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第3章 犠牲の軍隊後編 11

「新参者が、いい気になるなよ。なるほど。未熟者が、無謀に、安易に、侮り、(みだ)りに挑む浅はかさとは、こういうことなのだな」

 正面の零に相対する獰猛に口の端を吊り上げたオーレリアンが、辺りにぐるりと視線を巡らせた。視線の先の零と囮兵団群の兵団長達はオーレリアンを含む全員、外骨格(Eスケルトン)スーツを脱着しインナーの上に生命維持装置を内蔵する胸のプロテクターと腕や脚を護る簡素なアーマーを身に付けただけで、地上型機械兵(マキナミレス)ユニット群に囲まれる形で対峙していた。


 オーレリアンのわざとらしい視線をわざわざ零は追いかけると、綺麗な眉を持ち上げ不敵に麗貌を笑ませる。

「確かに、おまえでは簡単ではないだろうな。けど、俺は違う」

「また、減らず口を。己の力も測れぬ未熟者が。尤も、ただ愚かなだけやも知れぬが」


 整った部類に入る面にオーレリアンは嫌な笑みを貼り付け余裕で受け流し、大柄の兵団長の一人が頷き応える。

「全くだ。その未熟さが、これだ。蟻が巨像に勝てると思ってしまう、慮外者。この惑星フォトーに取り残された帝国軍の残存兵力で、ガーライル基地奪還が適うなどと絵空事を信じてしまう」

「舐められたものだ。六合、数は数えられるか? 貴様は一人で、こちらが何人居るか分かるか?」


 同調し蔑み小馬鹿にしせせら笑う気鋭さが滲む兵団長に、零は小首を傾げこちらも同様な嘲弄で惚ける。

「八人居るな?」

「そして、貴様は一人。叩きのめされるまで、現実を理解できぬと見える。が、これで貴様の夢想も終わる。キャバリアーとして生を受けた身で巡礼の旅などと夢現を彷徨い歩き浮世を離れ、戦場などに立たねばよかったな。幻想の中で己を慰め、生きていられたものを」

 嘲笑を誹りへと変える兵団長に、零は妙に神妙な顔付きで頷くとひりつくような殺気を麗貌と言わず全身に滲ませる。

「その通り、だな。俺は、戦士の道を捨てた筈だった。ボルニアの戦に加わってこの方如何に敵に勝ったとて、どうすることも出来ぬ相手が勝手に頭に浮かび無力を知らされるだけだ。もう、俺は先へは進めない。戦場などに立っても、いいことなど何もない。が、成り行きとはいえ致し方ない。俺は臆病だから、死にたくないんでな。こうして、おまえ達を叩きのめして言うことを聞かせなきゃならない」

「ほざきおって。とは言え、もうこれきり貴様の高言を聞けぬとは寂しく思うぞ」

 剥き出された零の凶悪な横暴に、オーレリアンは闘志を漲らせ全身が膨れ上がるような獰猛な気配を漂わせた。


 頃合いを見計らうように立会人を買って出たエレノアが、艶のあるメゾソプラノを朗々と響かせ事前の取り決めを確認する。

「双方、準備はいいか? 武器は、光学兵器・ルークス・グラディウスを模擬戦モードで使用し、生命維持装置のフィールド発生及びオルタナのセンサは停止すること。多少の手傷は構わないが、相手を殺さないこと。違反するようなら、力尽くで止めさせて貰う」

「ああ。了解している、エレノア。じゃあ、こちらが一人でそちらが八人だと、どう俺がおまえ達を舐めているのか教えて貰おうか?」

 応えると同時、零が手に握る棒状のルークス・グラディウスのスウィッチを入れると光粒子(フォトン)が発生し光の剣に収束した。同様に、兵団長等も光粒子(フォトン)を棒状に収束させた光剣を伸ばす。


 互いに睨み合う決闘者達の間に緊張が高まる様子に、エレノアは薄紅色の唇に呆れた吐息を乗せ再び口を開く。

「では、開始っ!」

 合図と同時、零の直前の挑発に目配せをしあった八名の兵団長等は全身に薄ら光輝を纏うウェア発動と共に地を蹴った。


 一気に片を付けるつもりの敵に、零は内心ほくそ笑む。分からせてやるつもりでいる八名の兵団長達は、この一瞬後零の敗北を確信していた。

 ――第二エクエスより下とはいえ、主力兵団の部将たち。ソルダ技もそれなりだろう。頭に血が上ってくれれば自然初撃は単調になり、その数の必殺をいなせば相手は焦りその単調が持続しこちらの有利に運ぶ。

 刹那の思考を零が巡らせる瞬く間に、徒人の目には捉えられぬスピードで八名の兵団長が迫り、ルークス・グラディウスを突き入れ薙いだ。

 それを零は、相手が対応不能なギリギリまで基技空間把握(スペース)を駆使して死角を捉え引きつけ紙一重で身体をすっと落とした。片手を地面につき片足を伸ばし屈むと、折った脚を軸にしてくるりと回転し三人の脚を払う。


 三人の兵団長等から、短い叫びが上がる。

「なっ!」

「くっ!」

「ぐわっ!」

 三人の兵団長が転倒すると零は立ち上がり、瞬殺を押し通そうと躍起になる四名の兵団長等の前後左右から迫る刺突や斬撃を、僅かな身体の動きとぐるりと身体を巡らしダンスをするような動きですれすれで躱していった。


 際どく躱し続ける零は大きくその場からは動いておらず包囲している側はすぐにでも倒せそうなのに出来ず、動揺が兵団長等に広がる。

「こいつ、まるで全方位に目が付いてでもいるかのような」

「何たる、秘超理力(スーパーフォース)の空間把握能力。四対一だというのに」

 兵団長等に生じた心境の変化を察し倒れた三人も体勢を立て直し戦列に加わったところで、零は初めて反撃に転じた。躱し様、やや大きく身体を傾け気味に落とし、敵に生じた攻撃の毫へルークス・グラディウスを突き入れた。


 苦痛の呻きが上がる。

「しまっ――くっ!」

 先ずは、一人。地へと仰け反り倒れ伏した。


 一人分。包囲網の僅かな決壊へ身体を割り込ませ、神速を使うつもりがない零は数による飽和を避けるべく兵団長等を誘導する。

 この状況でスピード以外上げても無駄と悟った三人がウェアを解除し、アジリティに切り替え一つを尖らせ迫った。それでも――、

 ――元のソルダ諸元(スペツク)ランクが違う。グレードを上昇させた程度で、差が埋まる筈もない。アジリティでスピードをグレードアップできる者など希で、例え上げられても第一エクエスに要求されるAには到底及ばない。スピードのみに絞ったとして第二エクエスのBに到達出来るのはソルダ諸元(スペツク)ランクCのオーレリアン一人だけで、現状グレードアップできない他はDといったところか。そしてソルダ諸元(スペツク)のランクそのものを一つ上げるランクアップは習得困難な上、秘超理力(スーパーフォース)クラスⅤを要求される。オーレリアンのランクは、Cより上になり得ない。


 繰り出される刺突を零は首を傾けるように躱し、既にルークス・グラディウスを握る手を伸ばしていた先に兵団長の一人が攻撃を中止できず光剣に身を晒した。零は光剣に力など加えておらず只置いただけだが、相手の自重が乗った攻撃がそれを鋭い刺突と同義たらしめ、呻きと共に相手は倒れ伏した。勿論、模擬戦モードでルークス・グラディウスの光粒子(フォトン)を収束させているので、麻痺の威力はあるが打撲武器としての負傷を負っただけだ。


 二人目。残り六人。


 それとほぼ同時、左右から地を蹴った兵団長の二人が迫り斬撃を放った。正面からの刺突と合わせ、零の動きを掣肘し攻撃を飽和させ対応不能にさせる悪くない連携。けれど、その攻撃は零からすればタイムラグのあるものだった。神速に達しておらずとも、ソルダ諸元(スペツク)ランクAとランクDのスピードや反応速度はあまりにも違いすぎるのだ。


 零が膝を折り身を屈めるだけで、二つの斬撃は空を切った。振り抜いた二人の兵団長に生じた次の挙動へ切り替える空白時間。即ち隙は、致命的だった。それが、キャバリアーとしての基礎的な素地が遙かに格上の零とあっては尚更。


 各個に零は、グレードA・スコアⅤのスピードでもって軽い跳躍で身を起こすと同時に一人と間合いを詰め斬撃を放ち、次のバックステップでもう一人に向き直りつつすり抜け様斬撃を放った。

 二人ほぼ同時に、頽れた。残り四人。


 兵団長の一人が、焦燥を帯びた声で注意を呼びかける。

「アジリティを使ったからと言って、油断するな。奴のスピードは、並外れている。それに、奴は目がいいっ!」

 兵団長等は零を追う形となり、既に包囲は機能しなくなった。


 そこで初めて、応手から転じ零から攻撃を仕掛けた。突然の転換に兵団長等に動揺が走り、けれど咄嗟に動きを切り替えられず零へと向かってきた。零は、ルークス・グラディウスの柄の底近くを片手で握り身を沈ませるように地を蹴り、高速で走り寄る二人の間を独楽のように身体を回し素早い跳躍ですり抜け、右側の兵団長を柄の底を持つことでリーチを伸ばし回転により威力を増した斬撃で沈めた。同時ステップを踏み、左斜め後ろへ身を捻りつつ跳躍。もう一人の背後から斬りつけ、地に倒す。

 連続で二人。六人目。残り二人。


 それを見たオーレリアンが目を剝き、恥辱に満ちた怒号を上げる。

「己っ! 六合。ソルダ技を使った痕跡が感じられぬ。ウェアすら使わぬとは、我らを愚弄しているのかっ?」

「ウェアは、使わないんじゃなくて使えないんだよ。便利だよな、あれ。パワー、スピード、耐久はおろか反射神経、視力、聴力といった全てを向上させる。俺はさ、ソルダ技のストレングス、アジリティ、ディフェンスを使ってパワー、スピード、耐久を個別に向上させられるけど、グレード全てをやろうとすると秘超理力(スーパーフォース)が暴走しちまうんだ。ウェア以外なら、平行使用はできるけど。ま、空間把握(スペース)くらいは使うが、この決闘で攻撃に目に見えて分かるソルダ技を使う気はないんだ。逆らうべきじゃないって、理解して欲しいから。地力で倒させて貰う」

 残り二人になったところで立ち止まり慎重になった残敵と向き合う形で零も足を止め、オーレリアンがぶつけてきた怒りにやや自嘲気味に、けれど白状するような口調で挑発した。


 屈辱に面を歪ませながらもオーレリアンは、囮兵団群の兵団長の中では頭一つ抜きん出た実力者としての矜持を見せる。

「確かに、貴様は強い。キャバリアーとして生まれ持った才に恵まれている。少なくともソルダ諸元(スペツク)は、第二エクエスB以上。そして、先ほど見せた変則的な剣から窺える鍛え上げた戦闘技術。それだけで我らを翻弄する。残念ながら、我等の中では格上の存在だ。兵団群などに居ることが、場違いの。が、従うわけには行かぬ。無謀を是とすることは、同じ死ぬ定めであろうと選べば恥。死後、愚かと誹られるだけだ」

「それは、おまえの勘違いだ。無謀? 成功の見込みはかなり高い。おまえに勝って囮兵団群を従えガーライル基地を奪還し生き残り、そう教えてやる」

「抜かせっ! 行け、ライルっ!」

 零に応じるオーレリアンはいきり立ち、握るルークス・グラディウスの光剣を消し零へ向け差し出すように構え光粒子(フォトン)の光弾を連射した。


 キャバリアー同士の決闘の名誉をかなぐり捨てた科学兵装に頼った攻撃に、残る兵団長ライルはおうと応じ零へと地を蹴り跳躍し迫った。

 光弾をルークス・グラディウスの角度を微妙に、けれど、徒人には捉えられぬほど高速に動かし捌く零にはそれらの動きは緩慢であって、どうということはなかった。キャバリアー同士の戦いで、干渉し合う力が相殺し互いに未来予知(プレコグニシヨン)を使えなかろうと。


 ライルとの接敵間際、零の身体が蜃気楼のようにその場から消え次の瞬間ライルは地を滑り転がり、オーレリアンがはっとなった時には、零は既に跳躍しており彼を上から見下ろしていた。

 七人目。残るは一人。


 ムーブを使用せぬ山なりに進む自然落下に任せた零が、向けられた光弾を捌きつつオーレリアンへと迫り、当初零のソルダ技で機動を制御せぬ動きに好機(チヤンス)と青色の双眸に確信を強め光弾の連射を強めたが、単純な放物線を描く的を仕留められず間近へ迫られたとき面を驚愕に変えていた。光弾を抜け様、零は袈裟懸けにルークス・グラディウスを振り抜き着地。数歩前へ出たとき、ドサリと地にオーレリアンが斃れる音を零は背後に聞いた。

 八人目。最後の一人が降された。

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