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第4章 星降る夜 18

三分と経たず敵はやって来た。六合・リュトヴィッツ二小隊とリザーランド・フリーデリケ二小隊は、敵侵攻ルートに合わせて離れて布陣していた。


今回の戦闘で共に敵と当たるブレイズに、零は呼びかける。


「行くぞ。ブレイズ」


「応。俺達は、超重量級のフォルネル担当か。グラディアート戦ではまだトルキアとしか戦っていないから、ミラトのティグリスもどんなもんか確かめておきたかったけどな」


「仕方が無い。エレノアのファブールは悪くないけど、第一エクエス専用の特別機トルキアの超重量級のフォルネル相手は流石に骨が折れるだろ。内乱前エレノアが駆っていたボルニア帝国の傑作機インプリスならともかく」


「六十秒で接敵」


機械的な響きのある片言で伝えるエイラの声に、零はバイザー越しの麗貌を面白くなさそうにする。


「頼んだぞ、ブレイズ。俺はあまり当てにするな。ファントムが人形(プーパ)で、第一エクエス相手はかなり厳しいんでな」


「おまえな。これからボーアの大隊をたった八機で相手しようって時に、下げること言うなよな。そりゃ、ランスールとマーキュリーを当てにしすぎだ」


「もうすぐ戦闘なのに、馬鹿話は後にして」


「馬鹿話ってヴァレリー、方針を話し合っておかなきゃ不味いだろう。って、来やがった」


「兵団群各位情報感覚共有(iss)リンクシステムを使用。以降の伝達は架空頭脳空間(オルタナ・スペース)を通した高速情報伝達で行う」


巡航速度で十秒の距離に敵が迫り、口頭から切り替える。


【状況を開始する】


そう零が命じると同時、ブレイズはウィスタリア色のランスールに燐光を散らせ、率いる三体のゲレイドを引き離すように突進した。


零も自隊をブレイズの隊に並ばせるように発進させ応ずるように突出した一機のフォルネルを、雪崩れ込まれ初手から被害を与えられては敵わぬと瞬間更なる機動をゲレイドに課した。


【相手が格下で少数だからって、調子に乗りすぎなんだよ。俺を盾にして構わないから、陣形を維持して戦え! 崩されるなよ。あの超重量のハイパワーで内から暴れられたら、ゲレイドでは一瞬で狩られかねない】


【【【了解】】】


毫の会話で返事が返るのと、零が駆るゲレイドが刹那に膨れ上がったかのようなフォルネルのアダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式バトルアクスを、アダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ラウンドシールドで受けた。ように見えた。ファントムが零が使用する人形(プーパ)エイラよりも格段に勝る敵は、未来予知(プレコグニシヨン)で当然勝っている。急激にバトルアクスの軌道が鋭い鋭角で跳ね上げられラウンドシールドを擦り抜け、が、当然敵が狙ってくる盾を持たぬゲレイドの右側にはダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式ブレードが肩から下へ垂直に構えられていた。


気勢が、知らず零に迸る。


【疾!】


短い烈気と共に、ゲレイドのブレードが前に構えようとする動作のように動くのと同時、フォルネルのバトルアクスが力を逃され流される。


――その隙は致命的だ。そちらはバトルアクスを返さねばならないが、こちらは防から攻へ切れ目がない。ファントムの性能差で未来予知(プレコグニシヨン)や機体制御で勝り、その超重装甲の巨体が生み出すハイパワーもこの瞬間には役に立たない。


ゲレイドが持つ黄色い光粒子(フォトン)の輝きを刃に宿したブレードが、晒された胸部装甲と腹部装甲の継ぎ目に突き立てられ、正確に内部を走る次元機関ディメンシヨン・エンジンからのエネルギー伝達を断ち切る。隆々な肩部に埋もれるようなフェイスマスクのアイセンサに宿った輝きが消え沈黙し、零がゲレイドで足蹴にするとその場に頽れた。


隊の者から響めきにも似た高速情報伝達の合成音声が、零に流れ込む。


【何と。剣技だけでグラディアート、ファントムで圧倒する相手を瞬殺するとは】


【この機体でフォルネルと渡り合えなど何の冗談かと思っていたが、できるものなのだな】


【機体もそうだけどファントムの性能差による圧倒的未来予知(プレコグニシヨン)の不利を発揮させないのは、流石ね】


同じ隊のキャバリアーや副官のヴァレリーが送るお世辞抜きの賞賛を聞き流し、零は次の行動を自隊の三人に促す。


【たかが一体で浮かれるな。今倒した奴は、中隊長機らしい。ついてる。連中は、動揺している。先ずは、奴の直下の小隊から片付けるぞ】


【【応】】


【了解】


小隊の男性キャバリアー二人とヴァレリーから高速情報伝達される合成音声は、自然と志気が上がっていた。一千分の一秒にも満たぬ毫の間で、情報感覚共有(iss)リンクシステムはこれくらいの会話を交わすことが出来る。キャバリアーやこの時代の機械兵器相手の高速戦闘では、無くてはならないシステムだ。


ヴァレリーのゲレイドが、中隊長機の撃破に激高した様子で他の迷いを見せる三体を尻目に突進してきたフォルネルへ疾駆した。バトルアクスとブレードの光粒子(フォトン)エッジが光燐を散らしぶつかり合い、しかし、屈指の超重量級を誇るフォルネルにパワーで抗するような愚をヴァレリーは犯さず、機体を沈め角度をやや上に変えさせたバトルアクスの下を擦り抜け、作り上げた好機(チヤンス)を逃さす光粒子(フォトン)エッジ式ブレードで鋭い斬撃を放った。


次の瞬間、ヴァレリーの驚愕が情報感覚共有(iss)リンクシステムを通して伝わってくる。


【なっ、固い】


【その超重装甲に、非力なこちらの斬撃はあまり有効じゃない。大国の威信を賭けた機体だから設計がシビアで狙いづらいが、装甲の継ぎ目を狙うんだ】


経験不足と思いつつも、ヴァレリーの戦闘センスは悪くないと零は思う。理解も早く、殺到したスクトゥムによるシールドバッシュをフォルネルを回り込むように躱し背後を取ると、フォルネルの左腕が伸びきったところで光粒子(フォトン)エッジ式ブレードによる刺突を背から腰にかけて複雑な機構を見せる推進システムに突き入れる。グラディアートの中でも、最も惰弱な部位の一つだ。光粒子(フォトン)エッジを喰らったフォルネルにスパークが走り、再度刺突を入れるとその場に片膝をつき頽れた。


立て続けの二体撃破の勢いに乗るように他の二人もそれぞれフォルネルと交戦を開始し、残る一体を零が相手取った。ヴァレリーのゲレイドは、交戦中の三体が隙を狙われぬよう零と反対側の端に陣取る。ファントムによって増強される未来予知(プレコグニシヨン)も機体性能も格段に勝る相手に零は隙を見出そうと防戦に回りながら、架空頭脳空間(オルタナ・スペース)と目縁の端でヴァレリーのゲレイドを捉えながら先ほどの戦闘を反芻する。


――ソルダ位階第四位ダイアモンド。第一エクエスの軍団長どころか軍団群長が十分務まる位階。殆ど初陣だろうによくやる。これなら。


相手取る中隊の残る二小隊の動きに注意を払いつつ零は、赤い輝きを刃に宿すバトルアクスを硬化型ラウンドシールドで捌きつつ情報感覚共有(iss)リンクシステムに思考を走らせる。


【ヴァレリー、俺がこいつを倒したら二人を率いてくれ】


【え? わたしじゃ、零は勿論他の隊を率いているサブリナやリザーランド卿にリュトヴッツ卿にはとてもじゃないけど及ばないわ】


人形(プーパ)で、ボーア相手に連続戦闘は無理がある。俺は敵の隙を見計らって戦闘に参加する】


【……そういうことなら。分かったわ。小隊はわたしが預かるわ。けど、わたしはグラディアートでの実戦は初めてで、この数のフォルネルを駆るボーア相手にどれだけやれるか。何かあったら、サポート頼むわよ】


【分かってる】


光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを何気なく零はゲレイドに振るわせ、フォルネルがバトルアクスで打ち払おうとしたとき――恐らく未来予知(プレコグニシヨン)による判断だろう――敵は躊躇うような迷いを生じさせたが、もう遅い。夜空の双眸が怪しく輝いた。光粒子(フォトン)エッジ式ブレードと打ち合わされる筈だったバトルアクスが空を切ったのだ。零が得意とする妖剣。一種の幻術じみた技で、得物を打ち合わせたと思ったとき、擦り抜けるのだ。だが、特にこれは秘超理力(スーパーフォース)を用いたソルダ技などではなく零の剣技のなせる技だ。怪しいまでに熟達した技が、見せる幻。刃が打ち合わされる直前、急激に、しかし、流れるように軌道を変えているのだ。惜しむらくは、それ以上の零がこれまで編んできたグラディアート戦技を使えぬこと。人形(プーパ)であるエイラが対応出来ず、制御不能に陥らせてしまう。今の技とて、毫ほどの間ではあるが神速を課しているのだ。


圧倒的に生じた隙。未来予知(プレコグニシヨン)で体感によりある程度この事態を掴んでいたのだろうが、対応など許さぬ零の絶技に為す術がなかった。零はゲレイドに光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを、フォルネルの腹部と胸部の継ぎ目に突き入れさせた。沈黙。


ヴァレリーのゲレイドも他小隊のフォルネルを撃破し、少し離れて同中隊左翼小隊を難なく相手取るリュトヴィッツ小隊を確認し零は自隊の二人のフォローへと回った。

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