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第五章 最後の試練 12

 オレンジ色の惑星ゴーダに乗った宝石の如く、キロメートル級艦船用宇宙港が恒星コルネルの光を受け輝いていた。あれほど巨大だった衛星軌道上に浮かぶ宇宙港が、小さな貴石の如く見える距離に武装商船シャントン号改め軽巡航艦ローレライ二はあり、その近辺に三十二体のグラディアートが陣列を整えていた。


 同種の機体が並ぶ中目を引くのは、オーキッドピンク色をし細身の機体。ヘザーが駆る、ナイチンゲールだ。後方へ突起が伸びた白色のフェイスマスクが流麗で、全身を覆うアーマーは繊細な細工を思わせる。メインウェポンは、アダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式ハンティングソード。盾は、アダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ヒーターシールド。


 残りのグラディアートは全機ボルニア帝国前主力機ゲレイドで、エバーグリーン色をした標準的な機体。アイセンサが四つあり頭部上部が二段重ねになったような構造で、センサの下に顔の下半分を覆うように白色のフェイスマスクを有する。機体各所のアーマーは、プロテクターのような形状をしていて全体として纏まりある機体だ。メインウェポンは、アダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式ブレード。盾は、アダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ラウンドシールド。


 陣列中央に位置する隊を率いる零は、宇宙港の二十キロメートル級艦船停泊エリアの入り口を見詰め情報感覚共有(iss)リンクシステムを介し短く命じる。


【全機、加速】


 己の身体の一部と認識しているゲレイドに加速を命じると、汎用亜光速推進機関の高出力の加速でもって一瞬でキロメートル級艦船用宇宙港が巨体の威容を示し、急制動。時間など感じる間もなく、宇宙港へ間近に接近した。


 先ほどの命令の続きのように、少しの間を開けただけで零は指示を出す。


【各隊に別れ当該エリアに侵入後、担当の恒星戦闘艦の推進システムを攻撃。航行に支障が出る損傷を与えるんだ。行くぞ】


 ゆっくりとゲレイドを零は進ませ、けれどそれは先ほどの加速よりもという意味で俊敏な機動でエリアへと自隊と侵入。


 突き出た無数のバーの内一本が破損していて、そこから突き出た突起――桟橋に絡むように大小恒星戦闘艦が衝突していた。遠方からは小さく見えたそれらが近づくと飲み込まれそうなほどの巨大さを顕わにし、奥に古代兵器運用艦ギガントスが繋ぎ合わせた船体を千切れさせ無残を晒している。その場は、まさに惨状だった。


 零が向かうのはその手前、二十キロメートル級の巨艦と比べるととても小さく感じてしまうが、全長一・五キロメートルはある戦艦で桟橋と衝突し船体がかなり破損していた。グラディアート等が出撃する腹部に備えた超電磁誘導チューブのハニカム柄めいた無数の出撃口は破損していて、高速出撃は出来ない状態。間近に接近すると巨影が被さってきて、四体のゲレイドはまるで豆粒のようだった。


 背後の推進システムへ回り込みつつ、零は刃に黄色の光を宿すブレードをゲレイドに向けさせ自隊に呼び掛ける。


【よし、こいつだ。ついてるな。一番の大物だ。修理無しには動けない状態にまで持って行くぞ】


【【【了解】】】


 返る高速情報伝達にヴァレリーのものはなく、零の隊はこれまで直に率いたことの無い第二エクエス相当の者達で編成されている。今回ヴァレリーは小隊指揮官として零が普段率いる年少組を預かり、難易度の低い駆逐艦を担当し今作戦に当たっていた。副兵団長のサブリナはもちろんのこと、他の第一エクエス相当の分隊指揮官や大隊長も小隊を率いている。


 ミラト側と戦闘になった場合、これほどの惨事に大小恒星戦闘艦が巻き込まれ出撃できるグラディアートはそう多くはないと踏んで、今回の作戦参加は第二エクエス相当のキャバリアー以上で固め、他の大部分の決死隊はローレライ二で変事に備え出撃態勢を整えている。


 リンクシステムを介し、人形(プーパ)エイラが機械的な片言で告げる。


【目標戦艦表面、エネルギー反応微弱。フィールドが発生していない模様】


 閃光が、零の視界を掠めた。隊員達がアーガイル柄の巨大なカバーに覆われた戦艦の推進システムへ、ゲレイドに標準搭載された普段は装甲で隠れている対物プラズマ砲で攻撃を始めたのだ。どうだろうと、零は目を凝らす。本来ならばその程度の攻撃は戦艦の強力無比なフィールドに阻まれるのだが、果たして青白いビームはカバー内へと吸い込まれ奥で推進システムの一部を破壊した。


 その様子に零は口元を猛々しく笑ませると、隊の者達に呼び掛ける。


【よし。戦艦の船体が歪むほどの衝突を起こした後だ。流石にフィールドは切れているらしいな。奥へ。いつフィールドを復旧されてもいいように、張り付いて壊していくぞ】


 四体のゲレイドがアーガイル柄のカバーを潜り、水晶めいた柱が無数に林立するような汎用亜光速推進機関の複雑な機構へと取り付いた。


 光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを一閃。


 零が駆るゲレイドが、水晶柱のようなハイパー推進エナジー発生体を切り裂いた。流石は戦艦。たった一本破壊しただけでは焼け石に水と感じてしまうほど推進システムは巨大で、そこで動き回るグラディアートはさながら大きな湖沼を跳ね回る水馬の如きだった。


 四体のグラディアートは、プラズマ砲と光粒子(フォトン)エッジを併用し単調な破壊作業に従事した。時間は掛かるが、使用に危険が伴うようせめ一割近くは破壊したいところだ。端から見れば急激に水晶のような柱の一部が崩壊していくように見えるほど、グラディアートが高速で破壊して行く。


 一分ほどそうしたところで、零は再び指示を飛ばす。


【ばらけよう。纏まった箇所だけだと、推進システムの一部をキルするだけで使われてしまうかも知れない。ここから見ただけで、ざっと十二基の大型汎用亜光速推進機関を備えている】


【【【了解】】】


 応答と共に、四体のゲレイドが散開する。零は、取り敢えず誰も取り付いていないハイパー推進エナジー発生体の塊を破壊していった。


 暫くそうしていると、警戒を担当してくれているヘザーから連絡が入る。


【零、敵よ。思った通りすぐ出られる状態ではないようで、一体ずつ出てきているわ。応戦するけど、敵がバラバラに動いたら対応は難しいわね】


【了解。俺も向かう。各位、敵が出てきた。そのまま推進システムへの攻撃を続行。敵襲への注意を払え。俺とヘザーで敵には対処する。破壊部隊の総指揮は、サブリナが執ってくれ。緊急時には対処を】


【分かったわ。こちらはそれほど時間が掛からない筈だから、目標を達成次第零の穴埋めに向かうわ。目標を達成した隊は、未達成の隊の応援に】


 指揮を引き継いだサブリナは、総員に言い渡す。


 自隊の三人に声を掛けつつ、零はゲレイドを発進させる。


【じゃ、行ってくる。そのまま目標達成まで破壊を続けてくれ。人数は減るが、サブリナの隊が来てくれる】


 推進システムを覆うカバーを潜り外へ出ると、既にヘザーのナイチンゲールは交戦を始めていた。敵グラディアートは既に多数出てきていて、人形(デク)でも倒すようにヘザーに撃破された分を差し引いてもざっと四十体ほどは健在だ。


 敵グラディアートは、第一・第二エクエスが侵攻群に加わっていない現状ではミラト王国軍兵団主力機ルプスのみだ。カーキー色をした一つ目を連想させるシンプルな楕円のフェイスマスクを有する、スモール骨格を用いたアーマーに球面を多用したデザインの小柄な機体。メイファースト社のミドルエンドモデルを、ミラト王国仕様に再設計したグラディアートだ。メインウェポンは、アダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式ブレード。盾は、アダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ヒーターシールド。


 オーキッドピンク色をした巧緻なナイチンゲールを包囲しようとする敵の横合いから、零はゲレイドを急接近させた。


 即座に数体のルプスが反応し、刃に黄色い光を宿す光粒子(フォトン)エッジ式ブレードで斬撃を放ってきた。零が使用するファントムは人形(プーパ)である為本来の実力は発揮できないことは普段と同じだが、違うのは敵だ。迫り来る斬撃を軽く機体を傾け躱し、硬化型ヒーターシールドでシールドバッシュを零は仕掛けた。もろに喰らったルプスは仰け反り、その間に右側からの斬撃を光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを敵の得物の腹へ叩き付け横へと流し返す刃でがら空きの胴を薙ぐ。アーマーの継ぎ目へもろにヒットし、一撃でルプスは沈黙。そのまま回転するように動き、先ほど弾いたルプスへ刺突を放ち撃破。


 敵は、ミラト王国の最精鋭第一エクエスではなく只の主力兵団群だ。ファントムの性能もこれまでほど開きはなく、オルタナアラインメント・プレコグニション・サイバニクスシステムによって強化増幅される未来予知(プレコグニシヨン)程度で覆せるほど敵キャバリアーと零の実力差は小さくは無かった。これまで第一エクエスを相手取っていた苦労もせず、零は次々と撃破を重ねていく。


 ちらりと視線を送ると、ナイチンゲールが零にして戦慄させるような機動と剣技を発揮していた。


 すっと夜空の双眸が細まったが、気を取り直したように高速情報伝達に合成音声を乗せる。


【ナイチンゲール、凄い機体だな。そして、ファントムも。ブレイズといい、恵まれ過ぎじゃないのか? ヘザーの戦闘を始めてまともに見るけど、予想通りかなって】


【あら? どう予想通なのです?】


【思ってたとおり、得体が知れない】


【酷い言われようね。その言葉、そっくりお返しします。わたしからして見れば、零こそ得体が知れません。変な気配を初めて会ったときから感じてまして。わたしの勘が告げているんです。こいつは危ない、用心しろ、と】


【気のせいだろう。ヘザーの勘違い――】


 愉しげに零が返そうとしたとき、サブリナの合成音声が響く。


【終わったわ。桟橋を撤去しても、暫くは動けない筈よ】


【ご苦労様。総員、残敵を掃討後撤収。格下相手とは言え、最後まで気を抜くな】

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