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第4章 星降る夜 5

 アイリス色に大気が淡い光彩を帯び霞み深淵の闇にひっそり咲く草花――貴石の如き惑星エブルーを、煌めく幾万の輝きが主役の貴石を引き立てる飾りのように添えられる。集結中の惑星エブルー衛星軌道上にある女帝軍大小約六万隻弱の艦艇と共に、周囲の艦形よりも幾分ずんぐりとした旧式の軽巡航艦が浮かぶ。長い船齢を誇るであろうその艦は、軽巡行艦ローレライ二だ。そのそうそうたる女帝軍の威容を、ローレライ二の格納庫から船外を映し出す空中に投影されたフォログラムモニタで眺める零は、新旧皇帝の決戦後小競り合いの感があった内乱もいよいよ本格化してきたと気が重くなった。


 アルノー大公国軍・ヴァグーラ王国経済共同体諸国家盟約軍の進軍ルートを近衛軍を中核とする軍勢で封鎖させ、前皇帝派貴族軍を第一エクエス・オルデン半数を中核とする軍勢に対峙させ、ミラト王国軍の集結情報を掴んだ女帝ヴァージニアは反攻作戦の為帝国内の随所に前皇帝派や国外勢力との戦いで分散していた残るボルニア帝国主力軍の四分の一に当たる任が空いた或いは重要性の低い任に就いている軍勢の集結を命じ、惑星フォトーを奪還したベルジュラック大公ジョルジュ率いる分遣群にも招集がかかったのだ。少し離れた惑星エブルー周辺域で今も艦艇が続々とワープアウトし、集結ポイントであるローレライ二が遊弋する近傍に向かってきていた。


 ボルニア帝国軍艦艇の往来が惑星エブルー周辺は頻繁である為民間船の惑星近辺でのワープアウトは制限されていて、ラスコー恒星系外園がその場所に指定されていた。恒星船や航宙船の区別なく民間船の恒星系内の移動はリングゲート使用に限られ、惑星を挟んで月の反対側に浮かぶエブルーの半分ほどの直径を有する巨大なリング状の巨大構造物(メガストラクチヤー)から民間船が途切れることなく出入りしていた。


 この馬鹿げた途轍もない規模のリングは加速器でワームホールを作り出し、別拠点に設置してある同様のリングゲートとを繋ぐ。特定の場所でしか使用できないが、亜空間航路のように数日から数ヶ月航行に費やす必要がなく、リングを潜るだけで互いに設定してあるゲートであればどんなに離れた場所にでも瞬時に出現できる。リングゲートは殆どが恒星系内での移動に用いられ、超光速航行(FTLN)能力を有さぬ通常の航宙船も通行可能であることから商業目的での利用が多い。恒星系同士は、リングゲートを他勢力に軍事目的で利用されれば大変危険である為使用は慎重で、自治的な商業恒星系群同士を繋ぐ自由の扉等僅かながら存在するだけだ。


 そして、このリングゲートは航宙船の往来だけでなく、通信システムとしても利用されている。超光速通信(FTLC)がそれだ。恒星系間の情報伝達は、通常情報運搬超光速艇(Icftlb)が自動で収集運搬し遠隔地へもたらす為恒星系間の距離により亜空間航行にかかる日数分タイムラグが生じるが、リングゲートを用いた超光速通信(FTLC)を用いれば瞬時に回線に乗って情報が伝わる。


 独立勢力により重要拠点間の局所で運用される超光速通信(FTLC)だけでなく、銀河の調停機関テンブルムが運営する銀河の糸と呼ばれる超光速通信(FTLC)システムが存在する。テンブルムと繋がるリングゲートが銀河憲章に加盟した国に一つずつ各勢力の主星に存在し、これを用いた超光速通信(FTLC)網だ。このテンブルムと繋がる銀河の糸を認められた公的航行以外に、例えば軍事侵攻等の目的で使用すれば銀河中の国々の報復を招く。相互抑止による安全性が保証されている為例外的に銀河の糸に用いられる恒星間リングゲートを各独立勢力は受け入れている。


 一つの恒星系内の主要な天体に各独立勢力のリングゲートは設置されており、惑星エブルー周辺域のリングゲートは一つだがリングを潜ると繋げられた複数のゲートが現れどれを潜るかで行き先を選択する仕組みとなっている。


 多層的な階層構造となっている格納庫の後方に隣接するブロック――船尾方向のウェルドッグに着艦を知らせる警報が鳴り響き、女性声のアナウンスが告げる。

「気密隔壁封鎖。ドッグ近辺の者は注意せよ。ウェルドッグ外郭が開くため、ドッグ内の者は内殻の内か外かを確認せよ」

 着艦の様子がホログラムモニタの端に表示され、灰色の実用性重視の連絡艇がウェルドッグに着艦した。


 零率いる兵団が受領した深緑色をした両舷を硬化型シールド装甲が覆う実用性重視の軽巡航艦ローレライ二は、かなりの老齢艦で実質的には退役していた艦艇で戦闘ではなく貨物船代わりの輸送任務に就いていた艦艇だ。前皇帝軍との決戦で主戦力の四分の一を失い各地の戦線を支え、足りぬ兵力を掻き集めている状況の女帝軍にあって、恒星戦闘艦やグラディアートが不足し増産もしているらしいが各地からの余剰分で充当している状況だ。回してもらえるだけでもありがたいことは分からなくもないが、それでも文句の一つも言いたくなるくらいには、ローレライ二は使い込まれていた。グラディアート最大搭載数七百五十機。予備機や直援機を差し引けば、兵団そのものの運用数は六百程度が適切となる同クラス標準をやや上回る搭載力を有している。


 実質退役艦であることを差し引けば、零としてはありがたいことに、補修任務も帯びた輸送艦として使用されていた為、格納庫が老齢の割に設備が新しく充実していた。普段グラディアートのスタンドとして用いられる自立式整備ハンガーは通常艦と同様だが、五基のグラディアート用のアセンブリハンガーや分子アッセンブラーなど戦艦以上でなければ搭載されていない設備があり、この艦でグラディアートの大規模修理から組み上げまで可能となっている。庫内を拡充しているらしく、これらの設備があってもグラディアートのペイロードは損なわれていない。そして、庫内の端に、通常の軍事運用では使用されないような、これまでの任務で蓄積したらしい様々な物品が固定され積み上げられていた。

 気密隔壁が開く音で下のウェルドッグへの人間用の通路を零が見遣ると、黒い戦闘服姿の一団が庫内へと入ってきた。


 既に耳慣れてきたきびきびと凜々しく引き締まった声が、その一団から響く。

「増員の方々は、荷物を部屋に置いたら一度ブリーフィングルームに集まって兵団長と顔合わせをして貰います。編成等を含めて、訓示を頂けるものと思います」

「聞いてないぞ、そんなこと」


 嫌味に上を見上げてきて凜々しさと清楚さが同居した美貌にやや人の悪い笑みを湛えたヴァレリーに、零は忌々しげに毒づく。

「そんなの、ご大層に構えずに適当にやればいいんだよ。第一、技量も分からない連中の使い方なんて分かるか」

「案外、期待できるかも知れないぞ。九割方が命を落とす第一の試練を生き延びた連中だ。元の決死隊にも第二エクエス以上の者がそれなりに居るし、同数の通常の兵団よりも実力が上なのは確かだろう」

「ま、明日編成を踏まえた立ち会いをしてみてですが、恐らくリザーランド卿の言うとおりでしょう。今日は受領するものを受領したら、歓迎会。そのお呼ばれついでに零の手伝いに来たようなものだしな」

 不満げに文句を並べる零に、エレノアが深みのある赤い双眸に慧眼を浮かべ、ブレイズが丁寧な相槌を打ちつつ零に向けては気楽な口調となった。


 じろりと右隣に並ぶブレイズを睨みつつ、零は女性のような中性的で静謐な面を不機嫌にしやや低めで大きくもないのによく通る声に戒めるような響きを乗せ指摘する。

「別に、呼んでないぞ。呼ばれて、その歓迎会とやらに参加してお呼ばれって言うんだ。ブレイズ、お前のは只の押しかけだ。第一、俺はその歓迎会とやらの準備は何もしていないぞ。昨日、ローレライ二を受領して引っ越しをしたばかりなんだからな。今日は今日で、増員の人員やら他の受領品を受け取らなくちゃならないから」

「あら、歓迎会の準備してあるわよ。ヴァレリーお嬢様と何人かで、色々と手を回していたみたい」

「聞いてないぞ」

 少し離れて同行しているサブリナの言葉に、零はぶすりとした声を落とした。


 零が決死隊を兵団として率いると決まってから、特に指示していなかったがサブリナとヴァレリーが副官的役割を熟し、他数名がその補佐や得意とする分野で兵団編成の為零に代わって動いていた。それらはかつて他国に仕えていた経験のある零にしても理に適った行動で、問題もなかったので特に何も言っていなかったが。


 戦闘集団としてそのままでは困ると、零は警告の響きを指摘に乗せる。

「全く。考え物だな。この兵団の長たる俺は、新兵団の編成が決まってから禄に仕事をした覚えがないからな。俺の知らないことが、勝手に決まってる」

「そんなこと些事じゃない。兵団長の許可が必要なことは、ちゃんと報告してるでしょう? みんな、零が自分達を率いるって決まって希望が湧いてるのよ。決死隊は身分が高かった者が多いから軍では高官だったり、貴族軍に居た者も居るから要領は分かっているし。兵団の編成は、自分達自身のことでもあるから、ちょっと勝手に動いてしまったかも知れないけど、率先しているのよ」

「ま、組織として機能しているからいいけど。決死隊は懲罰部隊。内部人事が軍部から行われないからな。それは、明日の立ち会いと経歴を考慮して、決めるとして」


 サブリナやヴァレリーが副官的役割をしてくれたお陰で決死隊内は一応の纏まりを見せ、懲罰部隊とはいえ人員でなければ分からぬ細々としたある程度は大目に見られる私的な物品の補充も受けられ、まだボルニア帝国内の事情に疎い零では分からぬ人伝で有利に編成を進められもした。キャバリアーとしての技量が物をいう人事はともかく、組織図的には自然に落ち着いた役どころが向いているだろうと零も思う。


 兵団内の話が決着したと見て、エレノアが零が率いる兵団の陣容を確認する。

「これで、兵団の人員は揃ったわけだな。ローレライ二の運用は、元々の輸送艦の人員がそのまま引き継いでいる。零とわたしが同行した決死隊の生き残りは、四百三名。内、キャバリアーが二百三十二名。増員は、第一の試練に生き残った他の十九の決死隊を掻き集めた、三百五名。内、キャバリアーが二百八十二名。非キャバリアーの生存が、たったの二十三名だ。本来決死隊に与えられる試練が、いかに過酷か分かる。非戦闘員が生き残れる目など、まずないと言っていい。生き残ったキャバリアーとて、二度目、三度目の試練で死に絶え生き残る者などまず居ない。感傷はさておき、これで兵団のキャバリーは五百十四名」

「済まないな、エレノア。手伝いに来て貰って。マーキュリーにカーライトも」

「いいわよ。前回の戦いでは、零に借りがあるし」

「いいえ。フォトーでのあの窮地で、エレノアを無事に帰してくれた零に会いたかったから構わないわ」


 紺色をしたボルニア帝国軍の戦闘礼装を着用した二人の精霊種――たおやかな乙女然としたマーキュリーと銀髪をミディアムにした年若い少女の姿をしたエレノアの契約ファントム・カーライトが微笑を浮かべる中、不公平な扱いにブレイズが噛み付く。

「おい、俺には礼はねーのかよ」

「ただ飯にありつこーとやって来た奴なんて、知ったことか」

 ブレイズをにべもなく切り捨て零がやり込めている内に、ウェルドッグにドッキングがあることを警報とアナウンスで艦の物理デバイスと汎用コミュニケーター・オルタナの両方を用い伝えてきた。


 どことなく零の声に、普段にはない陽気な気勢が込められる。

「大型輸送船。本日最大の目玉、グラディアートのお出ましだぜ」

「何か分かるか?」

「こちらから指定なんて出来ないからな。何が出てくるかはお楽しみだ」

 双眸を微妙に細め疑わしげに見遣るエレノアの問いに、零は肩を竦めつつ搬入口の方へ歩き出した。


 後を追うブレイズが、お人好しの彼らしく言いにくそうに指摘する。

「あー、こう言っちゃ悪いが、あんま期待しねー方がいいぜ。このローレライ二だって実質退役してる老朽艦だ」

「こういうこと言いたくないけど、この兵団は通常の兵団とは異なる懲罰部隊。試練は、後二回残ってる。グラディアートも、無駄遣いしないように考慮するでしょうね」

 並んで歩く零やブレイズにエレノアから一歩距離を開け付いていくサブリナが、決して喜べない現実を再認識させた。


 顔だけ向け振り返り、零はジト目をサブリナへと向け麗貌をつまらなそうにする。

「全く、冷めること言うな。そんなこと、分かりきったことだろうに」

 先の三十メートルはあるウェルドッグへと続く機密扉となっている大型貨物の搬入口が警報と近くから離れるよう求めるアナウンスと共に開き、奥にずらりと巨大な影が並ぶ。前列のそれが重力制御でふわりと浮き上がり、ゆっくりと自律制御で庫内へと入ってきた。


 ミディアム骨格と分かるエバーグリーン色をした機体は、アイセンサが四つある頭部上部が二段重ねになったような構造で機械的な威圧感を与え、アイセンサの下にある顔の下半分の白いフェイスマスクに入った歪みを持つ並んだスリットが獰猛な雰囲気を伝えてくる。機体の要所の装甲は、プロテクターのような形状をしていて全体として纏まりのあるデザインのグラディアートだ。量産機の印象は強いが、想像より増しに零の目には映った。

 機体を一瞥したエレノアの美貌に、どことなく納得したような表情が浮かぶ。

「ふむ、ゲレイドか」

「グラーブよりは増しか」

 ゲレイドという名のグラディアートに対する零の感想は、その一言に尽きた。確かに見た目だけでは、自己修復能力を有するシェイプキーピング素材超緊密アポイタカラ甲を装甲に超緊密アポイタカラ乙をパーツに使用しているのだから古いかどうかは分かりづらく、性能に関しては外見からでは推測の域を出ないことは自明だが。


 やや頓狂な声を発したサブリナは、音律のある声を呆れ気味にする。

「グラーブ? まだ現役で稼働している機体があったなんて驚いたわ。それにしても、幾ら募兵に応じた氏素性の定かでないニュービーだからって、そんな骨董品を零は回されたの?」

「ああ。ファルの駐留軍が、どうせ囮で破壊されるんだからって回してくれたありがたい機体さ」


 不機嫌に応じる零に、ブレイズは精悍さのあるやや浅黒い端正な面を戦士のそれへと変え思慮のある藍色の双眸に達眼を浮かべる。

「ファブールやパルパティアよりも、一世代古いくらいか? まだまだ、現役で行けそうだ。ってか、これで文句を言ったら贅沢ってもんだろ」

「だが、掻き集めた感は否めないな。ブレイズの言うとおり、ゲレイドは前主力機。性能は、比較対象のパルパティアに大分水を開けられている」

「未だ稼働させているのが不思議なグラーブと比べたら、確かにまともな機体だわ。けど、それは並の国なら。ここは大国ボルニア帝国だから、現主力機と渡り合うとなると厳しいわ。それは、大国と言えるトルキアやミラトを相手にしても同様ね」

 ブレイズの言葉に、エレノアはやんわり反論しサブリナが補足した。


 庫内に続々侵入してくるゲレイドがずらりと三列に並んだ自立式整備ハンガーに機体を預けると、ハンガーは高速で移動し次のハンガーが前へと送られる。グラディアートの搬入は、殆どというより全く人手を要さずグラディアートの|インテリジェンス・ビーング《IB》と艦のマルチトランスポーテーション管理超人工知能(ASI)の自律で進んでいった。


 その様子を見守っていると、駆け足の音と共にやや粘りのある声がエレベーターの方から響く。

「サブリナ、無事で良かった。ヴァレリーお嬢様は、一緒ではないの?」

「キュベレ! 来てくれたのね。ファントムの返却を知らされていたけど、契約を解除されているかもってハラハラしてたの」


親しみを感じさせる声で振り向いたサブリナの前に立つ者は、茶色の長い髪に艶冶な美貌と全身とが成熟した女性を感じさせる乙女。そこに居る筈なのにどこか架空じみていて、姿が半ば透けているように見えた。ファントムだ。


 応じるファントム・キュベレはサブリナの手を握り、否、握ろうとして擦り抜け、「あ、いけない」と慌てて幽子化されていた身体を実体化するとしっかりと手を握る。

「あなたを、見捨てるわけないでしょう? 将来を見込んで契約したんだから」

「元気そうね、サブリナ」


 そこへ、キュベレの後ろから瑞々しい水流のような声がかけられる。

「元気そうですね、サブリナ」

「エインセルも来てくれたのね」

 喜ぶサブリナと手を握り合うキュベレから視線をずらすと、尖った耳をした亜麻色の髪をボブにした可憐な美貌の少女が零の視界に入った。


 エインセルという名の少女――ファントムは、緑色の双眸を気掛かりそうに揺らす。

「当然です。それで、ヴァレリーは無事ですか?」

「お嬢様は、今仕事中でここには居ないの。増員された決死隊の付き添いをしてるわ」

「よかった。早く会いたい」

 ほっと胸に手を当て、噛みしめるように発するエインセルの最後の言葉は呟きとなった。


 ゲレイドの搬入は滞りなく、一度零はエレノア等に断りその場を離れた。格納庫に入った時から気になっていた、この艦のこれまでの任務が想像できるような隅に積まれた品々を確かめる為に。


 零には、懸念があった。ブレイズの言うとおり、ゲレイドの文句を言ったりしたら確かに贅沢だろう。けれど、マーク・ステラートの前例がある。この先、どのような強敵に当たるか分からない。ファントムも、恐らくまた人形(プーパ)だろう。ボルニア帝国に来る前――巡礼に旅立つ前に零が使用していたグラディアートは高い性能を有していて、それはファントムも。大国たる敵の通常戦力を考えても、ゲレイドは低スペックであり、人形(プーパ)では敵に未来予知(プレコグニシヨン)で劣り零の戦闘力もフォロー仕切れない。


 近づくにつれ、分かっていたことだがそれらの品々が途轍もない威容を放つ。上からは小さく見えていた物でも、遙かに零の背丈よりも大きいのだ。航行中転がったりして事故が起きないよう、大小様々なそれらの物はしっかりと固定されていた。


 一つ一つをしげしげと眺め、厳つい機械構造の先に紡錘型の創成金属アダマンタインで作られた貫通すると広がる構造をした、槍の穂先めいた錐がついた装置が零の目に付いた。


 それに触れながら、零は誰にともなく呟く。

「艦艇用の係留アンカー射出機? 結構小型だな。この大きさなら、使えるかも知れない」

「おや、どうしました? 確か、兵団長殿では?」

「いい物があるなって、思って。そこの、艦艇用の係留アンカー射出機、俺のゲレイドに似合いそうだ」

 声をかけてきた繋ぎ姿の無精髭のある初老の男に零はにっと笑むと、声に獰猛な響きを帯びさせた。


 初老の男は、一瞬ムッとなると同時に目を白ませる。

「そいつを、グラディアートに? 戦闘機動させて射出してもアンカーの速度がとてもじゃないが足りなくて、武器としてとてもじゃないが使い物になりはしませんよ」

「使いどころ次第だな。で、貴様は?」

「機甲兵種の技師長をしておりますリオネルです、六合(りくごう)兵団長殿」

「宜しい、技師長。ちょっと相談しようじゃないか」

 肩に手を回し無精髭を生やした初老の男の顔に、零はずいと己の麗貌を寄せた。


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