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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第三章:Vtunerデビューの準備

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残された四人

 藍子(あいこ)燈子(とうこ)はオフィスビルに入り、エレベーターでゲーム制作会社があるフロアへ到着。

 エレベーターのドアが開くと、先方が待ち構えていた。


「わざわざご足労頂きましてありがとうございます!

 ささっ、こちらでございます」


「え、えぇ、お邪魔します」


 待ち構えていた女性がフロア内を先導し、オフィスの扉を開けて二人を招き入れる。


「おーい、お茶! 二名様!!」

「ただいまー!!」


『間違えて飲食店入っちゃった?』


「ん゛ん゛っ、笑わせないで……」


 小声で伊吹に注意し、勧められた椅子へ座る燈子と藍子。


 燈子は以前、Vtuner(ブイチューナー)二期生のアバターの作成相談に来た時とは雰囲気が違う事に気付く。

 前回来た際は社内にもっと活気があり、人もおり、それぞれのデスクには書類や何やと溢れかえっていたが、今は静かだ。

 デスクも片付けられており、人も少ない。少し離れたデスクで荷物の整理をしているのが見える。


「初めまして。社長の河本(こうもと)多恵子(たえこ)と申します」


山路(やまじ)(さち)と申します」


「お世話になっております。宮坂(みやさか)藍子(あいこ)と申します」


 燈子がオフィス内を窺っていると、藍子が先方二人と名刺交換をしていた。

 伊吹もインカム越しではあるが、やけに静かだと思い、燈子へと指示を出した。


『人少なそうだね、もしそうなら咳払いして』


「ゴホンッ! 失礼」


 燈子が指示された通り咳払いをする。


「いえいえ。

 それで、ご連絡頂いた件なのですが……」


『世間話なし。本当に余裕なさそうだな』


(本当に箱入り息子なの? お兄さん、どこでそんな洞察力を磨いたのよ)


 燈子が伊吹の持つ能力に驚いている間に、藍子と先方二人との話が進んでいた。


「とある実業家、と仰っておられましたが、その、会社ごと買いたいとか、そんなお話だったりします?」


「え? えっと……」


 藍子は思っていた以上に二人の会社の状況が切羽詰まっているのを感じ取り、どう説明するべきか困ってしまう。

 すかさず伊吹が燈子へと指示を出した。


『とこ軍曹、とある実業家設定は破棄。

 VividColorsヴィヴィッドカラーズだと正直に伝えよ。送れ』


 燈子が藍子を手で制して、二人へと説明を始める。


「とある実業家と申しておりましたが、実を申しますと弊社でして……」


「VividColorsさんが、ですか?」


 ゲーム制作会社へ発注したアバターはすでに納品されている。支払いも完了しているが、その後に所属YourTuner(ユアチューナー)との問題が発生した事は、先方二人も知っている事だ。


「所属Vtunerとのいざこざがあり、一時倒産の危機かと思ったところに良い出会いがありまして。

 弊社の事業や目標などに共感頂き、株主になって下さった方がおられたのです」


『まだ僕が男性って事は伏せとこっか。

 アバターをより高度で高品質なものにしたいから、がっつりと開発に付き合ってくれる企業と提携したい、何なら会社ごと買う事も検討してるって伝えて』


 伊吹の指示通り、先方へ説明を続ける燈子。


「Vtunerの活動は将来的に世間に好評を得るだろうと確信し、より高度で高品質なアバターを今から開発したいという事になりました。

 事業の重要性を鑑みて、密に連携を取れる企業との提携。もしくは部署か会社ごと買収する事も検討しているのです」


 二人は真剣な表情で燈子の説明に聞き入っており、感触としては決して悪くない印象を受ける。


「……つまり、私達が望めばVividColorsさんがうちの会社を買ってくれるって事で良いのでしょうか?」


 先方が売る姿勢を示したが、ここで焦ってはならない事を伊吹は前世の知識で知っている。

 売りたいからには何らかの問題を抱えている可能性が非常に高い。

 伊吹は落ち着いた声で燈子へと指示を出す。


『その前に先方の状況を確認して』


 燈子は河本と山路へと微笑む。


「その前に、御社のご状況をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「分かりました。

 その、大変お恥ずかしいお話なのですが……」


 社長の多恵子と幸は、大学卒業前にゲーム制作会社を立ち上げた。サークル仲間の八人で、趣味を仕事にしようと夢見たのだ。


 作ったゲームの最初の何作かはそれなりに売れ、利益もそこそこ出たのだが、時代の流れで十八禁ゲーム業界全体の売り上げが大幅に減少してしまった。


 元々学生のノリの延長で続けていた一人は夢に見切りを付けて一般企業へ就職し、別の一人は実家へ戻って家業を継いだ。

 この辺りの時期にVividColorsからの依頼があったり、その他の細々した仕事をこなして何とか食いつないでいた。


 しかしつい先日、ゲーム開発の中心であったプログラマーがその技術を買われて大手ゲーム制作会社へ就職し、シナリオライターは応募した小説が受賞したので、プロの作家としてデビューする予定であると告白してきた。


 残されたCGクリエイターである多恵子、幸、鳴海(なるみ)ルミ、平野(ひらの)(すず)の四人が途方に暮れているちょうどその時に、燈子から3DCGが出来る企業の買収についての連絡が来たとの事だった。


『辞めてった人らの持ち株ってどうなってんだろ』


 伊吹から発せられた疑問を受けて、燈子が多恵子へ質問する。


「会社を離れられた方々の株って今どうなっているんですか?」


「株、ですか……。あぁー」


 多恵子と幸が顔を見合わせて、表情を歪ませる。


「何も決めずに辞めてったので、宙に浮いている状態ですね」


 二人は今後の会社の行く先ばかり考えており、分散してしまった会社の株式の事など頭になかったのだ。

 頭のどこかに、このまま会社は終わるだろうから株の事など関係ない、という考えがあったのかも知れない。


 一方、伊吹は多恵子達の会社の状況が良くない事を危惧していた。

 もしも多恵子達が会社を解散させるのであれば問題ないが、今回の企業買収の提案を受けたり、ゲームが思わぬ大ヒットをして莫大な利益を上げた際、会社を離れた株主達の存在が非常に邪魔になってしまうからだ。


『うわぁ、買収しようにも売り主が不在だから交渉のしようがないな』


 そうするべきかと考えた後、伊吹は燈子へ質問する。


『そのオフィスは賃貸?』


「このオフィスは賃貸ですよね?」


「はい。もう残り資金がギリギリで、来月分は払わずに退去しようかと話していたところだったんです。

 四人であれば誰かの部屋に集まって、同人活動レベルなら続けられるかな、と。

 ですので、会社ごと買って頂けるのであれば非常に嬉しいのですが……」


 多恵子が藍子と燈子の顔色を窺う。


 しかし、伊吹は会社を離れた四人の株が不確定要素であると感じ、買収は一旦保留する判断を下した。


『買収の件は保留。こちらとの買収の話を進める前に、離脱株主四人に連絡を付けて、持ち株を譲渡させるなり放棄させるなりしないとダメだ。

 残った四人だけで進めると権利関係でややこしくなる可能性がある』


(何でこの場でそんな事まで思い付けるの!?)


 伊吹の指示に対して燈子は内心驚きつつも、表情は変えずに多恵子と幸へと買収の保留を伝える。


「そんな……」


 絶望していたところに浮かんだ一筋の希望が消えようとしているのを感じ、多恵子と幸が泣きそうな表情を浮かべる。


 だが、伊吹の判断はそれだけではなかった。


『藍子さんにこっちのビルの空いてるフロアを使ってもらう事は可能か確認して』


(それはどうかな……)


 燈子は伊吹がVividColorsの事務所にいる以上、それは難しいのではないかと思った。

 案の定、インカム越しに小杉が伊吹へと難色を示すような声が聞こえてくるが、確認だけはしておくべきかと思い、燈子が藍子へと判断を仰ぐ。


「社長、株の件が解決するまでうちのビルの空きフロアを使ってもらうのはどうでしょうか?

 こちらとしても諸々の調整は必要だとは思いますが」


 少し含みを持たせた燈子の言い方を察し、藍子が答える。


「そうね、ちょっと準備と他部署への連絡が必要だけど、私としてはフロアをお貸しするのに依存はないわ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 立ち上がって頭を下げる多恵子と幸。聞き耳を立てていたルミと鈴も藍子と燈子とのやり取りを受けて、頭を下げている。

 そんな四人に向けて、燈子が慌てて手を振る。


「まだ決まった訳ではないので! フロアをお貸しする件については持ち帰って話し合う必要がありますので!!」


「いえ、今の私達にそこまで言って頂けるだけで十分ありがたい事です。

 もしダメでも、それはそれで踏ん切りが付きますし」


 四人は顔を見合わせ、頷き合っている。

 もう会社を解散する方向で話が付いていたのだろう。


 藍子と燈子が四人とそんなやり取りをしている間に、伊吹が小杉と交渉し、伊吹のいる六階から離れた二階か三階であれば良いだろう、という回答を得ていた。

 しかし、燈子がこの話は持ち帰る、と言ったのを聞いていたので、伊吹はこの件は後回しとした。


『ごめん、大事な話を聞き忘れてた。銀行からの借り入れがないか確認して』


(確かにそうね、気が付かなかった)


 燈子は改めて多恵子と幸へ向き直り、借り入れについて確認する。


「すみません。念の為に確認させて頂きたいのですが、銀行からの借り入れはありますか?」


 多恵子が苦笑を浮かべて答える。


「いえ、起業する時に何行(なんこう)か回ったんですが、どこも相手にしてくれなくて借りられませんでした。

 ちなみに、親や親戚や友人からの借り入れもありません」


 新たに会社を作る際、銀行に融資を依頼してもほぼほぼ断られる。基本的に自分達でお金を出し合うしかない。

 多恵子達の場合は、最初に作った何作品かの収益があったお陰で、今の今まで会社を存続させる事が出来ていたのだ。


『今のところ、確認が必要なのはそんなもんかな』


「分かりました。弊社のビルへ移ってもらえるかどうかのお返事については、明日改めて連絡させて頂きます。

 もし可能であれば、残り四名の株主へ株を手放すよう連絡しておいて下さい」


 燈子の後に続き、藍子が口を開く。


「必要な手続きについては私の馴染みの弁護士に頼みます。

 同じく、明日にはご連絡を入れるよう依頼しておきますので」


「よろしくお願いします」


 多恵子と幸が二人へと頭を下げる。

 伊吹は念の為、多恵子達に金銭問題へと発展しないように助言する。


『会社を離れた四人には買収の話をしないように。株の売却額を吊り上げられる可能性がある。

 金の匂いをさせないよう釘を刺しといて』


「くれぐれも買収の話は内密に。知られれば、株を高く売ろうとするかも知れません。

 ただ株を手放してほしいと伝えるに留めて下さい」


 会社を離れた四人と残った四人の関係性について、伊吹も藍子も燈子も知る由もないが、そういう可能性もあるとして頭に入れておく必要がある。


「なるほど……」

「確かに」

「あり得るわ」

「足を引っ張られてなるもんですか!」


 燈子の念を押す言葉を受け、四人は大きく頷いてみせた。

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