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第3章 犠牲の軍隊後編 17

 赤みを帯びた陽光で藍色の騎士甲冑(ナイトアーマー)を紫がかった色に染め琥珀色の騎士(アンバーナイト)の左手に瞬間移動のようにムーブでブレイズが回り込む動きに連携し、零は同時に攻めかかる。完璧にタイミングのあった挟撃体制。対処不能の必殺の仕掛けの筈。


 己の内に流れる力の脈動をたぐり寄せ時空の断続に意識の手を伸ばし、零は秘超理力(スーパーフォース)に働きかけた。外骨格(Eスケルトン)スーツの機動スタビライザーに重力への最大干渉を課し、発生した重力偏位により急激な機動変更がなされその場から掻き消える。俯瞰すると一度下へ急降下するように見えて、次の瞬間には琥珀色の魔道甲冑(マジツクアーマー)めざし突進したのだ。その砂色の外骨格(Eスケルトン)スーツが前後に幾つにも重なるように、まさに幻惑そのものでマーク・ステラートを急襲する。


 零がオーバーラップによる攻撃を仕掛けるのと同時、バスターソードに強い輝きを発生させパワー・ブレードを発動させたブレイズが、背後に秘超理力(スーパーフォース)の波紋を作り一瞬でマークとの距離を吹き飛ばした。

 玉鋼の太刀とダマスカス剛のバスターソード、零とブレイズの斬撃が、琥珀色の魔道甲冑(マジツクアーマー)の逃げ場を塞ぐように振り抜かれた。例え神速を越える絶による空中機動とはいえ、二人の間合いは逃がさない。あの最高位マジック・キャバリアーのみが発しうる高威力のマジェスティによる包囲乱戦回避を警戒し、発動されてもマークを逃さぬようムーブで踏み止まり、ディフェンスで逃がさなかった力による破壊に対する準備をしつつ。

 が――、


 眩い威光が視界を焼くことなく、零とブレイズの斬撃がマークをあっけなく捉える。

 ――! そんな筈があるものかっ!

 毫の間に警鐘が打ち鳴らされ、次の瞬間眩い光を放つ神速を纏ったバスターソードが零の直近に空間を歪ませ出現した。まともに食らえば、必殺の威力。


 零の中で原始的な怒りにも似た感情が炸裂し、生存の為の緊急回避が意識することなく行われる。既にスピードはアジリティによりSに達している。ウェアを使用できない零はランクアップを行えず、秘超理力(スーパーフォース)による大幅な強化はもう出来ない。零が用いるのは、秘超理力(スーパーフォース)以外の力。零の奥底から厳重に封じられた扉を開くように、荒々しい、それでいて清らかな何かが這い出てきた。一瞬で零のソルダ諸元(スペツク)が書き換えられた。


 得物の位置から同等の神速では決して応じられぬバスターソードの一撃を、零の太刀が弾き返した。それは、マーク・ステラート同様の神速を超えた絶。


 ほぼ同時。根源的な恐れを抱かせるような雄叫びで、零は毫の攻防から意識を開放する。

【ブレイズ?】


 咄嗟に視線を走らせると、強い光輝を纏った太刀――見紛う筈もない零の得物であるそれが空間の歪みを通してブレイズの間近に鍔下をぼやかせ出現し、藍色の騎士甲冑(ナイトアーマー)を襲った。斬撃が届く刹那、太刀は怪しく軌道を変え返された刃の切り返しが既に応じたブレイズの裏を掻き彼を捉えようとした、逃れようのない虎口。零は、胸を架空の激痛で軋ませる。

 ――駄目だ。あの妖斬は、俺が練った必殺の一撃。秘超理力(スーパーフォース)に頼らぬ剣技そのものだから、大技を使用するような場面では意識が派手さのない技に向きづらく特に有効なんだ。初見では……まやかしの太刀に一度惑わされてしまえば……間に合わない。


 行きずりの腐れ縁ではあっても戦友の死を零が覚悟したとき、群青色の薄い膜がブレイズを覆った。バスターソードが宿す強い光輝が青黒く鈍い光へと変じ、騎士甲冑(ナイトアーマー)の全身を覆う薄い膜が一点に集中し盾のように切り返しの太刀を防いだ。


 その毫の間の攻防に、零は目を見開き思考に驚愕が満ちる。

【コントラクト・キャバリアー! 奴に感じていた違和感はこれかっ! あの気配……幻魔と契約していたのかっ!】

【まーな。俺の契約相手は、コントラクト・キャバリアーの代名詞となってる神官戦士が契約する聖霊とは違い神聖なものとは言い難くてな。知られたくなかったんだ】


 思わず高速情報伝達に乗ってしまった零の独り言のような思考に、ブレイズは苦笑の気配を合成音声に滲ませる。

【にしても、今のは何だ? 奴を斬ったと思ったら、攻撃を受けたのはこっちだ。しかも、あれは零、おまえの剣だ。なんつー太刀筋してやがるんだか。ああいうのを妖刀つーんだな。背筋が凍ったぜ】

【俺も、ブレイズの剣を受けた。お互い様だな。ブレイズの剣は、悪く言えば馬鹿正直。良く言えば勇者の剣ってところか。迷いのない、自信に裏打ちされた太刀筋だ。奴を斬ったと思ったら、俺とブレイズでお互い斬り合わされちまった】


 改めてマークが使用した技に心胆寒からしめるブレイズに、零は今し方起きた事象を検証し家の対抗術士(カウンターマンサー)に教えられた伝えに行き着く。

【あれは、ソルダ技なら秘技に属するマジック・キャバリアーの秘奥の技、宿命伝送――フェート・トランスファー。自らに起こる筈の事象を任意の対象に結果として生じさせる、事象改変を行う禁忌に近い技。そうそうお目にかかれるものじゃないぜ。マークが使えるなんて、俺は知らなかった】


 零の話に冗談だろと独りごちブレイズは、気持ちを切り替えるように話題を変える。

【そう言や、あいつ零のことを知ってるみたいだったが、見知りなのか?】

【ああ。ありがたくもないことに、な。遣り合わなくちゃならない状況が、何度かあったって関係だけど。その度、剣を交えながらどう逃げればいいかいつも考えてたよ。ホントは、こんなの願い下げだ。マーク・ステラートの押さえなんて。改めて、奴の化け物ぶりを痛感させられる】

 バイザーに隠れた面を仏頂面にしそう答える零は、本当に不機嫌そうだった。


 ぐるりと零とブレイズを回り込むように魔道甲冑(マジツクアーマー)を機動させつつ、愉快げに嘲弄をマークは響かせる。

【同士討ちの間抜けは晒さなかったか。味方同士潰し合ってくれればと淡い期待を抱いてはいたが、それで終わってしまってもさすがに味気ない】

【随分、マニアックな技を使うじゃないか。趣味わりーぜ。堂々と戦えなんて言うつもりはねーし、表舞台で生きられなかった俺にそんな資格もねー。けどよ。自分の手で倒したい強敵って認めてくんねーってのも、寂しいじゃねーか。おっかねー、技だぜ。繰り出す剣が強力なら強力なだけ、仲間を殺しちまう可能性が高まるなんてよ。おちおち、テメーに仕掛けられねーじゃねーか】

【一体、どこで習ったんだか。マーク、貴様の出自は謎に包まれている。二十五年前、神聖帝国包囲戦に忽然と聖帝国側の傭兵として参戦し、表舞台に現れその類いな武勇を世に知らしめた。それまでどこかの国に仕えていた記録はない。強力無比な固有範囲殲滅魔法。伝承など殆どされていない、秘奥の技】


 挑発するブレイズの後を継ぎ改めて仇敵を測る零に、マークの合成音声は冴え冴えとしながらも灼熱した闘志を宿す。

【つまらぬ詮索をするな、贖罪者(レディマー)。それは、貴様も似たようなものだろう。戦士の証明は、只己の武勇のみ。破れた者に、歴史を紡ぐことは出来ない。今この場にあっては、敵を打ち砕いた者のみが未来を語ることが許される。砕かれればその者は無価値。存在しなかったも同然】

【違うな。敵を打ち砕いた者が、勝者じゃない。生き残った奴、最後に立っていた奴こそが勝者だ。マーク・ステラートに勝利する必要なんてないんだよ】


 向けられる戦意を躱すように揶揄を思考に乗せ答える零に、マークは絶対の強者のみに許された嘲笑で返す。

【ははははは。俺を克服せずにこの場をどう生きの伸びる?】

【テメーが諦めるまで凌いで粘るって手もあるぜ。そういうの、俺得意だぜ。俺の相棒は、頑丈なんでね。なかなか契約者を死なせてくれねー】


 回り込もうとする琥珀色(アンバー)魔道甲冑(マジツクアーマー)を警戒し零に同調するようにその後ろを取るように機動し軽口で応じるブレイズに、マークから一切の戯れるものが消え失せる。

【未だ口の減らぬ。良かろう。引導を渡してやる。そのような戯れ言が通用せぬことを、教えてくれよう。貴様等の甘い認識が、間違っていたと悔いて死んでいくがいい】


 零とブレイズ二人を捉えられる位置取りをするとマークは、ミスリル製のナイトリーソードをピタリと赤みがかった惑星フォトーに降り注ぐ光線を反射させ向けてくる。

【我が身に秘めたる内境よ、世界の境界の理を超え顕現せよ。戦塵の果て(バトル・ダスト)

【固有結界。ブレイズ、気をつけろっ!】


 注意を喚起したそのとき身を切り裂くような鋭利な気配に怖気が全身に走り、零は自分が恐怖したことを自覚する。

 ――つっ――

 刹那、零は恨みを刻んだ。


 高速情報伝達に乗って、ブレイズの驚愕が零に響く。

【……不味いぞ……】

【ああ、全くだ】

 恐怖を悔やんだとしても零の思考はか細く、今も身内から生ずるような悪寒に、否、時間の経過と共に増す殺気とも違った殺伐とした気配に涼やかな眉をきつくした。夜空の双眸に力を込め、凄絶な空気に飲まれまいと睨む。


 暗紅色に遠方が歪み、空間が閉じようとしていた。焦燥に、零の中で逡巡が過る。

 ――急がなければ。鬼気招来……今の俺に連続して使えるか?


 先ほど感じた原始的な瞋恚が炸裂し零の奥底から何かが這い出て、清流のように冴えた気配が満ちようとしたとき、それは泡沫のように霧散した。溢れようとした力の消失に、霊はバイザーの奥の麗貌を硬くする。

 ――やはり、駄目か。空間が閉じる。そうなれば、固有結界が発動してしまう

 マーク・ステラートの固有結界に初めて囚われた零は、果たして戦塵の果て(バトル・ダスト)がいかほどのものでどれほど危険か図ろうとして首を振った。分かる筈もない。


 僅かな間の逡巡を破るように、ブレイズの声が零を浮上させる。

【零、ぼさっとするな。マークに仕掛けろ。空間が閉じちまえば、奴の心象世界が結界内の現実と入れ替わり俺達はその中に囚われちまう】

【分かっている。けど、決め手がない】

 叫び返しつつ零も外骨格(Eスケルトン)スーツの汎用推進機関から電離気体を吐き出し、先行するブレイズの後を追った。


 ブレイズの身体が十を超え分裂すると円を描くように高速で前進しつつ動き、それぞれの本体を含む分身がスキャッター・ブレードを放った。飛刃は螺旋の渦を巻くかの如く乱れ飛び、まるで竜巻がマーク・スレラートめがけ突進するかのようだった。


 炸裂する大技に隠れるよう、零は外骨格(Eスケルトン)スーツを機動させ機を窺う。

 ――神技下位サイクロン。さすがは、ブレイズといったところか。

 乱れ飛ぶ飛刃が生み出す乱舞が、虚実など無意味とばかりにマークに襲いかかった。琥珀色(アンバー)魔道甲冑(マジツクアーマー)を覆うように極小の半透明な紫色の六角形が無数に出現した。虚実混合の飛刃の濁流の中偽物(フェイク)に紛れ迫るブレイズの実体に対処する為、ソルダ技ディフェンスに相当するハードを発動したと零は見て取った。

 無数の飛刃が騎士甲冑(ナイトアーマー)を纏うマークを擦り抜け幾数の実体が、半透明な紫色の膜に阻まれ弾かれた。と、同時。


 飛刃を隠れ蓑代わりに分身(ダブル)と共に突進したブレイズが、強い光輝を宿したバスターソードでマークへと迫る。

【いやっ!】

【くぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおお――】

 突進と共にブレイズが放った神速の斬撃を、マークはミスティック・ブレードを発動させ神速を超える絶による反応と早さで、暗紅色の粒子を帯びたミスリル製のナイトリーソードで受け流した。


 突進の勢いでブレイズの身体が琥珀色(アンバー)魔道甲冑(マジツクアーマー)を擦り抜け通り越しマークが次の挙動へ移ろうとしたとき、サイクロンを隠れ蓑にしていた零が仕掛けた。が、マークの次手は零に対してのものだった。抜かりなくマークは、周囲に張り巡らせた魔力によって零から感知の視線を離してはいなかったのだ。


 ――分かっていた。銀河中のキャバリアーから畏怖される十色の騎士(イクス・コロルム)。その分、姿を現せば強敵から付け狙われる。こんなことで引っかかってくれるような可愛げがあるなら、もうとっくに奴は死んでいる。

 硬化型ヒーターシールドとナイトリーソードで隙なく構えるマークに、零は何の技巧も凝らさぬ太刀による斬撃を放った。マジック・キャバリアーとしての技のみならず純粋な剣技に卓越したマーク・ステラートともあろう者が取る防御姿勢であれば、鉄壁。おいそれと崩せるものではなく、崩しに繋げる為の攻撃でしかそれは有り得なかった。本来なら。


 斬撃と同時、零は身内の秘超理力(スーパーフォース)を研ぎ澄ましクリエイトルとしての演算を駆使した。盾に防がれる筈の一撃がヒーターシールドに刃が触れようとしたその瞬間掻き消え、鍔元から先の刀身がマークの左後方に出現した。マーク・ステラート相手に尋常な手など通用しないことなど、零も織り込み済みだ。


 マークから、裂帛の気勢が上がる。

【小癪っ!】

 太刀が掻き消えるとほぼ同時の反応を果たしたマークは、絶の反応と速度でナイトリーソードを跳ね上げた。が、既に左後方に迫った太刀は琥珀色(アンバー)魔道甲冑(マジツクアーマー)を切り裂き、それでも既に応じていた動きでマークはアーマーの一部を損壊しながらも深手を免れてのけた。

 空中に出現した太刀は消えさり、零の手元に戻ったそれに一筋血が滴った。


 それへちらりと視線を向け、夜空の双眸に零は険を浮かべる。

【浅手。秘技に属するイヅナを用いても、掠り傷とはなっ!】

 即座に零は次の一撃を放ち、半ば固有結界発動を止める決め手を欠いていることを自覚しつつ切り結んだ。


 データリンクを通してブレイズの気炎が響き、マークの背後を取るように藍色の騎士甲冑(ナイトアーマー)が迫る。

【零ばかり相手するなんて不公平だな、琥珀色の騎士(アンバーナイト)様。俺も居るぜ】

【遅い】

 零と切り結び背後から迫るブレイズを無視し、マークは応ずる素振りも見せなかった。


 ズーン!


 空間が軋んだ。身体の奥に音ならぬ音が響くのを零は感じ、次にはマークから飛び退き遮二無二太刀を振るった。零は、途切れることなく周囲から出現する剣戟が向かってくるのを凌ぐことで手一杯だった。


 切迫したブレイズの声が、零に響く。

【固有結界、戦塵の果て(バトル・ダスト)が発動しちまったっ! 何て代物なんだよ】

 防戦で手一杯なのはブレイズも同様で、騎士甲冑(ナイトアーマー)を細かく機動させつつ己に向かってくる剣戟をバスターソードと盾で防いでいる。空間は完全に閉じ、四方は暗紅色に染まった。


 現世(ことわり)と引き換えに出現したマーク・ステラートの心象風景に、零の心はざらつく。

 ――これが奴。十色の騎士(イクス・コロルム)琥珀色の騎士(アンバーナイト)マーク・ステラート……何て奴。気を抜けばわたしが怖じ気づいてしまう。奴にあるのは、純粋な闘争……。

 戦塵の果て(バトルダスト)の世界で、零とブレイズは闘争と争い続けた。

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