とやり取りしないとだし。
お兄さんが自分でする?」
いつの間にか伊吹と燈子の距離感が狭くなっているのに気付く藍子。羨ましい気持ちと、自分にはまだ無理だなと思う気持ちの両方がある。
敬語じゃなくて良いよと言いつつ、伊吹は自分に敬語を使って話す。燈子のように砕けた雰囲気で話し掛ければ、同じように接してくれるだろうか。
勇気を出して口を開きかけるが、今の関係が崩れてしまうのではないかという恐れがあり、藍子は伊吹へ呼びかける事が出来なかった。
「そっか、一ヶ月後にって動画内では言ってたけど、もっと早く投稿出来るよう準備をするって言ってたもんね」
「そそ。
まず『男性に聞く百の質問』を投稿する。
チャンネル登録者が十万人突破したら、それから『とても多くの反響を頂いているので、一週間後に生配信開始します』という字幕だけの動画を投稿する。
こちらは最初からそのつもりだから、チャンネル開設より前に男性キャラのアバターを用意しておく」
「何だかやらせをするみたいですね」
藍子がそう呟く。
(やらせってこの世界でもあるのか)
伊吹はどの世界も業が深いなぁと思いつつ、藍子へと確認する。
「まぁそうなるかな。
やらせだって分からなければ問題ないですよね?」
「はい、大丈夫だと思いますよ」
伊吹の予想では、喉仏動画を投稿したその日のうちに登録者百万人を突破すると考えている。
根拠がないので口には出さないが。
「午後に河本さん達四人がこのビルに引っ越して来て、今日は無理だとしても明日から作業開始して五日。今から数えて六日後に生配信可能になる。
って事はチャンネル開設と喉仏動画の公開は今日でもいいな」
「良くない。さっきも言ったけどそもそも投稿する動画も編集出来てない。
キャラ名考えられてない。
イラスト決められてない。
ホントに五日でアバターが出来るかも分からない。
ちょっと焦り過ぎなんじゃない? どしたの?」
「だって、少しでも早く裏切り者達を見返したいじゃん」
伊吹は元一期生である伊地藤玲夢の生配信を見た事を藍子と燈子に伝える。
藍子の事を貶し、自分を正当化し、視聴者から見て自分がどう思っているか考えなしの発言をし、投げ銭をくれた相手をバカにする。
何でこんな奴がのさばっているのか。
許せない。
自分が男だからというだけでなく、純粋に配信者として玲夢との違いを見せつけ、ボコボコにしてやりたい。
「だから、一日でも早くVtunerデビューをしたいな、と」
「そんな配信してたんですね、声を掛けた自分の見る目のなさに崩れ落ちそうです……」
伊吹の熱い想いに胸を打たれるよりも、玲夢の酷さとその玲夢に金を掛けてVtuner化させた自分に対し、藍子は強いショックを受けている。
「玲夢に声を掛けたのも藍子さん。僕に声を掛けたのも藍子さん。
藍子さんが悪いんじゃなくて、玲夢が悪い。
大丈夫、僕があいつをやっつけてやるから」
そう言って、伊吹は藍子の頭を撫でてやる。
「えっと、その、あの……。
一緒に頑張りましょう!!」
「うん、絶対に成功させようね」
そんな二人を、美哉と橘香は澄ました顔で見つめていた。




