第3章 犠牲の軍隊後編 12
「琥珀色の騎士とミラトのストレールを俺達が基地から引きずり出すまで、見付からずに隠れていてくれ」
「分かっている。この作戦、陽動を受け持つそちらが過酷すぎる。わたしは、やはり陽動兵団群に居た方がよかったのではないか? 基地奪還と言っても、必ずしも防衛兵団群を制圧する必要はない」
多脚生物を連想させる複数のハッチを持ち上げるミラト王国軍から鹵獲した輸送型機械兵ユニットを見上げるように言葉をかける零へ、タラップ半ばへ達したエレノアが振り返り綺麗な眉を曇らせ美貌に憂愁を浮かべた。
そんなエレノアを励ますように零と並び見送るブレイズは、声音を鋭くする。
「何言ってんすか? 一番大事なのは、ガーライル基地を奪還し惑星地表に敷設された迎撃砲台殲滅の光弾砲の制御を奪い無力化させること。陽動に成功しても基地には数千の基地防衛兵団群がまるまる残る筈。リザーランド卿が率いる奪還兵団の幾倍の兵力か。決して基地奪還は容易くありません。ここはボルニアで名望がある実力者にやって頂けないと、敵を引き付けるこちらは希望を持っていられませんから」
「ええ。陽動を受け持つこちらは、敵に勝つことは出来ないわ。零の策が上手く行けば、ガーライル基地の防衛兵団群は拠点から出て来られない。ブレイズや零は、あのマーク・ステラートを。わたしは、ストレールを押さえることで手一杯でしょう。とはいっても、それも長くは保たない。ストレールは、こちらとはまるで質が違う戦闘集団。それを一時的に無力化できても時間が経てばその内食い破られ、こちらは全滅必至。陽動開始から速やかな基地奪還が、わたし達の生存の鍵となる」
後を受けたマーキュリーが、ブレイズの言葉を補足するように危険性が低いことから罪悪感を感じているらしいエレノアに彼女の役どころの重要性を説いた。
数歩踏み出しながらくすんだ金髪のサイドテールを揺らすサブリナが、心配げな表情を端麗な美貌に浮かべローズピンク色の唇を開く。
「お嬢様、お気を付けて。くれぐれも、ご無理はなさりませんように。リザーランド卿、ヴァレリーお嬢様を頼んだわ」
「半人前扱いしないで。リザーランド卿から副官を任されたのだから、その任果たさせて頂くわ」
反発気味に凜々しく引き締まった声をツンとさせるエレノアよりタラップの二段下に立つヴァレリーが、明眸に勝ち気な意思を宿した。
気を揉むサブリナと気丈に振る舞うヴァレリーを見比べ、ふと零に二人の関係が浮かぶ。
――主従というより砕けた感じだったから、姉妹みたいなものか? 普段お姉さんぶられてる分見返したい?
惑星フォトー残存ボルニア帝国軍は、現在エレノアの指揮下に収まった。ガーライル基地奪還の状況を開始するところ。基地側からの視界を隠す岩場の反対側には、二個師団からなる様々な型の機械兵ユニット群がずらりと並び、その中央に零達と外骨格スーツに身を固めたキャバリアーがずらりと並ぶ。現存する決死隊四百三名の内エレノアと共にゆく第一エクエス相当の一七名を除く三八五名が陽動に参加する。一人少ないのは、キャバリアー以外で決死隊からクリエイトルが一名同行するからだ。内二百十五名がキャバリアーで、残り百七十名はそれ以外。囮兵団群の内、四百八十二名がエレノアに同行し、二千五百十八名強が陽動に参加する。
基地奪還兵団、エレノアを加えキャバリアー五百名と人工知能技師三名にクリエイトルが一名。陽動兵団群、零とブレイズとマーキュリーを加え二千九百六名。
五機の鹵獲した輸送型機械兵ユニットへ、五百名が続々と乗り込んで行く。こちら側の統制下に置いたそれぞれの自立型特化型AIは現在ミラト王国軍の識別信号を発していて、基地への接近は容易となる筈だ。
もう殆ど奪還兵団の乗り込みが完了しているのを見て、エレノアが艶美な美貌を引き締め艶のあるメゾソプラノを響かせる。
「決死隊から十七名の第一エクエス相当のキャバリアーを、囮兵団群から兵団長二名を含む四百八十二名を選抜した。基地奪還兵団は、惑星フォトー上のボルニア残存兵力の中でも第一エクエス相当を中核に据え精鋭だ。それと、囮兵団群に同行していた技師。決死隊のクリエイトル。それを預からせて貰う。陽動が開始されたら、速やかに基地のAIをこちらの制御下に置き殲滅の光弾砲台を無力化する。基地の制圧は後回しにして。零、ブレイズ、マーキュリー、サブリナ。その間、耐えてくれ。行くぞ、ヴァレリー」
「はい」
踵を返すエレノアにヴァレリーは短く答え、まもなく二人は輸送型機械兵ユニットの中へと吸い込まれた。




