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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第三章:Vtunerデビューの準備

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伊吹と美哉と橘香

 藍子(あいこ)は改装工事の関係各所への支払い手続きを済ませた後、馴染みの弁護士へ役員登記など諸々の手続きを依頼した。


「お兄さん、本当に配信者になるの?」


 燈子(とうこ)は今さらお兄さん呼びを止めるのもなと思い、伊吹をお兄さんと呼び続けている。


「はい。しばらくはこっちにいる事になったし、このビルには配信環境があるんでしょう?」


「そっか、分かった。

 とにかく、お兄さん達は部屋に戻って休んでてよ。事件から昨日の今日で撮影を始める必要なんてないからさ。

 あたしは今のうちに『男性に聞く百の質問』の内容を考えとくよ」


 伊吹は燈子の勧めに甘えて、侍女達を伴って昨夜借りた配信部屋へと戻った。


 福乃(ふくの)宮坂(みやさか)警備保障の職員達を連れ、他フロアへと移動している。

 許可なき者を伊吹(いぶき)がいる六階まで通さないよう監視しているので安心するように、との事だった。



 二十畳ほどの部屋にテーブルとイスが置かれ、その奥に配信スペースが用意されている。

 配信スペースにはパソコンデスクとオフィスチェア、そしてその後ろにグリーンバック用のロールカーテンがある。

 マンションで一人暮らしする部屋、としては少し広いが、伊吹と侍女四人で寝起きするには狭い。


 伊吹がソファーに座ると、橘香(きっか)がずっと大事そうに抱えていた肩掛けカバンが京香(きょうか)へと手渡された。


「今朝採取させて頂きました精液を、男性保護省の方へ提供して参ります」


「あ、ハイ」


「六回分も採取出来るなんて、聞いた事がございません。素晴らしい事ですよ」


「イエ、娘サン達ノオ陰デス……」


 伊吹は全身を襲う快感に耐え、目を瞑っていただけである。



 通常、男性の体内から射精された精液は、二・三時間でダメになってしまう。

 その為、特殊な液体に満たされた精液採取器を使って採取するのだが、それでも二日も持たない。

 原則、採取された精液はその日の内に最寄りの保健所へ提出する必要する事になっている。


 伊吹の場合、今回が初回の提出という事で、提出先が男性保護省となる。

 屋敷襲撃の件がなくとも、男性保護省の出張所に赴いて採取を受ける段取りとなっていた。

 伊吹はその事を事前知識として聞かされていたのだが、自分で出して自分で採取するものだと思っていた。


(まさか美哉(みや)と橘香に搾り取られるとは思いもよらなかったなぁ)


 初回提供時、男性保護省にて精液から射精した者の遺伝子を解析する。

 遺伝子を分析しておかないと、父親が誰か分からなくなり、受精させる卵子と近親交配となり、遺伝子異常を持った子供が生まれてしまう可能性がある。


 ただでさえ男性が少ないこの世界において、どの女性の卵子をどの男性の精子でもって人工授精させるのかは、国によって徹底的に管理されている。

 ただし、公平を期す為に女性側が特定の男性の精液を選ぶ事は出来ない。男性側が情報開示を求めた際は、自分の精液が誰の卵子と受精したか、どこに自分の子供がいるのかを知る事は出来る。


「この精液で、どれだけの女性がお子を授かるのでしょうか。

 心乃春(このは)様も咲弥(さくや)様もお喜びだと思います」


「あ、ハイ」


 たくさん精液が出たからお母さんとおばあちゃんも喜ぶよ、と言われても、伊吹はそうですねと返す精神構造を持っていなかった。



 提供された精液は、一回の射精分から数百に分割される。

 分割された精液の原液を溶液で薄めて容器に入れ、人工授精の際に女性の体内へと注入される。

 詳細は国家機密とされており、どの国であっても公表されていない。



 男性は週に一度の精液提供を努力義務として課されている。体調が優れない際は免除される事もあるが、提供を拒否したり私的に流用したりすると男性保護費の削減などの罰則を受ける事がある。


 また、今回の伊吹にように必要数以上の提供がなされた場合、保護省より精液採取器一つにつき五十万円の謝礼が支払われる。


(まるで種馬だな)、


 伊吹としてはそう思わざるを得ないが、そのお陰でこの国の人口は維持されているし、地球全体として見ても必要な事である。


 娘がその手でその口で、自分から採取した精液をさも素晴らしい宝物のように語る京香(きょうか)を見ても、伊吹はそういうものだと受け入れるしかないのだ。



 京香が保護省へ向かい、美子(よしこ)が部屋の事で藍子と相談があると出て行った。

 伊吹が一人ソファーに座り、美哉と橘香は伊吹の後ろに立って控えている。


「みぃねぇ、きぃねぇ。こっち来て座りなよ」


「私達は侍女だから」

「伊吹様はご主人様だから」


 朝の話し合いについては決着が付いていなかった。伊吹が冗談っぽく命令した内容については、精液採取で話が流されてしまったのだ。


「じゃあさ、せめて三人だけの時は今まで通りにしてくれない?

 今さら僕がご主人様で、みぃねぇときぃねぇに偉そうに振る舞うなんて出来ないよ」


 侍女としての教育課程を修了した美哉と橘香からすれば、今までがおかしかったのだと思っている。


 伊吹の母親である咲弥の希望で、男女を意識せず幼馴染として育った三人。

 咲弥は美哉と橘香に、伊吹と男女や主従を越えた関係を築いてほしいと思っていたのだ。


 しかし伊吹の祖母である心乃春は、最初から二人を優秀な侍女になるよう育てていた。

 咲弥と心乃春の方針の相違が歪みを生み、今の二人を苦しめる。


(最初から侍女としてのみ育ててくれれば、こんなに苦しい想いをする必要はなかったのに……。

 でも、もしそうだったとしたら、今自分に向けられているいっちゃんからの愛情は、同じように自分の心を満たしてくれただろうか)


 美哉は伊吹の真剣な眼差しを受けて、小さく息を吐く。


「……分かった」

「美哉!?」

「三人の時だけ。

 それと呼び方、もう私達をみぃねぇきぃねぇと呼ぶのはダメ。

 美哉と橘香。これだけは外せない」


 美哉が橘香に目線をやると、戸惑っていた橘香も小さく頷いて見せた。

 そんな二人の目線でのやり取りを確認した後、伊吹が答える。


「うん、分かった。じゃあそうしよう。

 橘香も、それで良い?」


「……分かった」


 呼び捨てにされた橘香の口角が、ほんの少しだけ上がる。


「じゃあ座って。おばあ様の話がしたいんだ。

 ちゃんとお別れ出来てないから、三人でお別れ会をしたい」


 美哉が少し拗ねたような表情を見せて、伊吹の隣に座る。


「ちゃんと私の名前も呼んで」


「ははっ、そうだね。

 ごめん、美哉。

 ……、まだちょっと照れ臭いな」


 三人は手を取り合って、心乃春の思い出を語り合った。

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