伊吹の失言
「ええ、3DCGを作成出来る企業を探していまして。事業の重要性から、外注ではなく自社制作で統一したいと考えているらしいんです。
不躾な質問になるのですが、御社は事業譲渡や会社の売却なんか考えておられないかなぁと思いまして……。
本当ですか!?」
燈子がその場でアバターの作成依頼をしたゲーム制作会社に連絡をしたところ、すぐに話を聞きたいから今すぐ御社へ向かいたい、と申し出があった。
「えーっと、ちょっとお待ちくださいね!
今すぐ話を聞きたいからこのビルに来たいって言ってるんだけど、どうかな?」
燈子が伊吹と藍子に確認すると、二人が返事をする前に伊吹の護衛として室内で待機していた宮坂警備保障の小杉が難色を示した。
「現在このビルは関係者以外立ち入り禁止となっております。
伊吹様の警備の都合上、部外者を入れるべきではありません」
と言う事で、燈子がすぐにゲーム制作会社へ向かう事になった。
「あーちゃん、あたし一人だと不安だから着いて来てくれない?」
「ええ、もちろん良いよ」
藍子と燈子が外出する準備を始める。そんな二人を眺めならが、伊吹は可能ならば自分も着いて行きたいと思った。
(前世は仕事でしょっちゅうお客さんと打ち合わせしてたもんな。
何だか懐かしいな)
伊吹はふと、自宅でテレワークをしていた時の事を思い出した。
(直接行かなくても電話さえあれば打ち合わせは出来るな)
「藍子さん、先方の会社に着いたら僕に電話してくれませんか?
ハンズフリー通話にしてもらえれば、僕も話し合いに参加出来ますから」
伊吹がそう提案したのだが、その案はちょうど昼食を運んで来た美子によって待ったが掛けられた。
「伊吹様が直接お話されるのは避けて頂きたいです」
三ノ宮家と親戚関係にあたる宮坂家であれば信用が出来るが、全くの赤の他人であるゲーム制作会社の人間に、男性の存在を明かすのは避けるべきであると美子は説明する。
ただでさえ屋敷を襲われたところなのだ。警戒するに越した事はないと思い、伊吹は美子の言う通り、自分が表立って話す事はしない方向で考え直す。
「ハンズフリー通話で、藍子さんと燈子さんが話しているのを聞いているだけじゃ意味がないしなぁ」
大学を卒業したばかりの藍子と、現役大学生である燈子の二人だけでは、正直に言って頼りないと伊吹は感じている。
伊吹は何とか自分も先方との話し合いに参加出来ないものかと考えていると、燈子が妙案を思い付いた。
「宮坂警備保障からインカムを借りて、やり取りをお兄さんが聞けるようにしたらどうかな?
イヤフォンしてても髪の毛で隠しておけばバレないだろうし、何か指示をくれればあたしが代わりに先方に聞くから」
「なるほど、それは良いですね」
燈子の提案が受け入れられ、小杉に頼んで宮坂警備保障からインカムを二台借り受けた。
一台は燈子が右耳にイヤホンを仕込み、もう一台はこの部屋に置いておき、伊吹が会話を聞きながら指示を出すのだ。
「試しに何か喋ってみて」
通話試験として、伊吹がインカムを使って燈子へ話し掛ける。
「燈子さんはどんな十八禁ゲームが好きなんですか? どうぞ」
「そんなの言える訳ないじゃない!」
燈子は顔を真っ赤にして叫んだ。
「では、行って参ります」
「先方の会社に入る前にインカムを通じて連絡するから」
「ええ、よろしくお願いします。お昼時なのにすみませんね」
「いえいえ! 先方の都合ですし、こちらとしても早い方が良いと思いますのでお気になさらないで下さい」
ペコペコと頭を下げる藍子を、燈子が引っ張って事務所を出て行った。
申し訳ないなぁと思いつつ、伊吹は美子が用意した昼食を摂る事にした。
「「「「いただきます」」」」
この場には伊吹と美子と美哉と橘香しかいないので、屋敷にいた頃と同じくテーブルを囲んで食べる。
ご飯と味噌汁と肉野菜炒めとお漬物。伊吹が小さい頃から好き嫌いせず大抵のものを食べたので、バランスの良い食事となっている。
「はぁ、おいし」
実家の屋敷ではないが、いつもの雰囲気で落ち着いて食事が出来る。
一時はどうなるかと思った伊吹だが、周りの人に助けられ、自分は生きているのだなと再認識させられた。
「そう言えば、京香さんはどれくらい掛かるんだろ」
「初回ですので、色々と手続きに時間を取られるんです。夕方には戻るかと」
今朝に伊吹が美哉と橘香によって搾り取られた精液を、京香が男性保護省へ提出にしに行ったまままだ帰って来ていない。
美子が問題ないと言っている以上、伊吹は待つしかない。
自分が迎えに行く事は出来ないし、もし迎えに行くとなると何人の手を煩わせる事になるか、伊吹も理解している。
「でも採取するたびに提出しに行ってもらうのも大変ですよね。
屋敷から最寄りの提出先ってどれくらいのところにあるんですか?」
「片道一時間半くらいですね。美哉も橘香も在学中に運転免許を取っているので、それほど大変というほどでもありません」
「いやいや、毎日往復三時間は大変でしょ」
「「「え?」」」
美子がポカンとした表情で浮かべており、美哉と橘香も伊吹の顔をじっと見つめている。
「ん? あっ……」
そんな三人を眺めて、ようやく伊吹は自分の失言に気付き、顔を赤らめる。
美哉と橘香が国立侍女育成専門学校へ入学したのをきっかけに、伊吹は祖母である心乃春と美子と京香と交渉し、何とか一人で入浴する権利を獲得した。
毎日、入浴後は侍女から全身マッサージを受ける為、迸る精力を排水口へと垂れ流していた伊吹。
一方、全身隈なくマッサージしても伊吹の身体が反応を示す事は少なく、寝室にも使用済みティッシュなどのそれらしい形跡がない事から、三人は伊吹が性欲の少ない典型的な男性だと思っていた。
が、今の伊吹の失言で何となく伊吹の隠し事を察した美子。
「なるほど、だから六本分も」
「すごかった」
「止まらなかった」
伊吹はさらに顔を赤く染め、俯く。
下ネタが平気である事と、自分が隠していたオナニー事情を家族に悟られる事では訳が違うのだ。
「となると、毎日六本とはいかなくても一日一回採取可能として、伊吹様が仰る通り毎日提出するとなると大変ね。
でも、精液提供は男性の大事なお勤めですもの。侍女である私達が責任を持って届けるべきかしら」
「毎日六本だったらいっちゃ……、伊吹様のお子がどれくらい生まれるのでしょうか」
「……想像しただけでにやける。ちっちゃい伊吹様がいっぱい。可愛い」
食事中に下ネタは止めよう、と言いそうになる伊吹だったが、最初に話題にしたのは自分だ。
何も言えず、黙々と食事を続ける。
「保護省か保健所の方から毎日取りに来てもらうって出来ないかな。
毎日採取可能な伊吹様なら、特別扱いしてでもその価値がある」
「いやいや、美哉? 毎日取りに来られる僕の身にもなってね。
催促されると出るものも出なくなるよ?」
さすがにツッコミを入れる伊吹だが、美哉も橘香もその程度のツッコミでは止める事が出来ない。
「そんな事ないはず、です。伊吹様なら毎日一杯出ます」
「一杯出るようお手伝いします」
「勘弁して下さい!」




