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第4章 星降る夜 24

 施設に雪崩れ込んだキャバリアー達を倒した零はドゥポン兵団群長モリスに連絡を入れてからほどなく、主力中級兵団群十を束ねるギャバン兵団群長からではなく、否、ホアキン・ド・ギャバンも両隣の小ぶりなホロウィンドウの一つにモリスの反対側に映し出されているが、真ん中のホロウィンドウに映し出された意外な人物から連絡が入る。


「惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リングの無力化成功。よくやったではないか。では、我が分遣群主力到着までその場を死守せよ」


「馬鹿な。それまでにこちらは全滅してしまう。このエリアにある主力兵団群を惑星レーンに降下させ、この戦の勝敗を決するべきだ」


 ホロウィンドウに映し出されたベルジュラック大公ジョルジュの辛辣な笑みを浮かべる獰猛な顔に、零は噛みつくように抗議した。


 零の反論など露ほどに気にも留めぬように、ジョルジュの猛々しさを秘めた声の歯切れは涼しげだ。


「なに。さほど、時間はかからぬ。こちらは、既に敵軍を一掃した。連絡が入り次第、向かうところだったのだ」


「そのエリアから、一体、何日かかると思っている?」


 険悪に響きがちな零の声に、微かに侮蔑が混じった。ジョルジュは惑星レーンから遠く離れたエリアにおり、亜空間航路が封鎖され超光速航行(FTLN)が行えぬ今は亜光速で通常空間を航行せねばならず時間がかかり過ぎるのだ。タイムラグが殆ど無いこの会話は、その遠いエリアとこのエリアに小型リングゲートによる一時的な超光速通信が確立されている為可能なのだ。


 睨み付ける零の夜空の双眸に、表情一つ変えずぬけぬけとジョルジュは言ってのける。


「二日といったところか? その間、その場を死守するのに補給無しでは辛かろう? 防衛システムが沈黙したのは幸い。ローレライ二を衛星マダムートに降下させ、補給基地として運用せよ」


「そんなの、いい的だ。敵は、第一エクエス・ボーア、ストレール少なくとも二軍団と防衛兵団群数万が居るんだぞ?」


 流暢なジョルジュの物言いに、嫌でも零の態度は挑発じみる。二日など、孤立無援の衛星マダムートでとても持ち堪えられるものではない。


 ジョルジュの隣の小ぶりなホロウィンドウに映るホアキンが、普段は軽く笑んだような柔和な面を引き締め慇懃な態度で口を開く。


「閣下、どうか我らに惑星レーン降下のご許可を」


「駄目だ」


 にべもないジョルジュに、ホアキンの逆側の小ぶりなホロウィンドウに映し出されたモリスも申し立てる。


「では、我が兵団群だけでも、衛星マダムートへ向かわせてください。我が兵団群に有為な人材を死なせたくありません」


「くどい。これは、刑の執行でもあるのだ」


 が、バッサリとジョルジュに切り捨てられた。こいつの相手をするといつもこうだと内心怒りを渦巻かせながら、零は辛抱強く翻意を促す。


「刑なら、第二の試練は終わっている筈だ。惑星拠点防衛システムと衛星防衛戦力の猛威に晒される中、指示された惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リングの無力化は、達成してるのだから」


「戦場の洗礼を、ローレライ二に居残っておる決死隊がまだ済ませておらぬではないか。目標はあくまで指標。その間、死の洗礼に晒されねば刑ではあるまい。他人任せに刑を済ますなどあり得ぬではないか」


 小馬鹿にしたような物言いのジョルジュだが、一理あると零も思ってしまい、それでも言葉を重ねる。


「あの艦には、決死隊以外の乗員だって居るんだ。付き合わせることはできない」


「ならば、連絡艇で決死隊以外の乗員を降ろして、そちらへ向かわせればよかろう。艦の運用など、AI(マザー)に任せておけば構わぬのだから」


 つまらぬと言いたげなジョルジュに、零の中で物騒な怒気が渦巻く。


 ――癪に障るが、この遣り取りを続けても理屈で負けてしまう……なら。


 ここはどうあっても押し通さねばならぬ零は、麗貌に彼独特の凶悪に見える笑みを浮かべ口調をこれまた彼独特の韻を持つ居丈高なものにする。


「いいのか? エンゲージ・リングを無力化したといっても破壊したわけではない。イオン源入射装置を停止しただけだ。いつでも、こちらは再起動可能だぞ。ほら、こうすればもう誰も近づけない」


 架空頭脳空間(オルタナ・スペース)を介しイオン源入射装置稼働施設のAI(マザー)に、零は指示を出した。


 惑星レーンが無数の光の筋に包まれ、惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リングが発射態勢に入った。 


 それまで余裕を漂わせていたジョルジュの血相が俄に変じ、逆立つ眉を怒らせ錆色の双眸に殺意めいたものが満ちる。


「おのれ、貴様。破壊もせずに。防衛システムを勝手に掌握するとは何事か!」


「試作段階とはいえ、それなりに堅牢な施設でこちらの装備では破壊は無理だ。施設の稼働を停止すれば、目的は果たせるからな。で、どうする? 別に俺は構わないぜ。死なば諸共だ」


「貴様……」


 ジョルジュは零を睨み付け、けれどそれ以上は相手をせず、別の方へ顔を向ける。


「ドゥポン兵団群長、貴様の麾下の兵団だ。面倒を見てやるがいい。ギャバン、レーンを落とせ」


「はっ、ありがとうございます」


「御意」


 丁寧にモリスとホアキンは頭を下げた。


 映し出されていたホロウィンドウが消え、ほどなく惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リング射程外にあったドゥポン兵団群の艦艇が動き出し、衛星マダムートに兵団群旗艦ポトホリ等二十隻が向かい、他は惑星レーンへと向かった。グラディアートが発艦し、無数の光の筋が宙に描かれる。

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