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第4章 星降る夜 22

【エイラ。イオン源入射装置稼働施設までナビを】


【了解。推定第一標的まで、ナビゲーションを開始】


 それまで攻勢を凌ぎ防戦に努めていた零のゲレイドに、パワーで勝るフォルネルが先ほどからずっとそうしているように屈服させるべく膂力に物を言わせた光粒子(フォトン)エッジ式バトルアクスの斬撃を加えてきた。刹那零は己に神速を課し、体術速度を活かしゲレイドに地を蹴らせ右に逸れつつ、打ち合わせるかに見せていた光粒子(フォトン)エッジ式ブレードの軌道を神速でもって逸らしフォルネルに空振りさせた。零が駆るゲレイドが、生じた隙にフォルネルの側面腹部に鋭い刺突を放つ。超重装甲を誇るフォルネルではあったが、複雑な可動部である胴はどうしても装甲を薄くせざるを得ない。刃を黄色く光らせるアダマンタインのブレードが、装甲を穿ち内部を破壊した。


 頽れるフォルネルが作った包囲の穴から、零のゲレイドが燐光を推進システムからぱっと散らし低空へ飛び立ち疾駆する。エイラがARで表示させるナビゲーションガイドに従い、零はイオン源入射装置稼働施設と推定される第一標的へと向かう。


 大気を殆ど有さぬ衛星マダムート上での飛行は、強力な汎用亜光速推進機関を有するグラディアートが引き起こすソニックブームの被害を考慮する必要が殆どない為、大気含有惑星重力圏内最大速度よりも遙かな高速でもって衛星の外周五分の一はある距離を十分ほどの飛行で目的地近くへと到着した。岩陰をたどり、目的地へとグラディアートを歩かせる。


 遠くからの光学センサを通した映像では、周囲に比較対象となる建造物がない為大きさの目測が狂いがちで、荒野に四つ長方形のちっぽけな灰色の殺風景な建造物があるように見えた。だがそれは人の感覚で、対象物に付されたスケールスが示す建造物のサイズから、その巨大さに零は意識を切り替える。


【メイファースト社で現在試作中の兵器だから、色々と擬装が省かれてるな。イオン源入射装置の施設は、要塞化されていない。最低限、入射装置を稼働する施設があるだけだ】


【ですが、使用されている壁材はヤスキハガネのようで、装甲化されていますね。見た目がぱっとしないのも実用性を重視したからで、厚みがかなりある。ゲレイドと今の装備では破壊は難しい】


 零の言葉を受けたのはゲレイドそのものと言っていい、搭載された|インテリジェンス・ビーング《IB》だ。肉体を持たぬ分対人コミュニケーション能力に劣るエイラに比べると、以前のグラーブに搭載されていたヨシュア同様話し方は落ち着いた知性を感じさせた。


 推定第一標的・イオン源入射装置稼働施設は、全体が四分割された長方形で幾つもの塔がその間に立っていて、装置を稼働させる為に最低限の設備を寄せ集めたように見え試作兵器らしく間に合わせ的だった。試作段階の防衛システム・パッケージらしく、元々施設防御兵器は組み入れられていなかったようで周囲に後付けされていた。ここは衛星マダムートの軍事拠点からも大都市からも遠く、試作段階の兵器システムで大規模兵団群の駐留には向いていない。稼働施設近くに駆逐艦が一隻遊弋しているだけで、第一エクエスを含む衛星防衛兵団群本隊は利便性のよい奪取した元ボルニア帝国軍の拠点を本拠としているようだ。


 ――稼働ラディアートは直援機を入れて、三百五十強ってところか。精鋭ではなく、通常の兵団。エイラとゲレイドを使用しても、どうにか出来ない数じゃない。けど、施設に使われているヤスキハガネの装甲を抜けないなら、グラディアートで奇襲を仕掛けたところで意味は無い。基地を無力化する前に、味方に連絡されても困るからな。


 一思案巡らすと零は身体を固定するフィット形状の固定具を架空頭脳空間(オルタナ・スペース)経由で外し、身を起こしつつファントムとグラディアートに指示を伝える。


【エイラとゲレイドは、ここで待機。俺は、単身推定第一標的に向かう。イオン源入射装置を黙らせるには、あの施設のAI(マザー)の優先権コードをこちらに置き換える必要がある。エイラは友軍との中継を。ゲレイドは、俺のハッキングサポート】


【イエス・マイ・ロード】


【ご武運を。成功すれば、今回の戦いは我らの勝ちです】


 機械的なエイラと流暢なゲレイドの返事を聞きながら、零は開いたコクピットブロックから外へと出た。グラディアート機乗服は宇宙空間でも使用可能で、胸部プロテクターの背後と前面に簡単な機動が可能な推進機構を備えている。衛星マダムートの重力は通常のテラフォーミングを経た惑星の七分の一ほどで、十メートル近くの高所から飛び降りた零はゆっくりと地面へ足を付けた。数歩不安定に身体を浮き上がらせながら低重力に慣れる為に歩き、すぐそれに順応し足を運べるようになった。


 三千メートルほど先にある施設に視線を走らせ零は、呟きを落とす。


「さて、一仕事だな。さっさと済ませないと、一千五百では第一エクエスの軍団や何万居るとも知れない敵防衛兵団群が出てくれば一溜まりも無い」


 汎用コミュニケーター・オルタナデバイスを通しリンクされている機乗服の推進機構を制御し、背後から電離機体を引くと同時零は地を蹴った。一気に加速する。施設との距離が一気に喰らい尽くされる。防衛兵器が稼働するが、零は無視し施設内へ。AI(マザー)がある場所として目星を付けておいたのは、四つのブロック中央の大きめの家屋ほどある建物。既に抜きはなっていた玉鋼製の太刀に秘超理力(スーパーフォース)を流し、パワーブレードを発動。三十センチほどの汎用攻撃型機械兵(マキナミレス)ユニット三体を、ムーブを併用した動きで瞬殺した。入り口の両開きの扉となったゲート横へ。操作パネルへ近づき、外部接続モジュールと機乗服の手の甲の接続ポートをリンクさせ、架空頭脳空間(オルタナ・スペース)内でクリエイトルとしての能力でコードを読み解き、解錠。開いたゲートから、中へ。


 殺風景に天井まで吹き抜けになった母屋内部には、煌めきが走る内部を円筒の透過素材に包まれた、艦艇や施設用の大型|インテリジェンス・ビーング《IB》が仮設の施設らしくその姿を晒し中央に聳え立っていた。その周囲のコンソール席には、メイファースト社のロゴが入った技師服を着た男女三人の姿があった。


 三人の内で年嵩の中年男が、目をぎょっと見開き驚きの表情で立ち上がる。


「だ、誰だ?」


 入り口に立つ、零の姿が掻き消えた。ように見えた。


 次に零の姿が幻のように現れたときには、その姿は霞み先ずは中年男がよろめき、錯覚のように刹那零の残像が別の場所に現れると同時女が椅子に座ったまま脱力し、三度目零の残像が現れたときには残る男が女同様椅子からずり落ちた。一瞬の徒人には応じようもない時間で、零は母屋を制圧した。


 三人のメイファースト社社員が床に頽れ椅子からずり落ちる様など一切無関心に、零は席に着くと外部接続モジュールと機乗服の手の甲の接続ポートをリンクさせ口を開く。


「ゲレイド、ハッキングを開始する。サポートを」


「早いですね。こちらは、いつでも。あ、敵駆逐艦から、グラディアート二体が出撃」


「了解。こちらに来る前に終わらせる。ゲレイドは、そのまま」


「お気を付けください」


 ロボディクス法で保護された|インテリジェンス・ビーング《IB》の権利を保護した上で、強制的に影響を与える為に組み込まれた優先権コードは、優先順位を書き換えるインターフェースだ。本来ハッキングは困難で、ある程度スキルを有したクリエイトルでなければ正規の手続きを踏まず書き換えることは不可能だ。が、幸い零はそのスキルを有したクリエイトルだ。


 表示されるコードを、零はクリエイトルの能力で知識よりも先に感覚で読み解いていく。勘のように変更箇所を理解し書き換え、トルキア帝国・ミラト王国の優先度を押し下げボルニア帝国を上げようとして中断し、零は第一波攻撃に参加した三兵団群を最上位に、ボルニア帝国を二位に設定した。


 ――惑星レーンが、まだ奪還されたわけじゃない。今は、ここに居る俺達が生命線を握っておくべきだ。


 どうしても、ベルジュラック大公ジョルジュの顔がちらつく零は、慎重を期して保険をかけておくことにした。


 床に転がったメイファースト社の技術者が、微かな声を漏らした。三人を零は、殺してはいない。気を失わせただけだ。拘束具をグラディアート機乗服の腰ポケットから取り出すと、零は三人を後ろ手で固定しコンソールの脚に繋いだ。


 零は汎用コミュニケーター・オルタナで、ゲレイドとエイラに呼びかける。


「ゲレイド、協力感謝する。エイラ、エレノアやブレイズ達兵団長等に作戦成功の報告を入れドゥポン兵団群長に繋いでくれ」


「イエス・マイ・ロード」


 機械的にエイラが応じ、二十秒としない内に零が属するドゥポン中級兵団群の兵団群長モリスが、零の眼前にポップしたホロウィンドウにやや怪訝な表情で現れる。


「どうかしましたか、零君?」


「惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リング、沈黙成功。主力兵団群には、速やかに惑星レーン奪還を行うことを要請します」


「……早いな……」


 一瞬ポカンとしたモリスは、零の言葉に理解が茶色の双眸に掠めるとやや呆れ顔をする。


「正直、いかな零君やリザーランド卿やリュトヴィッツ君が居るとは言え、難しいと思っていたよ。理由を付けて、わたしの麾下の兵団群だけでも応援してやりたいが、そんなことをすればエンゲージ・リングの餌食だ。それにしても、あまりにも当たり前のように言うものだね。もう少し感動を持って伝えてくれると、何が起きたのかすぐに伝わってありがたいのだがね」


 夜空の双眸を覗き込み爽やかに整っているが目元に暗鬱さのある面に皮肉な笑みを閃かせるモリスに、零は目を眇めるようにしつつぶっきらぼうに答える。


「ああ、そういうの得意じゃないんですよ。で、ドゥポン兵団群長。至急、衛星軌道上の加速中継器と偏向電磁石の破壊と惑星レーン奪還を。そして、こちらにも援軍を。第二の試練は、惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リングを黙らせること。試練はクリアした。衛星マダムートの敵はまだ本気ではありません。本気を出されたら、三兵団一千五百強など激流に飲まれる木の葉のようなもの」


「至急、ギャバン殿に連絡を入れよう。我々が向かうまでエンゲージ・リングの沈黙を守りつつ凌ぐように」


「了解」


 己の要請に整った眉を持ち上げ親しみを見せ応じるモリスに、零は麗貌をにっと笑ませた。


 と、同時施設の扉が開き、ベージュローゼ色のトルキア帝国軍グラディアート機乗服姿のキャバリアー二人が中へと雪崩れ込んできた。

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