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第五章 最後の試練 11

 物資納入業者に偽装する為のトレーラーを乗り捨てた零達が戻ると、武装商船シャントン号は手筈通りそのまま出港した。零、サブリナ、ヴァレリー他、分隊指揮官や大隊長といった決死隊の主立ったメンバーは艦橋エリアへと向かう。


 ちょっとしたモールを思わせる広々とした艦橋エリアの吹き抜けに面した総合指揮所へ向かうと、とある人物の姿を発令所に見咎め零の声が怪訝に尖る。


「アレクシア猊下、どうしてローレライに乗っているのです? ヘザー、どうなってる?」


「どうなってるも何も、こうなってます」


 じろりと睨む零の視線を避けるようにヘザーはちらりと困ったように隣席を見遣り、それに気づいていないふうを装うルナ=マリーは澄まし顔をしたままだ。


「わたくしが、最後まで決死隊に同行すると決めたのです。零達を死地へ追いやったのは、わたくしでもありますから」


 七道教のアークビショップらしく己が身命に関わることであるのに正論を口にするルナ=マリーに、ヴァレリーが明眸を感心したように見開き、しかし、善意と良心から出たであろうその言葉を考え違いだときっぱりした口調で言外に言い含める。


「お気になさる必要はないと思います。猊下がもたらした情報を吟味し対応を決定したのは、ヴァージニア陛下です」


「それでも、です。古代兵器クロノス・クロックを使用不能にして欲しかったのは、わたくしですから。それを成し遂げたというのに見捨てるのは、わたくしの信仰に反するのです」


 少女の潔癖から出たであろうヴァレリーの言葉にすっきりとした美貌を笑ませるルナ=マリーへ、サブリナが呆れ顔を向ける。


「それはご立派ですが、立場によって取るべき行動は変わると思いますが。ですが、このような話はもう無駄ですね。ローレライ二はもう既に出向してしまい、再び入港するには許可が必要で今すぐ港には引き返せません。入港許可が下りるまで順番待ちをしている間に、ミラト王国軍にこちらは囲まれてしまいます。こんなタイミングで出向した武装商船を、彼らは見逃さないでしょう」


 サブリナの言うとおり今更どうしようもない零は、ルナ=マリーへ気難しげな貌を向ける。


「困ったことをしてくださいましたね。女帝陛下からは、猊下のことはよくよく言い含められていたのに」


 席に着くと、やれやれといったふうに天井を零は仰いだ。


 と、そのとき零の近くに座るローレライ二のAI(マザー)が対人インターフェイスとして使用している秘書ふうのヒューマノイドが、一瞬虚空を見詰めたかと思うと口を開く。


「兵団長。今、ネット上に古代兵器運用艦が停泊する港の映像が上げられました。同エリアに停泊中の艦船の乗員が撮影したものと思われます」


 総合指揮卓の中央にホログラム映像が出現し、二十キロメートル級艦船停泊エリアの惨状が映し出された。かつての猛獣の顎を思わせた三隻の重戦艦が根元からへし折れ同体の超大型輸送艦と絡み合うように衝突し互いに破壊しあっていて、古代兵器運用艦ギガントスは巨体を崩壊させ最早スクラップと呼べる状態だった。他のミラト王国軍の艦艇は各所で爆発が起きたように破損し、それ以上に折れた桟橋や互いの艦体でもつれるように重なる様は凄惨そのもので思わず目を背けたくなるほどだった。


 すっと夜空の双眸を細める零は、古代兵器運用艦の残骸にそっと唇に呟きを乗せる。


「複数艦を繋ぎ合わせたギガントスは、ばらばらか」


「上手くいったわね」


「って言うより、酷い有様だわ。わたし達がやっておいてなんだけど。思っていたよりも、ずっとミラト王国軍の被害は大きいわ」


 零の呟きが合図のようにサブリナが端麗な美貌を勝ち気に笑ませ、ヴァレリーが凜々しさと清楚さとが同居したような美貌をやや陰らせた。


 椅子の上で居住まいを正すルナ=マリーが、深い感謝を伸びやかな声に乗せ丁寧に頭を下げる。


「これで、クロノス・クロックを使用することは出来なくなりましたね。よくやってくださいました。心より、お礼を申し上げます」


 一同に少しの間弛緩した空気が流れ、頃合いを見計らうようにヘザーが精緻に整った面を鋭くし淑やかな声に幾分覇気めいたものを乗せる。


「こちらから仕掛けるべきです、零。当初の予定では逃走し、追撃してくる敵と戦い逃げ切ることになっていましたが。あの状況では、今すぐ出撃できるグラディアートは僅か。港で叩いておくべきです」


「一度叩いて敵が体勢を立て直せない間に、逃げるのね」


「ええ。敵の足も潰せます。あんなに折り重なっていては、身動きが取れずこちらのいい的です。推進機関を破壊できる」


 知性の煌めきを榛色の双眸に乗せるサブリナにヘザーが頷き、ヴァレリーの引き締まった声が希望が差したように弾んだ。


「上手くいけば、敵グラディアート群三千とまともに戦わずに済むわね」


「確かに。あのデカ物のギガントスがちぎれた重戦艦との衝突で暴れてくれたお陰で、桟橋も爆発以上に破壊され、他の恒星戦闘艦群九隻もそれに巻き込まれた。今が好機だ。出撃する」


「わたしも出ましょう」


 訪れた思わぬ僥倖に零は決断し、ヘザーが面に妖気じみた笑みを浮かべた。

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