第六章 惑星エブルー周辺域反撃戦 5
艦橋エリアの吹き抜けに外部を半球状で投影するホログラムスクリーンに重なるホロウィンドウに、拡大されたボルニア帝国艦隊が映し出されていた。紡錘形の陣形をとったボルニア帝国艦隊は、全周囲外園に重戦艦や戦艦など強力なフィールドと重装甲を有する無人にした恒星戦闘艦を配していた。それが今、トルキア帝国艦隊の包囲網の一角に穿った穴めがけて突撃を開始していた。流石に主砲クラスの殲滅の光弾砲とはいえ、数発ではフィールドとエネルギー伝導表面硬化型シールド装甲を穿つことが出来ず、時折散花と死に花が咲くがトルキア帝国艦隊の攻撃は強靱な盾が存在する間は有効性に乏しかった。
AIサポート参謀担当官白髪の老人フォルマンが、綺麗に切り揃えた白髭に手をやり推し量るような声を落とす。
「女帝陛下からのご命令によれば、穿った包囲網の一角から全艦隊で敵艦隊に雪崩れ込めとのこと」
「その間、双方殲滅の光弾砲を用いたヘビーブローのがちの殴り合い。戦艦が何隻スクラップになることか」
「そのまま敵艦隊に雪崩れ込むとは、まるで海賊戦法だな」
応じたAIサポート補給担当官ニコラ・ラデュースが痛そうに太ったお腹をさすり、続くAIサポート運用担当官のエドガール・マリネルが官僚のような批判を滲ませた。
元からの軽巡航艦ローレライ二のクルーのAIサポート航宙担当官リグネル・ヴィレールが気難しげな様子で、殲滅の光弾砲を敵と撃ち合う十六万隻弱のボルニア帝国艦隊に冷ややかな視線を送る。
「敵の艦艇と入り乱れれば、互いに殲滅の光弾砲での同士討ちを警戒し最強武器も実質的に使用不可能になる。一度離れて仕切り直す気は、女帝陛下にはさらさらないということか」
「突撃で高コストの戦艦を犠牲にし、離脱で今度はグラディアートを搭載した艦艇まで失うリスクは犯せないということだろ」
「ま、敵艦隊に雪崩れ込んでそのままグラディアート戦に持ち込めば、まだ敵とほぼ同数のグラディアートが健在なんだ。ボルニア帝国のキャバリアーが、トルキア帝国のキャバリアーに遅れを取ることなど先ずないと踏んだんだろうさ」
納得顔の軽巡航艦ローレライ二AIサポート機関担当官の髭面のがっちりした体格をした中年男性ジャコブに応じるバジルは鼻を鳴らし、だが、サブリナは甚だ疑わしげだ。
「トルキア帝国軍が通常なら、只がっちりぶつかり合えば勝てるでしょうね。けど」
「敵には、切り札がある」
サブリナが切った言葉の後を、ヴァレリーが続けた。
敵殲滅の光弾砲を防いでいた戦艦も、流石に集中する火線に船体が傷つき始めた。無人艦は船体に穴を穿たれようが、突撃を止めることはない。ホログラムスクリーンに殲滅の光弾砲が今正に、戦艦正面のエネルギー伝導表面硬化型シールド装甲を打ち抜き棒状に船体を抉った。
ボルニア帝国艦隊は十六万隻弱ほどが健在で、その数では流石にミリタリー推力での艦隊運動は出来ず、それでも巡航速度で広大な空間を突っ切り五分とせずに軽巡航艦ローレライ二も駐泊する周辺域に到着するのは確実だった。ぎりぎり、盾となっている重戦艦や戦艦も持ち堪えそうだ。
ダークブラウンの髪を片側に垂らした妙齢なAI通信担当官、マリーズ・ジュアットが美声を響かせる。
「ドゥポン兵団群旗艦ポトホリから通達。ドゥポン艦隊は味方艦隊到着前に周囲の包囲網の穴を広げる為、直援艦隊と連携し敵艦隊に突入。兵団群としての役割を果たせ」
「キャバリアーに伝達。総員、グラディアートに機乗。出撃命令が下り次第、グラディアート戦に突入する」
通達に零は指揮シートから風の速さで立ち上がり、凜と声を張った。




