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第4章 星降る夜 21

 当初当たったボーア・エクエス中隊がほぼ壊滅し残る二中隊が加える圧力が、旧式のゲレイド高々七体とランスールを一体たりとも斃せぬことにじれたように増した。先程の二中隊の突進で味方に被害が出かねない危機を主にブレイズ・マーキュリー・ランスールのユニットが凌ぎ、今では六合小隊とリュトヴィッツ小隊が背中合わせになって両翼に零のゲレイドとブレイズのランスールが位置取り、全方向からの攻撃を凌いでいた。


 鬼のような強さを見せ獅子奮迅の活躍をしたブレイズ駆るランスールは、零が戦闘直前言い含めた意味をきちんと理解しているようで、味方をカバーしながらさほどフォルネルを撃破することもなく、どこか気の抜けた戦闘を行っていた。


 刹那の神速をゲレイドに零は課しつつ、超重量級のフォルネルが振るう暴風のような光粒子(フォトン)エッジ式バトルアクスの一撃を光粒子(フォトン)エッジ式ブレードで受けるふうを装いつつ、機体を敵が反応出来ぬ速度で地に脚部を付けた体術によるバックステップを踏み、敵の太刀筋分後退し空振りさせた。


 そのまま零はゲレイドに攻め掛からせず、仕切り直す。


 ――少しエイラとゲレイドとの共闘に慣れてきたよ。ほんの一瞬、一つの挙動だけなら神速を、もっと僅かな間ならそれを越えることも出来ないわけじゃない。けど、多用は出来ない。今のだけで、エイラの未来予知(プレコグニシヨン)増幅に少しラグのようなものが生じる。これ以上やれば機能不全状態に陥り、戦場にあってそれは命取りだ。


 惑星ファルでシェルケとグラーブを駆った時には余裕を持てなかったが、同じフォルネルを相手して今の零には余裕が生じ始めていた。最低ランクのファントムと只旧式なだけで何ら改造も施していない機体での戦いに、零は適応し始めている。


 ――このトラキア・ミラトの第一エクエス二大隊を屠るだけなら、ブレイズとエレノアに本気を出して貰ってついでにサブリナに活躍して貰えれば、大して難しいわけじゃない。けど、こちらがしたいのは時間稼ぎ。こいつ等の背後には軍団が控えている。最低二軍団。二千強の第一エクエスに襲われれば、いかな二人でも生き残れない。その上、防衛兵団群。第一エクエス二大隊が、星の数を競ってる状況を長引かせたい。それにしても、俺が率いる兵団は主力兵団群にあって狡いな。流石は腐ってもボルニア貴族の第一エクエス・クラスの連中だ。宝石位トパーズ主体の敵に、こちらはエメラルド以上。ゲレイドでよく持ち堪えている。


 正面のフォルネルとは別のそれが横合いから仕掛ける攻撃を機体を屈め躱したとき、零の脳裏に鈴のように涼やかな声が響き渡る。


【零、こちらで出した自律軽量斥候(FLAS)が、第一標的と推測される建造物を発見。イオン原入射装置があると思われる施設の座標を送るわ】


 そのマーキュリーの一報こそ、零が待ちに待ったもの。架空頭脳空間(オルタナスペース)の空間認識戦術マップに表示されていた衛星マダムートの全体図に九十五パーセントで最重要攻略目標に指定された赤い輝点が加わり、現在地からの侵入ルートが表示された。


 思考を目の前の戦闘と零は独立して回転させ、生き延びる方針を組み上げる。


 ――すぐに、惑星拠点防衛システム・エンゲージ・リングを黙らせないと。もたもたしていたら、こちらは全滅必至。けど、ここはどうする? ブレイズに俺の隊も任せてしまうか? けど、流石に奴だって、この数相手に現状維持でカバーするのは難しい。


 零の意識が、すっと研ぎ澄まされる。


 ――なら、いっそ……。


 フォルネルが撃ち込む光粒子(フォトン)エッジ式バトルアクスをゲレイドに瞬間的な神速を課したステップで躱し、零は高速情報伝達で呼びかける。


【ヴァレリー、第一標的のイオン源入射装置をマーキュリーが見付けた。俺は、これからそれを黙らせに行ってくる。この隊の指揮は、ヴァレリーに任せる】


【任せるって、まだ、二個中隊近く二十七体も残ってるのよ。こっちは防戦一方で、陣列に割り込まれたらお終いなのに。両翼には零やブレイズが居てくれないと、左右から削られてしまうわ】


【イオン源入射装置を黙らせることは、一刻を争う。もたもたしてたら、第一エクエスの軍団や防衛兵団群がやってきて、こちらは全滅必至だ。射程外で睨み合っている主力兵団群が、惑星レーンを奪還しなければ戦いは終わらない】


【それは、分かるけど】


【大丈夫だ。ヴァレリーの戦いぶりを見てたけど、グラディアート戦に難がある俺よりも問題なく戦えてる。頼む】


【……分かったわよ。早く、防衛システムを無力化して。そんなに長くは、保たないから】


【助かる。六合小隊、聞いてたな。後の指揮は、ヴァレリーが受け持つ。各位、彼女に協力して凌いでくれ】


【【了解】】

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