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第4章 星降る夜 19

アダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式ブレードでウィスタリア色をしたランスールが、フォルネルのがら空きとなった比較的装甲が希薄な胴を切り裂いた。


 タンデム式のコクピットシートに零同様主力兵団用の黒とアンバーローズ色のグラディアート機乗服に身を包むブレイズは、透かさず周囲を半球状に覆う球面モニタと架空頭脳空間(オルタナ・スペース)で、零の小隊を確認する。


【おし。零達も、敵小隊の片付けが終わりそうだな】


【こちらは終わったわ。三人が、敵小隊の最後の一体を倒したたところ。初戦はラッキーね。敵がわたし達を侮ってくれて。数と装備で圧倒的に上回る敵は中隊による波状攻撃を仕掛けてきたから、数の不利はさほど生じなかった】


 情報感覚共有(iss)リンクシステムを通してブレイズに答えたのは、タンデム式のコクピットシートの高い位置にある後席に座す精霊種。ブレイズの契約ファントム・マーキュリーは、ボルニア帝国軍主力兵団ファントム用の藍色のインナーに水色のモトジャケットふうの上着を羽織り白色の胸部プロテクターを着用していた。湖面のような静けさを湛えた青い双眸は、どこかしら超然とモニタの先の未来を見据えている。


 戦闘の合間の毫ほどの間に交わされる会話としては、膨大な情報伝達。千分の一秒もあるかないかの刹那。


 周囲を体感しているランスールのセンサで探りつつ、ブレイズは応じる。


【ああ。ここからは違う。ボーアの連中が、俺達の実力に気付いちまうからな。全力で狩りに来る。おっと、残りの小隊が手近な零の小隊に向かった。各位、次だ】


 マーキュリーに応じたブレイズはランスールを煽ると零達に合流し、数で敵小隊を圧倒しようとした。が――、


 孕んだ緊張を高速情報伝達に乗せ、マーキュリーが警告を発する。


【敵ストレール二中隊、突進を開始!】


【来やがったか。各位、六合小隊と間隔を狭めろ。間に敵を入れるな。吹き飛ばされるなよ】


 発動している基技(もとわざ)ウェアをブレイズは秘超理力(スーパーフォース)を己が内でたぐり寄せるように強め、極限の高見へと昇華させた。神技上位ランクアップ。ブレイズのソルダ諸元(スペツク)全ランクAがSへ。限られた者のみが習得可能な技は、ブレイズをソルダ位階第二位伝説級以上へと押し上げた。


 リュトヴィッツ小隊がある左翼側へと迫る中隊へ、一気にランスールを疾駆させた。神速へと達したスピードでもって、敵の出鼻をくじくべくブレイズは行動する。


 ――右側は、零、お前がなんとかしろ。そんな機体とファントムでも、やって貰わなくちゃこの場に残った決死隊に被害が出る。時間をかけて戦わなくちゃなんねーんだ。このトラキアとミラトの第一エクエス二大隊を俺がとっとと片付けちまったら、親玉が出てくる。そうなれば、俺達が生き残る目が消える。


 筋骨隆々の十五の巨人フォルネルが迫る様は、迫力があった。その真ん中の小隊が加速し、突出した。超重量級の突進でもって、リュトヴィッツ小隊を吹き飛ばす算段。キャバリアーが有する未来予知(プレコグニシヨン)を精霊種としての力で増幅させランスールの未来演算予測と比較検証しマーキュリーは、ブレイズにこの三者の合力でなければ辿り着けない未来を垣間見せる。


 敵は、只馬鹿正直に突撃などしない。正面の中隊長機が真っ先にぶつかるに見えて、左右二体でブレイズを潰し両端の二体が小隊を蹂躙する。一キャバリアーとしてのブレイズは、決してこのような先まで体感は出来ない。ほんの一手先が分かる程度だ。これが、汎用決戦兵器グラディアートとファントム。尤も、どちらも標準の域を遙かに逸してはいたが。


 敵隊長機の左右が仕掛ける寸前、ランスールが掻き消えた。そのように見えた。フォルネル二体の機動の合間を縫って、ランスールは中隊長機に肉薄したのだ。その間に架空頭脳空間(オルタナ・スペース)で自小隊に指示を出し、光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを突き立てフォルネルを沈黙させる。自隊の三体と挟むように、ブレイズは残る中隊の背後を取った。


 慌てた挙動を見せるフォルネル各機に、ブレイズは精悍な面をにやりと笑ませる。


【のらくら行こうぜ、マーキュリー】


【ええ。しっかり味方をフォローしながら、時間をかけて】

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