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第4章 星降る夜 12

 果てもなく、織り目の粗い緑の絨毯が広がっていた。


 ルナ=マリーの目に映る光景は、地平線まで全周囲に広がる深い森林地帯。そのほんの十メートルほど上空。下部と後部に推進システムと重力偏向スタビライザーを備えた縦長の船体の前面を、逆三角形の優美な曲面を描くマスクに似た艦橋・居住スペースのコンポーネントで覆った小型汎用航宙船が、大気含有惑星重力圏内巡航速度で飛行していた。


 展望がきく艦橋スペースの正面から見て右奥にあるレストスペースのソファに座るルナ=マリーに、前のコンソールに五つある椅子の中央に座るヘザーが振り向き発せられる声はやや不満げだ。


「アヌマッス市へ寄らなくて、良かったのですか? これから向かう古代遺跡・世界の門の調査は明日からにすれば良かったのに。せっかくの(おか)です。今日一日都会的な街でのんびり過ごして、長い船旅の疲れを取りたかったのですが」


 未練がましげな視線を、ヘザーはルナ=マリーへと送った。


 二人は、以前に寄港した小惑星のときと同様キャバリアーとその従騎士(エクスワイア)に見える出で立ちだった。ルナ=マリーは、胸部のパールホワイト色の簡素なプロテクターと若草色のシンプルな丈の短めな強化繊維の布鎧(クロスアーマー)姿で、足下は黒色のレギンスと膝下のブーツで固めている。ヘザーは、胸に身体のラインにフィットした華奢なデザインの細やかなレリーフが刻まれた銀色のプロテクターと黒いゴシック風のミニ丈の強化繊維の布鎧(クロスアーマー)姿で、足下を膝上のロングブーツで固めている。


 窓外を眺めていたルナ=マリーは、冷ややかな眼差しを前のヘザーへと向ける。


「まだ言っているのですか?」


 諦めが悪いと、ルナ=マリーは軽く溜息を吐く。


「リノの小惑星Lー〇八七六プラントを発ってから、まだ一週間と経ってはいないではありませんか」


 呆れるルナ=マリーに、ヘザーは呆れ返す。分かっていない、と。


「あの小惑星の滞在では、船旅とまるで変わりません。オーガスアイランド号は全長二十キロメートルを超える巨船ですから、尚更。あの規模の恒星船となると、長旅のストレス軽減に公園付の市街エリアを備えてますからね。船や小惑星の人工環境内のこぢんまりした街じゃなくて、本物の大気に満ちた惑星の高い空の下じゃないと休んだ気にはなれません」


「本物と言いますけどね。この惑星フォルマだって、かつて我らが母なる地テラを真似てテラフォーミングされてるんです。銀河中テラを除けば、どこの有人惑星だって人工の環境なのですよ」


 最初は気づかなかったが淑女然としているこの護衛役がなかなか我が儘であることを付き合っている内に分かってきたルナ=マリーは、ソファを立つと前方のコンソール席に座るヘザーの元へ行き指を立てアークビショップとして説教をするようにぴしりと窘めた。


 リノ小惑星帯小惑星Lー〇八七六プラントを発ったオーガスアイランド号は、ルナ=マリーの要請を承諾した船長のハンスの命令でシャイル恒星系惑星フォルマへ向かった。三時間前、惑星フォルマの衛星軌道上にあるキロメートル級艦船用の宇宙港へ恒星貨物船オーガスアイランド号が入港し、ルナ=マリーはグラディアート運搬の為独特の縦に長い形状をしたヘザーが所有する小型汎用航宙船――小型運搬艇(バツテラ)で彼女と共にアヌマッス市から百五十キロ離れた古代遺跡・世界の門へと向かっていた。内乱中とはいえ観光地である為、同様に遺跡へ向かう公営・民間・個人の小型大気圏内運搬艇(グランド・ドーリー)を幾度か目にし今も数百メートル離れた右側を民間旅行代理店のそれが併走している。


 ヘザーは当初アヌマッス市へと向かっていたが進路に気づいたルナ=マリーが真っ直ぐ向かわせ、先ほどからブツブツと淑やかなゴシックスタイルの女戦士は文句を言っているのだ。


 やれやれと首を振りヘザーは、逆にルナ=マリーを諭し直す。


「分かっていませんね、ルナ=マリーは。銀河を巡るような旅人にとって、英気を養える休息は何よりも重要です。でないと、いざというとき力を出せませんよ」


「はいはい。調査を終えたら、一日くらいアヌマッス市で休みましょう」


「たった?」


 取り合ってもらえず不満そうなヘザーに、ルナ=マリーは申し訳なさそうな顔をする。


「せっかく護衛を申し出て頂いてこうして遺跡へ連れて行って貰って何ですが、こちらも急を要しているのです。神光兵団群に包囲された総本星セプテム・R.I.Pをわたくしは抜け出して調査にやって来たのです。早く聖導教の誤解を解かなければ。それに、各地から届く古代遺跡の異変報告。それも放っておけない気がするのです。かつて人類を支配した創造世界(ミユートロギア)への入り口なのですから」


 真摯に言い募るルナ=マリーに、ヘザーは溜息を吐き綺麗な柳眉を下げ普段の淑女然とした品格のある態度に戻る。


「逸るお気持ちは分かります。ですが、本当に創造世界(ミユートロギア)と関わりがある異変であるなら、ことはそれこそ世界に関わります。焦らず調べるべきだと思いますが。気持ちに余裕がなければ、見落としも出るでしょうし」


「分かってます。今回の調査で、異変が本当に起きているのか? どんな異変か? どうして起きているのかが分かればいいのですが」


 愁いを清らかな美貌に浮かべ、菫色の双眸をルナ=マリーは気掛かりそうに揺らした。

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