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第五章 最後の試練 10

 ラット型機械兵(マキナミレス)ユニットが見付かるといった異常事態(イレギユラー)はあったものの、零達の元にやって来たキャバリアーはサブリナの推測通り手柄を独り占めするつもりだっようで、捕らえた物資搬入エリアのセンサは掌握済みで騒ぎになることなく納入を終え古代兵器運用艦ギガントスを後にした。他の艦艇に向かった者達も無事任務を果たしたようで、続々トレーラーが合流し二十キロメートル級艦船停泊エリアを後にした。


 それぞれの完了報告を受けた零は、幾分明るい口調で労をねぎらう。


「各分隊、ご苦労。予定通り、獣は放った。次の作戦に備えてくれ」


 次にあるだろう作戦――戦いこそが、問題なのだ。敵ミラト王国兵団群三千に対して、工作部隊である決死隊は五百強。まともに戦えば、全滅は必至。脱出は、至難と言えた。


 桟橋はトンネル状で外は見えず、それでも気になるらしくヴァレリーは、トレーラの背後を映し出したホログラムスクリーンに視線を遣り、凜々しく引き締まった声に気掛かりそうなものを混じらせる。


「そろそろかしら? 時間で起爆するわけじゃないから、はっきりとは分からないけど。真っ先に外部からやって来た納入業者が疑われるでしょうから、今回しくじるとミラト王国軍の艦艇に潜入するのは難しくなるわ」


「そうだな。けど、上手くいくだろう。仕事は機械がやってくれる。見付かりづらく、今更見付かったとしても手遅れで、条件が揃えば勝手に爆発してくれる。ギガントス――複数の艦艇を繋いだ古代兵器運用艦の構造上、継ぎ目を狙えばあの巨体は簡単にばらける。あっさりとスクラップさ。だから、決死隊最後の試練、この作戦の主要任務は達成したことになる。後は無事逃げ切ることが問題だから、どれだけ他の艦を行動不能に出来るかは大きいな」


「ま、それこそが問題ね。わたし達は、生きて戻れないことになってるから」


 応じた零にヴァレリーが、美貌に微かなやるせなさを浮かべた。


 生来の生真面目さで胆力を保つヴァレリーに、零の脳裏に女帝との一夜から抱いている考えが再び浮上する。


 ――当然だな。最後の試練を乗り越えても、数で劣るこちらに待つのは死のみ。けど、それさえ乗り越えられれば……。このまま、ボルニア帝国から去ることができる。まだ話していないけど、ヴァレリーは同意するだろう。サブリナや、他の決死隊の者も。けど、まだ話すのは不味い。少なくとも、ユーグ恒星系を去るまでは。ローレライ二のクルーにバレるわけにはいかない。


 背後の分隊メンバーを零が見渡したとき、周囲の空気が震えた。トレーラーは桟橋を抜け幹線ルートへ合流し、中ほどまで進んだ辺りだ。


 車内に緊急通知の警報が響き、黄色と黒色の斜線に縁取られたホログラムウィンドウが立ち上がった。


 トレーラーの制御特化型AI(ANI)が、状況を伝える。


「二十キロメートル級艦船停泊エリアで、爆発事故発生。被害規模甚大。同エリアへの通行は禁止されました。本車両は、このまま指定エリアを離れます」


 やや機械的な男性の声が告げる交通情報に、青色の明眸に真剣さを宿しヴァレリーは零を見遣る。


「上手くいったようね。ここからじゃ、目標破壊を達成できたか確かめようがないのが歯がゆいけど」


「大丈夫だろう。起爆は時限式じゃないから、本命のかどうかは分からないけどな。兎も角、こちらは後は星系からの脱出だけだ。もう、失敗していてもやりようがない」


 再び、トレーラーの制御特化型AI(ANI)が告げる。


「先ほどの爆発から、複数回爆発が発生。停泊中の多数の艦船に爆発が生じ周囲の桟橋が崩壊し、周辺の入出港機能が麻痺。倒壊した桟橋が艦船に倒、塞いでいる模様」


 報告される経過に気持ちを切り替えるように、ヴァレリーは美貌を引き締める。


「時間稼ぎは出来たようね。これで、ミラト王国軍の恒星戦闘艦群はすぐには動けない」


「グラディアートの出撃は妨げられないとしても、出てきても母艦の支援は受けられない。亜空間航路に逃げ込めるかが、鍵だな」


 後は時間との勝負かと、零は身内に湧いた鋭い感覚を懐かしく感じた。

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