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第五章 最後の試練 6

以下のように空行を調整いたします:


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「昨日、内の本社から届いた業務連絡メールに、勿論これは本物ですが、女帝陛下からの命令書が暗号化されて仕込まれてて、面食らいましたよ。冗談だろうって、ね。ま、ボルネオ商会はボルニア帝国というより帝室と遙か昔から繋がりがありましてね。内密の任務なんてものを頼まれたりするわけで、無視は出来ません。命令通り、動きましたよ。けど、徒労に終わるんじゃないかって思ってたけど、こうしてあなた方の訪問を受けて信じられた次第で」


 ボルネオ商会商館の品の悪くない調度で纏まったどこかしら質実さを感じさせる応接室のソファに浅く腰掛けた飾り気のないスーツ姿の茶色の髪をした青年が、零達を出迎えるなりどこかしら安堵した様子で自己紹介もそこそこに捲し立てた。


 ボルネオ商会惑星ゴーダ支店長を名乗るパトリック・ダントリクの様子に、対面のソファに座る零は抱いていた疑問が解消する。


「なるほど。商会への、それもゴーダ支店への連絡が間に合うのか疑問だったのです。ヴァージニア陛下に尋ねても、気にする必要はないと言われただけで。我々の到着よりも一日早い昨日、メールで暗号命令が届いていたのは納得です。極秘情報を隠蔽されたメールが仕込まれた情報運搬超光速艇(Icftlb)が惑星ゴーダに到着するのは、早くて昨日ですから。急なことで大変だったでしょう?」


「ええ。先ずは、その命令が本物の女帝陛下からのものだと信じることから始める必要がありましたから。信じてからは、貴人を惑星ゴーダから逃がす手筈を整えておきました。それと、潜伏場所の確保も」


 パトリックが言葉を切ると、ヘザーに促され零の左隣に座ったルナ=マリーが頭を下げる。


「お手数をおかけしました。逃走ルートの確保、ありがとうございます。ですが、潜伏場所は不要です。わたくしは、作戦が成功するか見守る義務がありますから」


「……あなたが、女帝陛下からの命令書にあった貴人ですね」


 礼を述べつつ凜々しく言い放つルナ=マリーに、パトリックは記憶を探るように目を見張った。


 胸の十字架に軽く手を添えつつ、普段の法衣ではなく若草色のシンプルな強化繊維の布鎧(クロスアーマー)を纏った如何にも修行中の従騎士(エクスワイヤ)めいた凜々しい出で立ちのルナ=マリーは居住まいを正す。


「ルナ=マリー・アレクシアと申します。若輩の非才の身ではありますが、七道教のアークビショップを務めさせて頂いております」


「アレクシア猊下でしたか。失礼しました。どこかで見覚えのある方だとは思っておりましたが。映像でしか拝見したことはありませんでしたが、実物はもっと美しい。正に、巷で聖女と囁かれるのも頷けるというもの。ご尊顔を拝する栄誉をこうして賜りますとは、宇宙の律動に幾ら感謝しても感謝仕切れるものではありません」


「わたくしは、そのような大層なものではありませんよ。只の若輩の未熟者です。ですが、七道教のアークビショップとして、しっかり勤めを果たしたいと願ってはおりますが」


 お世辞半分本音半分といったパトリックに謙遜を口にするルナ=マリーの後を継ぐように、如何にも民間の武装商船に雇われたソルダ風のミリタリー色の強いオリーブ色をした強化繊維の布鎧(クロスアーマー)を纏ったサブリナが本題に入る。


「それで、惑星ゴーダの状況はどうなってます? ダントリク支店長」


「十日前、ミラト王国軍のユーグ恒星系への侵攻で惑星ゴーダ駐留軍は壊滅しました。惑星上のボルニア帝国軍拠点は、ミラト王国軍との戦いでグラディアートをほぼ喪失し降伏。侵攻群の数が少なかった為か軍拠点の制圧をしたのみで、惑星ゴーダ星長以下軍人以外の者の身柄の拘束や民間への統制管制は行われていないようで、我々民間はミラト王国軍侵攻前と変わったことはありません。王国軍の一部は惑星上の制圧した軍拠点に居ますが、殆どは衛星軌道上のキロメートル級艦船用宇宙港に駐留しています」


 パトリックの話に零は己の現状認識と照らし合わせ頷くと、更に問いかける。


「なるほど。事前情報と変わりないか。この宇宙港で、ミラト王国軍を見かけることは?」


「ゴーダ宇宙港市内で見かけることは希で、自国の領土とする意思は希薄しているように思われます。艦隊が駐留している宇宙港エリアは二十キロメートル級で、他の超大型艦船の停泊もある為封鎖はされておらず一部を使用しているだけです」


「やはり、古代兵器運用艦の実戦テストが目的で重要性の低い惑星ゴーダへは興味がないようですね」


 サブリナと同じ格好をしたヘザーの呟きに、ルナ=マリーとは違って太股をレギンスで覆ったシンプルなカナリア色の強化繊維の布鎧(クロスアーマー)を纏った従騎士(エクスワイア)風のヴァレリーが応じる。


「でしょうね。ボルニア帝国領内の重要性の低い恒星系を飛び飛びに陥落させたところで、戦力分散を招くだけだもの。領土を切り取るにも、先ずは女帝軍を負かすなり有利な停戦交渉を行う準備が出来てからだわ」


「ですな。連中としてはよもやボルニア帝国を滅ぼせるとは思っておらぬでしょうから、戦力を削り我々の戦闘継続の意思を折ることが先決でしょうからな。その証拠に、コルネア恒星系にミラト王国軍は戦力を集め決戦準備を進めておる」


 優しげな笑みをヴァレリーへと向けフォルマンが口髭を摘まみAI(マザー)サポート参謀担当官らしく現状を整理し、ルナ=マリーが敵の目的に注意を喚起する。


「ミラト王国というより手を組んでいる結社アポストルスの目的は、ヴァージニア陛下です。その為に、古代遺跡・世界の門から神の槍を略奪したのですから。運用試験が終わり、次は女帝軍との決戦に用いることでしょう。確実に無力化する必要があります」


「敵地にあって、それが一番難問ですな。で、荷下ろしをさせて貰いたいんだが。怪しまれない為にも。持ってきた酒はボルニア帝国軍で用意した物だが、そちらに預けて構わないな。ペイロードベイをすっきりさせておかないと、いざって時すぐに動けないからな」


 憂鬱そうな表情のバジルは気を取り直したように艦長らしく気を回し、快くパトリックが応じる。


「ええ、勿論。正規に引き取らせて頂きます。他に要りような物も、可能な限り用立てさせて貰いますよ」


「助かる、ダントリク支店長。アレクシア猊下の潜伏場所を用意して頂いたが、猊下は我々と共に行動する。作戦成功の折には、猊下の惑星ゴーダからの逃走を宜しくお願いする」


 ちらりと隣から送られた視線を受けたルナ=マリーの菫色の双眸が満足そうに笑み、零の念押しにパトリックは胸を張る。


「ええ、お任せください」

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