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第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 7

 広大な宇宙空間にあって物体の大きさは、近づかねば捉えづらい。それでも、その威容は周囲を取り巻く大小の恒星戦闘艦との対比でもって、一見してそれと分かる。全長二十キロメートルを超える猛獣の如き顎に三隻の重戦艦と胴体に超大型輸送艦を持つ、神の槍クロノス・クロックを使用する為に作られた古代兵器運用艦ギガントス。この艦と比べれば、殆どの艦艇が小型艦だ。その中にあって、ギガントスに寄り添う船体に無数のハニカム柄をした超電磁誘導チューブからの出撃口が並ぶこの場の大小戦闘艦を圧する巨艦が、トルキア帝国が擁する大型強襲母艦ラージアタツクキヤリアーガダールだ。


 その艦橋エリア。一見巨大都市の一角かと見紛うほど広大なその中央にある吹き抜けに、外部を半球状で投影するホログラムスクリーンに重なり浮かぶ大きなホロウィンドウに、鼠色の髪を後ろで束ねた目が頬に埋もれ気味で残忍そうな華美な青を基調とした軍服を纏った中年男が映し出されていた。


 濁ったようなダミ声が、がなり立てる。


「何をやっておる。貴様の愚鈍な玩具を動かし、クロノス・クロックを使わぬかっ! ボルニアの狂犬共に噛みつかれておるのだぞ。海賊の如き力尽くで野蛮人共が雪崩れ込み、我が経世兵団群は出血を強いられておるのだ」


 それを正面に捉える総合指揮所・発令所では、総合指揮卓のマルチファンクションテーブルを背に淡青色の双眸を無感動にするマーク・ステラートが指揮官シートに座していた。傍らには、アンティックゴールド色を基調とした銀色の繊細な胸部プロテクターを有するグラディアート機乗服を纏う、たおやかな全身の乙女が立っている。マークの契約ファントム・エリーシェだ。鮮麗な美貌は、やや冷たかった。


 静謐な声を鳴らすように、マークは口を開く。


「贅沢というものだな。当初数で勝っていた強国ボルニアと、十分互角に持ち込めたではないか」


「随分、余裕ぶっておるものだな。そのデカ物を作って結社に与えてやったのは、トルキアとミラトだぞ。虎の子のクロノス・クロックを、遊ばせておくつもりなど毛頭無いぞ。存分に働いて貰おう、琥珀色の騎士(アンバーナイト)殿」


 ボルニア帝国前皇帝が翻意を懸念するアルノー大公を牽制する為呼び込んだトルキア帝国の兵団群は、世を治める経世兵団群と呼称していた。その司令官がホロウィンドウに浮かぶ、長い贅沢な暮らしでだらしなく贅肉がついている男だ。


 その司令官の威圧的態度に、マークは傍らのエリーシェと視線を交わし、一瞬苦笑を浮かべた。


 銀河に十名しかおらぬ十色の騎士(イクス・コロルム)としての豪胆さで持って、常と変わらずマークは答える。


「エッセリンク司令、古代兵器には使いどころがある。女帝ヴァージニアの身柄が確保できれば、この決戦、トルキア帝国側の勝ちだ。待って貰おう」


「我が命は、兄であるトルキア帝国皇帝の命と同義ぞ。この経世兵団群を任されたフォンス・ファン・エッセリンク、エッセリンク公爵家の養子となったとはいえ、トルキア帝国皇族。弁えろ、マーク」


 残忍さのある顔をずいと近づけると、ホロウィンドウが掻き消えた。


 小さな吐息と共に、やや低い美声をエリーシェは響かせる。


「どうする? ギガントスは、急造艦。連続使用には、難があるわ」


「仕方が無い、言い訳程度に使って見せるしかない。一度使えば、嫌でも敵の目に留まってしまうがな。向かってくる敵は俺達で阻む。幸い、このガダールの兵団群八万は好きに使える」


 エリーシェ同様乗機アヴァロンと同色のアンティックゴールド色をしたグラディアート機乗服に身を固めるマークは、シートから身を起こした。

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