第3章 犠牲の軍隊後編 9
輸送型機械兵ユニットから降りる零達を数人と出迎えた囮兵団群の主将格を務めるオリーブグリーン色の外骨格スーツを纏った兵団長オーレリアン・ド・ラングランが、ブレイズの姿を認め壮年の深みがある面を笑ませ駆け寄り声を励ます。
「本兵団群は全滅とドゥポン兵団群長から聞き及んでいたが、リュトヴッツ殿が健在であったとは重畳。敵支配域惑星上の出来事。誤認をしたのだろう。して、本兵団群の生き残りは如何ほどか?」
「生き残りは俺達だけで……その……ご期待に添えず済んません」
他軍から己が属した軍勢の生存を問われ、やや俯き己が無事を恥じるようにマーキュリーへ視線を遣りつつ恐縮し答えるブレイズの背後から、厳格さを装った零が労るような声音で割り込む。
「ラングラン殿。ブレイズは、俺達と合流を果たした時にはおめおめ一人生き延びたことを恥じ失意のどん底だった。元気づけるのに酷い手間で、やっと前向きな行動が出来るようになったところ。だから、あまり触れないでやって欲しい。乾ききらぬ傷口に、塩を塗り込むようなものだ。な、ブレイズ?」
振り向いたブレイズの藍色の双眸には零がでっち上げた憐憫を誘うお涙頂戴話への怒りが浮かんでいたが、仏頂面で話を合わせる。
「お、おお。あのときのことを思い出すと、俺は自分の不甲斐なさが情けな――」
「六合殿! それにリザーランド卿ではありませんか。生きてはおるまいと思っていましたが……では、この兵団は決死隊? 既に全滅したものと決め込んでいたが、まさか生き残っていたとは。本兵団群は全滅し、懲罰部隊と陽動である我ら囮兵団群が生き残るとは何たる皮肉」
かけられた声に零と隣のエレノアを見たオーレリアンは呆気に取られ幽霊でも見るような目つきだったが、俄にはっとなり面に悲壮が滲んだ。
応じる零はブレイズの横へ並び、相手を安心させるような落ち着きを見せる。
「このとおり。地上攻略本兵団群は全滅し、グラディアート兵団群は退き艦隊は後退した。敵地に取り残された現状に、生き残りは協力し合うべきだと愚考し合流させていただいた」
「ラングラン卿も無事な様子で何より。我々は、今後どうするべきか早急に協議する必要がある。場を設けて貰いたいが」
紅の洗練された騎士甲冑に身を包む優雅で凜々しい出で立ちのエレノアが歩み寄ると、この場に集う外骨格スーツに身を包む大半との格の違いが自然と際立った。打ち合わせ通りに。
エレノアを視界に捉えると、沈鬱だったオーレリアンの銅色の双眸に一瞬羨望にも似た生気が宿る。
「この窮状、如何ともしがたい。が、座して滅びを待つのは武人の名折れ。せめて一矢でも報い、最後の花道を飾りたい。そこに名花が添えられるのは、大いなる慰め。孤立無援の味方同士。共に死出に旅立つなら、存分に語り合いましょう」




